【大紀元日本8月21日】2005年末から2006年の始めにわたり、上海市の全小中学・約1800校に配布されたDVD版歴史教材を、このたび入手した。
DVDの名称は『偉大なる勝利――中国人民の抗日戦争、および世界反ファシズム闘争勝利60周年・大型展覧会を記念して――』(原語は北京語・筆者訳)。2005年夏、共産党・上海市委員会宣伝部が主催した展覧会を、関連機関の上海東方宣伝教育服務中心(以降『東宣教』)がDVD化したもの。もともと共産党員向けの歴史教材であるが、上海市政府の強い推奨も受けており、教員を中心に党員の多い小中学校へも配布された。
『東宣教』関係者によると、DVDは4枚シリーズの4枚目で、3枚目である「永遠の記念」――上海解放55周年記念――とともに、配布された。先行して出版された1、2枚目は、2004年に上海におき開催された“井岡山精神・大展覧会”及び“西柏坡精神・展覧会”のDVDで、いずれも共産党員の“先進性”を確保する目標の下に、共産党やその偉大な功績を紹介したものだ。
展覧会『偉大なる勝利』が開催されたのは2005年8月から9月の21日間で、のべ17万人が見学に訪れたという。DVDに、党幹部が拳を振りかざして叫ぶ、いわゆる古典的な共産党の姿はない。計8部からなる展覧内容の紹介、見学者のインタビューや陳良宇・元上海市長ほか共産党要人の見学の様子、館内ガイドを務めた若者たちの研修の風景などを軽快に綴った、43分の長さの作品である。
使用された写真は計300枚以上、多くが出版物上や、中国各地の歴史資料館などで見られるものだ。共産党の闘士も数多く登場するが、蒋介石率いる国民党の功績も紹介するなど、冷静に史実を述べている印象だ。日本軍の悪行を紹介する第4部に悲壮な響きの音楽を登用した以外はすべて軽快な音楽に終始、「歴史を鏡として未来へと進む」と題された最終部は、名曲“オリーブの首飾り”で爽やかに締めくくっている。
DVDは、展覧会の展覧内容に沿い、満州事変から日中戦争に至るまでを紹介する第一部から始まり、第二部におき盧溝橋事件および国共合作、そして抗日戦争における中国共産党の英雄的活躍を讃える第三部へと続く。第四部「日本軍の残虐行為、悲惨さ極める」(原語:日軍暴行惨絶人寰)においては52枚の写真を使用し、日本軍の悪行をくまなく紹介している。
『極東国際軍事裁判の認定によると、一ヶ月におよぶ日本軍の南京攻撃・占領期間中、2万件の強姦事件が発生した。』――第四部は、悲しみにくれる婦人の写真と、このような字幕で始まる。その後「撃たれ、焼かれ、埋められて死んだ中国同胞は30万人」という解説付きで、生き埋めにされる男性らの写真も登場するが、これは日本においては複数の研究者により、合成された写真と指摘されたものだ。
「百人斬り“超記録”――向井106-105野田――両少尉さらに延長戦」の大きな見出しや、軍刀を携えた日本兵二人の勇姿からなる、戦中の東京日日新聞の記事も登場。ほか、日本軍が多くの民間人を殺害したとされる平頂山(遼寧省)や承徳(河北省)における事件、重慶爆撃の犠牲者、龍尾山(遼寧省)で殺害されたとされる幼児の遺体の山などなど、遺体づくしだ。また、アヘンの畑や専売所など、日本が中国人をアヘン漬けにすべく企んだとする写真、日本軍が定めた「慰安所規定」や“列をつくって慰安所に入る日本兵”なども映し出されている。
第五部におき、日本の侵略に対する民族的抵抗、第六部におきソ連や米国から得た国際的支援と続き、第七部においては中国を含む連合軍の反攻と戦争の終結を紹介、A級戦犯14名とともに“靖国神社”が最初で最後の短い登場をする。
最終章の第八部においては、国交正常化(1972年)や_deng_小平の天皇との会見(1978年)など日中関係の構築、北京におけるオリンピック開催の決定やWTOへの加入など、自らの国際化など戦後の取り組みを手短に紹介、胡錦涛・国家主席の言葉をもち「歴史を鏡とし、平和な未来を築く」決意を表明している。
「未来の発展のためにこそ、歴史を胸に刻むべき」とは、元上海市長で上海共産党のトップ・陳良宇(当時)がインタビューに応えDVD中で述べた言葉だ。歴史から学ぶことの重要性は万国万民の認めるところであるが、国外では学術的説明が難しくなりつつある「南京大虐殺の被害者30万人」説や、遺体づくしの写真が教材として適切かは疑問である。また、小中学校への配布に関しても議論の余地がある。
もっとも『東宣教』関係者によると、DVDの配布に付随し何らかの教育プログラムが準備された訳ではない。「そもそも反響が出るようなジャンルではない」(関係者)と、反響がないのも「想定内」の模様。DVDを受け取った上海の小中学校が真剣に生徒に見せたかを含め、その効果の程は分っていない。