【大紀元日本5月3日】今年3月以来、中国共産党政権によるチベット弾圧が激化している。そのようななか、4月30日、東京・憲政記念館大会議室において「中国の人権状況を考えるシンポジウム」が開催された。
今回のシンポジウムは真・保守政策研究会(会長・中川昭一衆議院議員)の主催で、テンジン・テトン氏(元チベット亡命政府主席大臣兼外務大臣 在米国)とドルクン・エイサ氏(世界ウイグル人会議事務局長 在ドイツ)の2氏が証言者として海外から招かれた。
また、ぺマ・ギャルポ氏(桐蔭横浜大学教授)水谷尚子氏(中央大学講師)寺中誠氏(アムネスティインターナショナル日本事務局長)櫻井よしこ氏(評論家)の専門家・著名人4氏がコメンティターとして参加し、いま世界で巻き起こりつつある中国の人権迫害への批判と連動しながら、日本が国家としていかなる対応をとるべきかについて活発な議論が交わされた。
はじめに、開会の挨拶として真保守政策研究会会長で自民党衆議院議員・中川昭一氏が次のように述べた。
「先日の中国共産党政権によるチベット弾圧以来、緊張が高まっている。このような状況のもとでは、北京五輪が正しくできるのか危惧される。今回のシンポジウムには、公平を期すために、中国大使館にも案内を出したが欠席だった」
続いてテンジン・テトン氏は、次のように証言した。
「この50年間、チベット問題は忘れ去られて『死に体』になっていたが、最近また注目されてきた。チベットがどうなるかは、中国がどうなるかにつながる。私たちの『兄弟』であるウイグル人、そして今日はここに来なかったが、モンゴル人とともに考えていきたい。この50年間、中共はチベットを支配したがチベット人の心までは支配できなかった。今回の3月10日の抗議は、残酷な拷問を覚悟しての命懸けのものである。チベット難民は世界で15万人と多くないが、少しでもいる国では抗議活動をしている。日本の皆さんに感謝したい。チベット人は決して諦めてはいない。あくまでも平和的手段によって、自決権を取り戻していく。日本の皆さんにも、チベットと日本がその価値観・文化について、あるいは人種的にも極めて親しいことに共鳴していただけると思う。また、歴史的に事実として、チベットが第二次大戦中も中立を通したことを知っていただきたい」
チベット弾圧問題を証言するテンジン・テトン氏(大紀元)
司会者の「チベットではどのような残虐行為がおこなわれているか」という質問に、テトン氏は次のように答えた。
「中共は情報封鎖をしているが、現在は携帯電話などの通信手段があるので、さまざまな情報が入ってくる。中共の弾圧によって死亡した人は、中共当局の発表は15人であるが、私たちが確認できた数だけでも150人にものぼる。今も残酷な拷問がおこなわれていることは間違いない。一例を述べると、これは私のニューヨークの友人が得た情報だが、ラサの市外に火葬場があって、そこへ毎日トラックで山のような死体が運び込まれているということだ」
続いて、ドルクン・エイサ氏が次のように証言した。
「本日、日本の皆さんにお話できることを嬉しく思う。私の祖国の正式名は東トルキスタンで、今の中国の5分の1を占める。チベットより2年早く、1949年に中共の侵略を受けた。この59年間、ウイグル人は平和的に訴え続けてきたが、すべて中共の暴力でつぶされてきた。特に最近は、その暴力が一層激しくなった。いまウイグル人は、文化的にだけでなく、まさに民族存亡の危機に直面している。中共は55年に新疆ウイグル自治区を作ったが、それは紙上のもので、自治を実感したことは全くない。米国の9,11以来、世界では反イスラムの風潮が高まっているが、私たちウイグル人もイスラム教なので、中共はそれを利用して私たちにテロリストのレッテルを貼ろうとしている。五輪に向けて人権状況の改善どころか、まったく反対に、今までにない惨劇を受けている。3月のチベット弾圧の直後から、東トルキスタンでも軍事管制がひかれた。