中国養老年金保険の危機は一触即発

2005/05/24 更新: 2005/05/24

【大紀元日本5月24日】中国政府が忙しく“反日”ムードの収拾に努め、国民党連戦主席が“高級統一戦線の象徴(中文:高級統戦物件)”として中国各地を漫遊していたとき、中国経済の2大内憂がついに露呈した。その一つが、都市労働者の養老年金に係る政府の積立不足が1兆元に上ることが明らかになったことで、人々は、中国に養老年金の危機が迫っていることをはっきりと認識した。もう一つは、上海の不動産市場がここ10日余りで急変し、住宅価格が暴落し、外資が表に進出する一方、実質的に撤退して物件を売り抜け、市場のパニックを惹起している。しかし、これは中国不動産市場というドミノの一枚目が倒れただけであり、凶兆の始まりにすぎないのである。

本文では、現在迫りつつある中国養老保険の危機を紹介するに留めたい。

社会保険の積み立て不足はどれだけあるのか?

まず、崩壊寸前の社会保険体制が直面してる危機がどの程度のものなのかを見ていく。全国社会保障基金理事会の理事長・項懐誠(前財政部長)が、最近数多くの講演において、社会保障基金の不足額は既に1兆元にも上っている(表1)と、公に認めている。

表1 中国政府の労働者養老年金の積立不足の推移

  年         金額

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 1997年     140億元

 1998年     450億元

 1999年     1,000億元

 2004年9月   6,000億元

 2005年4月   1兆元

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(出典)1997年~1999年の数字:《経済研究》2001年第5期、孫祁祥;2004年9月の数字:《人民日報》2004年9月21日。2005年の数字:項懐誠の講話、新華社2005年4月22日

表1から分かることは、全国の退職者に係る養老年金の積み立て不足が、驚異的なペースで増加していることである。1997年から現在まで、中国経済は引き続き高速発展期にあり、2004年のGDP総額は13兆6515億元、全国の財政収入は、2兆6356億元、支出額は2兆8361億元、財政赤字は2005億元であった。こうした状況の下で、政府がこれだけ巨額の積立不足を抱えていては、労働者に養老年金を支給する術はない。これは、養老年金の積立不足が償還不能の国家債務になることを意味している。

しかし、ここで論ずるのは、養老年金保険の加入者人口の問題に留めておきたい。中国の社会保険には深刻な問題がもう一つ存在する。それは、社会保険のカバレッジが狭すぎることである。

“シルバー産業”は夢だった

中国の“シルバー産業”について、外国の投資家はかつて無限の幻想を抱いていた。彼らは、これが無尽蔵なビジネスチャンスの宝庫と考えていた。アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)とプルデンシャルグループが2004年に調査を行い、予想に完全に反する研究報告《シルバー中国――中国高齢者政策に係る人口・経済分析》を発表した。報告によると、絶対的な数からみて、現在訪れようとしている中国の高齢化の勢いには目を見張るものがある:現在、60歳以上の老人は1.3億人で、世界の老人人口の5分の1、中国国内の総人口の10.2%を占めている。現在の人口変化の趨勢が続くならば、中国の老人の総数は3.97億人となり、現在のフランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリスの合計を上回る。しかし、中国は、高齢化の到来に向けた準備を全くしていない。現在、中国が実施している養老年金制度は、全労働力人口のうち、たったの25%しかカバーしていない。このうち、基本養老年金が15%、公務員系統が3%、農村系統が7%となっている。

この報告が発表される前、多くの投資家が、中国で老人の消費に関連する事業、例えば老人ホーム、老人向けマンション、老人向け医療保険、老人家庭の世話といった事業を行うことを希望していた。しかし、この報告が発表されると、海外の投資家に対し、中国の老人に係る基本養老年金ですら問題になっていることが明らかになり、“シルバー産業”に投資しようという主張は、影も形もなくなった。

カバレッジは一体どれだけあるのか?

