【大紀元日本10月7日】当事国同士で解決すべきだと主張する中国と、米の協力の下、ASEANの枠組み内で解決を図りたい米国との間で、早くも新たな火花が散った。
10月4日、ハリー・トマス駐比(フィリピン)米大使は記者会見で、中国とベトナム、フィリピンが領有権を争う南シナ海と南海(スプラトリー諸島)を巡る紛争について、「地域の安定と航海の自由を保障すべきだ」と発言した。中国とASEAN(東南アジア諸国連盟)の間で2002年に交わした「南シナ海における関係国行動宣言」を、法的な拘束力のある行動規範に発展させるべきだと指摘している。ASEANが目指す法的拘束力のある「南シナ海における行動規範」の策定を支援する方針を示した。7月にハノイで、南シナ海における米国の国益を強調するクリントン米国務長官の発言に続き、南シナ海での影響力を強めている中国をけん制する米国の姿勢を見せている。
南シナ海問題の国際化を恐れる中国
南シナ海問題において衝突を避け、中立の立場を保つと強調した同大使の発言に、中国駐比大使館は同日、南シナ海の領土争議は、中国と主権争議を提出した当事国の間で解決すべきだと声明を発表した。
米スタンフォード大学、東南アジア問題専門家のドナルド・エマーソン教授は、中国駐比大使館の声明は、ASEANの集団枠組の中での会談を避けたく、南シナ海問題の国際化を拒む中国の立場を示している、と米VOAの取材に対してコメントした。
中国国内メディアが10月3日、「中国は新たな方式で南シナ海紛争の解決を試みる」と題する記事を掲載し、中国はすでに当事国と同問題の解決を図るための話し合いを行っており、来月にも、より強い制裁内容が盛り込まれる新たな行動規範が制定されるよう動き出していると報道している。
同報道で、2002年に中国とASEANの間で交わした「南シナ海における関係国行動宣言」の趣旨は、南シナ海問題の国際化を避けることにあるという中国の楊潔篪(ヤン・ジエチー)外相の発言を強調した。南シナ海問題は中国とASEANとの間の問題ではなく、領土問題の当事国のみとの交渉にすべきであるという立場を主張すると同時に、米国は南シナ海問題を国際化させようとしていると批判した。
中国:「南シナ海の開発は今後の重点」
南シナ海に豊富な石油、天然ガスが埋蔵していることから、中国をはじめとする周辺諸国は主権をめぐって紛争を続けてきた。中国石油最大手の一つである中国海洋石油総公司によると、中国海域総面積の4分の1を占める南シナ海に230億トンの石油が埋蔵されていることが確認されており、「第二のペルシャ湾」と呼ばれている。さらに、中国の石油・天然ガス使用量の半数を超える天然ガスも埋蔵されているという。
「南シナ海の開発は今後の重点になるに違いない」と同社の李緒宣・チーフエンジニアが中国国内メディアの取材に対して語り、資源確保が急務な中国にとって何としても南シナ海の資源開発権を手に入れたいという姿勢を示した。
「米中海洋戦争の幕開け」
一方、米国にとって、アジアと世界の他地域を結ぶ重要航路でもある南シナ海で紛争が解決されない限り、航海の自由と通商が保障されないと懸念している。7月23日、ベトナム・ハノイのASEAN地域フォーラム(ARF)に出席したクリントン米国務長官は、「米国は南シナ海でのアジアの海洋公共財への自由なアクセス、航海の自由、国際法の遵守について国益を持っている」と発言して、南シナ海での影響力を高めている中国をけん制した。
香港月刊誌「争鳴」最新号に、「米中海洋戦争の時代がやってきた」と題する記事が掲載された。南シナ海での航行の自由に関するクリントン国務長官の発言は、むこう数十年のアジア政治情勢を決める戦いがすでに幕を開け、米中が海洋を争奪する時代が正式に始まったことを意味すると述べている。また、8月10日には、米国のイージス駆逐艦がベトナムのダナン港に入港し、宿敵であったベトナムと軍事交流を行ったことから、南シナ海問題では中国は唯一の強国ではないというメッセージを中国に送ったものと見ている。
今年3月上旬に戴秉国国務委員が、訪中した米スタインバーグ国務副長官とベーダー国家安全保障会議アジア上級部長に対し、南シナ海は中国の領土保全などに関わる「核心的利益」に属するとの新方針を伝達していた。同発言について、エマーソン教授は、問題に対する中国の関心度の高さを示したと分析し、「中国が南シナ海問題を台湾やチベット問題と同レベルの核心的利益に見なしてしまえば、交渉する余地がなくなるのではないか」と見ている。