3月23日と24日に、ホータン(和田)でウイグルの女性が平和的デモをおこなって政治犯の釈放を求めたが、中共の暴力によってつぶされ、今も700人の女性が拘束されたままである。カシュガルやその他の町でも同じく、何の証拠もなく、家の中にいきなり入り込んできて拘束している。町と町との間には検問所を設けて、厳しい検査をする。1997年に民主化要求のデモが起こったが、そのとき約300人が銃殺された。毎年その悲劇を追悼するため、ある人の家に集まっていたが、ある時、そこを警察が襲って18人を銃殺したという情報が入っている。ウイグル人は国外へ出るパスポートを入手するのが極めて難しく、以前に持っていた人はパスポートを没収されている。五輪前のいま中共はテロを警戒しているが、一方では、テロまがいのことが起きることを期待している。そのパフォーマンスとして、バス爆破などの情報を自分で流して自分で否定している。中共は、海外で活動する私たちをテロリストだと決め付けて、早く中国に返せといっている。東トルキスタンは資源が豊富であるが、その資源は何一つ現地のために使われることはない。宗教の自由も全くない。18歳未満はモスクへいけない。学校の授業はすべて漢語で、ウイグル語は一切使えない。ウイグルの歴史関係の書籍も、見つかり次第取り上げて焼いてしまう。一人っ子政策を極めて乱暴に実施する一方、漢族を大量に移民させている。出産1月前のウイグル人の妊婦を強制堕胎させて、子どもも母親も死んだ。15歳から25歳の若いウイグル人女性を、就職のためという理由で、強制的に中国内地へ移住させている。彼女たちは15時間労働で、給料は1000元と言われていたが実際は300元しかもらっていない。中共は、64年から東トルキスタンで46回の原爆実験をおこなっているが、その被爆被害のため20万人のウイグル人が死亡。生まれる子どもも障害を持っている。私は、ウルムチの新疆大学の学生だったときに、原爆実験停止を求めて平和的デモをおこなったが、それが罪となってしまった。日本の皆さんは原爆の悲惨さをよくご存知だと思う。ウイグル人も同じだ。しかし、ウイグル人は希望を失っていない」
ウイグル弾圧について証言するドルクン・エイサ氏(大紀元)
続いて、コメンティター4氏の発言に移り、ぺマ・ギャルポ氏は次のように述べた。
「証言者のお二人、ありがとうございます。この問題は、五輪が終わったからといって終わる問題ではない。中共は、ダライラマと対話する、などというが、それは一時的なごまかしであろう。チベットは今、食料や医療品が不足して非常に危険な状態にある。五輪に向けて人権状況が改善された事実など全くない。8000万人の人を殺した毛沢東の写真の前で、五輪の行進などしたら次の人類への恥になる。罪もなく囚われているチベット人・ウイグル人そして中国人も釈放されるべきだ。ダライラマ法王は『真の自治』を言われている。独立派とは必ずしも同じ考えではないが、真の自由なくして自治はない。今この瞬間もたくさんの人が殺されている。私たちは『真の人民解放軍』となっていきたい」
ぺマ氏の最後の言葉に、会場内から大きな拍手が起こった。続いて、ウイグル研究の専門家・水谷尚子氏が次のように述べた。
「東トルキスタンの情報は得にくいため、日本のマスコミは中国当局の発表をそのままニュースに流してしまうことが多い。遠い昔は別として、現在、武装闘争を考えているウイグル人は皆無である。酔客を飛行機から下ろしたことはあったが、それがテロ未遂だとは思えない。ウイグル人への搭乗前の検査は非常に厳しい。イスラム解放党の拠点はウズベキスタンにあって、ウイグル人と関係している事実はない。海外から中国国内へテロを操っていることは、私の調査からしても考えられない。現地で抗議活動があったとしても、それは江戸時代の農民一揆のようなもので、中共が自分を正当化するため大げさに言っているだけだ。日本政府はもっと亡命者を受け入れてほしい。彼らが持ってくる情報は貴重である。日本人こそ、漢人に語りかける『仲介者』になってほしい」