しかし、プルデンシャルの《シルバー中国》の推計した25%というカバレッジは数字が大きすぎる。項懐誠の明らかにした資料によると、中国の基本養老年金のカバレッジは労働力人口の15%(1550万人)に達していない。一方、世界の養老年金制度の平均カバー率は労働力人口の33%であり、中国だけが世界水準の半分に達していないのである。

中国の統計資料を読むのは非常に骨の折れる作業で、研究者が、毎年の関連資料を集めてトレースする研究をするのも容易ではない。中国労働・社会保障部の発表した資料によると、1996年6月末の時点で、中国の労働者の76.9%、離退職者の94.7%が社会保険に加入しており(新華社1996年8月6日)、2003年末の時点で、全国の養老年金保険加入者は1,55億人(《経済観察報》2004年5月9日)であった。この数字と項徳懐が最近発表した1550万という数字の差は実に大きい。項の発表した数字は、2003年に中国労働・社会保障部が発表した数字の10分の1しかなかったのである。

ここには一つの説明しかできない。それは、中国の社会保障体制が有名無実となっているということである。養老年金保険の加入者数は1.55億人であるが、このうち多くの“個人口座”が名義だけのもので、中にお金は入っていない。業界関係者はこの現象を“空口座”と呼んでおり、項懐誠が発表した1550万人の口座には一定の金額が支給されている。表1から分かることは、“空口座”の規模が年を追うごとに拡大しているということであり、その拡大のペースと規模は大きな不安を与えるもので、これらの数字の真実性を思わず疑ってしまう。例えば、2004年9月における中国養老年金の空口座の規模は6000億であったが、8ヶ月後になると、さらに4000億元も増加しており、このペースはやや速すぎる。“よいことだけを知らせ、都合の悪いことは知らせない”中国政府の官僚の原則に基づくならば、項懐誠がこうした政府の短所を多めに暴露することはありえない。よって、6000億元という数字は少なめに出した数字であると断定せざるをえないが、次に、この1兆元が真の数字であると誰が保証できようか?

こうした状況は、中国では“養老保険の危機”と呼ばれている。養老年金の給付状況から見るに、90年代後半から現在にかけて、全国の企業養老年金もまた、“空口座操業”の下で支出超過となっており、かつ年度赤字の規模も継続して拡大しており、政府の財政による補助に依存せざるを得ない。資料によると、2002年において、中央財政から408.82億元の補助がなされた。

さらに失望的なことに、中国の官僚が高度に腐敗しており、“養生のためのお金”と呼ばれる養老年金の資金が、少数の官僚によって流用または職権による横領されるという事態が度々発生している。一部の地域では、退職者が予定どおりに給付を受けるために、主管者に対して“心付け”を送らなければならない。

保険料を納入しない農民と農民出稼ぎ労働者

以上において、都市労働者の養老年金のみを論じてきたが、問題が更に大きいのは中国の農村である。表2は、農村人口に係る養老年金の状況を示したものである。

表2 中国に係る養老年金保険の概況

 年  カバー県・市  加入者(万人) 対農村人口比 基金総額(億元) 一人当たり給付額

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1998  2,123    8,025     9.2%      31.4         39元

2003  1,870    5,428     6.03%     259          447元

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 (出典)1998年の数字:梅志罡《我が国農村社会の社会福祉発展史における理論と現実の境遇を論ず》、中国農村研究ネット。http://www.ccrs.org.cn,2004年5月19日;2003年の数字:《中国における社会保障の状況と政策》白書に掲載された数字より計算。この白書は、中国国務院が2004年9月7日に発行したものである。

表2は、二つの大きな問題を明らかにしている。一つは、農村社会における養老年金のカバー率が低いことで、もう一つは、その給付水準が低すぎることである。2003年末時点で、中国の1870の県(市、区)において農村社会養老年金保険が設立されており、198万人が養老年金の受給を開始したが、加入者人口の3.6%を占めるにすぎない。ある人の指摘によると、農村社会養老年金保険は、拠出要件を満たした農家のみの参加を奨励している。このため、養老年金保険が創設されているのは、そのほとんどが、比較的発展した農村地区であり、加入者もまた、全てが富裕な農民である。一方、老後において困難に直面する未発展の農村地区及び貧困農民には拠出する力がない。こうした“富者を保護して貧者を保護しない”現象は、中国の農村における社会養老年金保険制度の陥穽である。

