【大紀元日本8月19日】先月、中国の現行の医療制度に関する二つの報告が相次いで発表された。その一つは衛生部長・高強氏が、北京の情況報告会で行った「医療衛生事業の発展は社会主義と和諧(調和)社会に貢献する」と題する報告であった。もう一つは、国務院発展研究センター及びWHOの共同課題チームが発表した「中国医療衛生体制改革」と題する研究報告であった。これら二つの報告にはいずれも中国政府が参画している。しかし、中国における過去27年の医療衛生制度改革に対して彼らが下した総体的な評価は、まったく相反するものであった。
高強氏の報告では、「中国の衛生事業には大きな変化があり、世の中が注目するほどの成果を収めた」と述べられている。一方、政府が半分関った後者の研究では、「総体的に、成功ではなかった」という見解が示されている。おそらく大多数の中国民衆は、こちらの批判的な報告の方に賛成するはずである。なぜなら、中国の医療、教育、年金支出は、既に彼らの日常生活を圧迫する「3つの大きな課題」となっているからである。
中国一般民衆の、医療衛生制度問題に対する怒りは今に始まったことではない。彼らの怒りは主として次の2点、①治療を受けるのが難しい②治療費が高いことである。
①の原因は、現在の資源配分が非合理的であることによる。中国における医療衛生構造は逆ピラミッド型になっている。ハイテク、優秀な医療スタッフは、基本的に都市部の大病院に集中する一方、農村、都市コミュニティにおいては合格レベルといえるスタッフが不足しており、一部の都市の中・小規模の病院においてさえ、レベルの高い医者は不足している。農村や地方の都市コミュニティで医者、薬に事欠くという局面が形成されている。一般の民衆は病気に罹っても、近所で有効な診療を受けることは難しく、遠く離れた大病院へ行かなければならない。
②の原因は、間違った医療改革の指導、及び医療衛生に携わるスタッフに道徳心が欠如していることである。中国の医療改革は経済改革の市場化に倣って行われ、病院は他の企業のような、営利機関に成り下がってしまった。また、社会全体の道徳通念も失われているという背景のもと、多くの医療スタッフは死にかかっている者を救い、負傷者を世話するという神聖な職責よりも、自らの収入を増やすことを優先としている。この二つの要素が直接的に医療費の上昇をもたらしている。中国衛生部が2004年末に発表した調査によると、過去5年間、都市住民、農村住民の年間平均収入はそれぞれ8・9%、2・4%増加したが、医療支出はそれぞれ13・5%、11・8%の増加であった。
医療費が高騰する一方、中国には全国民を対象とする医療保険制度が存在していない。2003年に実施された第3次衛生サービス調査の結果によると、城鎮(都市、農村部の町。非農業人口の居住区。)人口の45%、農村人口の79%には何の医療保障もなく、基本的に自費で病気の治療を行っている。こうした状況のもと、病気に罹った民衆は、生活、心理、経済の三つの負担を抱えることになる。一般民衆の多くは、高医療費を支出するために他の生活支出を切り下げるか、病院に門前払いされるかのどちらかである。中国政府によるもう一つの調査によると、中国においては診療を受けるべき人の50%、入院すべき人の30%が、経済的な要因で治療を放棄せざるを得ないという。
治療を受けるのが難しいこと、治療費が高いことで被害を受けるのは、主として農村地区及び貧困層である。高強氏の報告では、中国人口の予想寿命の伸びが、中国医療衛生事業の主要な成果の一つであるとしている。しかし、予想寿命については、経済発展を遂げた豊かな沿海都市地域と、貧しい西部農村地域との間には巨大な格差があるという点が見落とされている。
中国衛生部の傘下にある衛生統計・情報センターは、2004年に、人口の死亡年齢及び予想寿命の調査を行った。調査は、平均収入の水準に応じ、中国の市、区、県が7つのグループに分類されて行われた。その結果、最貧地区グループの予想平均寿命は、最富裕地区グループのそれに比べて20年短いということであった。
中国における医療衛生制度では、地域による人材・資源の偏りが世界でも稀に見るほど高い。2000年に、WHOは加盟国の衛生に係る資金調達及び分配の公平性について調査を実施した。この調査結果では、中国は188位であり、加盟国191カ国のうち、下から4番目であった。しかし、中国の貧富の差が、世界でもトップクラスであることを考えると、この結果も驚くにあたらないだろう。