次に、寺中誠氏は次のように発言した。
「チベットの人権弾圧は氷山の一角である。五輪前に人権状況を改善するという公約は、一切守られていない。むしろ五輪を理由にして、よけいに人権弾圧をおこなっている。中共は拷問の『先進国』であり、その方法はあまりにもひどい。1998年、ウイグル人で東大大学院生だったトフティ・テュニヤズさんが、一時帰国中にウイグルの歴史資料をコピーしただけで罪となり、11年の懲役が課せられた。刑期は来年終わるが、家族がいる日本に戻ってこれるか分らない。日本政府は彼を受け入れる度量を持つべきだ。中国では3万人の職員が常時ウェブサイトを監視しており、違反者を見せしめに逮捕している。それは、国家機密の漏洩を防止するためではなく、中共に異論を唱えることを取り締まっているのである。中国に対して、しっかり物申す日本であってほしい」
コメンティターの最後に、櫻井よしこ氏が次のように述べた。
「チベットでは伝統的に『活仏』として次の後継者が選ばれる。しかし、今のパンチェンラマは中共が選んだものだ。95年にダライラマ法王さまが選んだニマ少年は、全く消息不明になっている。今パンチェンラマがいることは報道されないではないか、と中共は言うが、この『壮大な皮肉』に私たちは気づかなければならない。五輪前に人権状況を改善するという約束は、全く守られていない。中共は2007年9月、『チベット仏教活仏転生管理規制』という法律を制定した。つまり『活仏』の認定を中共による許可制にしたというのだ。まさに笑止千万。噴飯ものである。これは国際社会への背信であり、五輪への侮辱である。戦後の日本文化否定を経験した日本人の私たちが、これを見過ごすことはできない。中共は、五輪と政治は別である、と言っているが、歴史を見れば中共自身が五輪を政治化していることは明白であり、あまりにも白々しい言い訳である。日本は本当に大国として、世界に範を示していかなければならない。日本の武器は武力ではなく、人権・自由・文化などの価値観である。そのことによって日本が世界のリーダーになれる。5月6日に来る胡錦濤さんを歓迎するためにも、それが政治である以上、福田総理は五輪開会式に出席なさるべきではない。出席するにしても、人権改善に著しい成果が見えてから前向きに検討します、と言うべきだ。これは、チベット・ウイグル・中国だけでなく、日本の運命もかかっていることだ」
櫻井よしこ氏の発言に対し、会場は盛大な拍手をもって応えた。
寺中氏の発言のなかで触れられたトフティ・テュ二ヤズさんの妻であるラビヤ・トフティさんも、このシンポジウムに出席していた。夫が不当逮捕されてから10年、日本で二人の子どもを女手ひとつで育ててきたラビヤさんは、客席から次のように述べた。
「夫は東大を卒業する直前に3週間帰国して、自分の研究につかう歴史資料をコピーしたため中国の公安に拉致されました。裁判でついた弁護士も政府の人でした。国家分裂煽動罪と国家秘密漏洩罪で、12年の判決でした。来年2月に刑務所を出ますが、出たあとどうなるのか、どういう精神状態になっているのか、とても心配です。日本の皆さん、来年2月どうか力を貸してください」
シンポジウムの最後に、主催者を代表して真・保守政策研究会最高顧問で衆議院議員の平沼赳夫氏が次のように総括した。
「大変貴重な話を伺った。チベットそしてウイグルでは、50年にもわたって文化そして民族そのものが抹殺されようとしている。先日の長野では、日本の警察が中国人の暴行を現行犯逮捕できなかった。中国は顔で微笑しながら、東シナ海の四つの油田を押さえている。私たち日本人は、心を一つにしてしっかりと対処しなければならない」
参加者のなかには、安倍晋三前総理・麻生太郎元外相など著名政治家が多数出席していた。約300席の会場は満員で、立ち見の参加者に加えて報道各社が客席の周囲を埋め尽くし、終始熱気の中で重厚な議論がおこなわれた。