このほか、の2.5億人の農村出稼ぎ労働者にも養老年金保険が適用されない。統計によると、中国における農村出稼ぎ労働者は年を追って増加しており、1994年に6000万人であったものが、2000年には8840万人、2003年には1.14億人となっている。しかし、四川省重慶市○(其の下に糸)江県の私営企業家馮秀が個人的な出費で、全国を対象として半年間実施した“農民出稼ぎ労働者の養老保険問題に関する調査”によると、郷鎮企業で働いている者を含めると、農村出稼ぎ労働者は2.5億人になるが、この大きなグループにはいかなる老後の保障も存在しない。

崩壊した農村医療保険

養老年金保険は、中国の社会保障システムの直面している困難の一つにすぎない。社会保障における3大保険(養老年金、失業保険、医療保険)のうち、失業保険は、現在のところ国有企業の労働者のみをカバーしており、非国有企業の労働者、出稼ぎ労働者など、本当に保障が必要な弱者グループは除外されている。このため、中国の研究者は、失業保険を“労働力の強者クラブ”と呼んでいる。

医療保険のカバー率は養老年金保険よりも低い。労働・社会保証部の統計資料によると、2003年末時点における全国の医療保険加入者は都市人口の20%しかなく、農村において合作医療保障の適用を受けられるのは、農村人口の10%に満たない。

さらに深刻なのは、社会保険の潜在力がほぼ尽きてしまっているということである。調査資料によると、養老年金、医療、失業の3つの社会保険につき、中国の多くの地域において、雇用側の納付する保険料が賃金総額の30%、個人側においても賃金の10%に達している。これらの数字は、明らかに世界の多くの国や地区の負担水準を上回っている。過度に高い負担率は企業の雇用コストと利益水準に影響を与えるため、多くの企業が様々なやり方で保険への参加を回避しようとする。そして、収支のバランスを維持するため、政府はさらに負担率を引き上げざるを得なくなる。このような過度の徴収と負担の回避によって、中国の書く社会保険制度の運営が悪循環に陥っている。

すきま風だらけのぼろ壁

上述した社会保険体制には、中国の最も悲惨なグループは含まれていない。この他に、膨大な最下層の貧困者が存在している。2003年末時点で、最低生活保障金を受給している都市住民は2247万人で、その金額は毎月一人当たり58元、ドル換算で7ドルである(《中国における社会保障の状況と政策》)。

“生存之民工”というテレビドラマは、中国の最下層にある民衆の苦しさを真に映し出したものである。出稼ぎ労働者達は、すきま風だらけの簡素な小屋にひしめき合って暮らし、摂る食事は最も粗末なものである。仕事環境に尊厳と言えるものはなく、血と汗の代償として得た賃金は常に社長にピンハネされ、自分の正当な賃金を要求すれば、社長が飼い慣らした闇社会の手によって暴行を受ける。彼らは、始終辛苦な時を過ごし、最後に夫婦、そして兄弟がお互いを守り合う力がないのである。宣伝部の審査をクリアするため、政治上の配慮から、ドラマの結末は、艱難辛苦の末にわずかの賃金を取り返すことになっている。しかし、ドラマを見れば、これが世界2位のGDP、アメリカを追う軍備量を擁し、平和を求めていると称する中国の民衆の生活であると誰も信じることができない。悲しいことに、このドラマが映し出しているのは、まさに数億人にも上る中国最下層の民衆の現実なのである。

中国政府は“和諧社会”を建設すると称しているが、老後の生活手段や貧しい者に対する補助のない社会と和諧社会との間の格差は実に膨大である。明らかなのは、空しいスローガンを叫ぶだけでは、“和諧社会”はやってこないということである。

(Taiwan News財経文化週刊より)
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