【大紀元日本10月29日】米国の大富豪ビル・ゲーツ氏と ウォーレン・バフェット氏は、中国からの帰りのフライトで首を傾げていた。なぜ、中国の富豪が誰ひとりとして慈善事業への寄付に関心を寄せなかったのだろうか。
両氏はこのほど、「寄付の誓約」という 企画を発足した。米国の富豪を対象とし、財産を慈善事業に寄付することを誓約してもらうことを主旨とする。これまで、米国では40人の大富豪が、自己資産の半分以上を寄付すると誓約している。
米フォーブス誌の統計によると、昨年、資産総額が10億ドルを超した中国の大富豪は64人に達し、米国に継ぐ世界2位の座を占める。両氏が中国の大富豪を自分たちの企画に招こうと意図した理由も頷ける。
しかし、両氏が9月30日に企画したチャリティー・パーティーへの反応は冷ややかだった。事前に新華社の取材に応じ、9月末の中国訪問の目的は、成功した中国の実業家や慈善家と交流するためと説明し、今回のチャリティー・パーティでは、中国の大富豪に寄付を呼びかけないことを強調しなければならなかった。
日米両国の大富豪の慈善活動に対する温度差の背景にあるものは何だろうか。歴史的観点、王朝と現代中国の違い、現代中国の富豪の面から探ってみた。
中国の慈善事業の歴史
中国にとってチャリティーは全く新しい発想ではない。中国文化での慈善事業は、2000年前に遡る。漢の時代、そして唐の時代の最初の200年間、仏教や道教では慈善博愛の精神が実践されていた。
宋 ・元 の時代以降は、慈善事業は王朝が賄うようになったが、アヘン戦争(1839−1842年)の後、朝廷の財政からは慈善事業を賄うことができなくなり、民間の慈善事業が重要な役割を果たすようになる。
1876年の干ばつの後、現代の慈善事業の形式が生まれる。清の時代、西洋化の波に乗り財産を築いた富豪たちが、チャリティーの主流となったのだ。清朝が滅びた後、西洋の伝道師の助けで、民間の慈善事業が成熟する。
千年にわたり、地元の有力者は、常に教育、道路建設、架橋に貢献してきた。善行は、生まれ変わったときの次の世のための徳を積むと考えられてきたからだ。1876年の干ばつのの時に設立された慈善事業には、道徳教育も伴っていた。王朝の弾圧があった期間を除いて、中国の歴史の中で、宗教が最も重要な役割を果たしてきたからだ。
残念ながら、この伝統は、1949年、中国共産党が本土の政権を握った時に、終わってしまった。伝道師が導いた慈善事業は、「西洋の帝国主義の文化的侵略」と批判された。民間の慈善事業に寄付をするもののほとんどは、共産革命の敵とみなされ、国民軍とともに台湾に逃亡した者以外は、殺害・投獄された。中国共産党とそのリーダーだけが、中国国民の救世主であり、誰もこの「栄光」を分かつことは許されなかった。
30年前の経済改革は、多くの中国人にとって、特に目新しいことではなかった。西洋の資本主義の発想であり、中国共産党が中国政権を握る前の状態に時計を後戻りさせたに過ぎなかった。経済改革は、中国語で「縛られていた手をほどく」とも表現されている。
現代の中国では、資本主義の復活より、チャリティーを復興させることの方がはるかに複雑だ。
皇帝の恩寵 対 中国共産党の強要
王朝が慈善事業を完全に賄っていた 宋 ・元の時代、またほとんどを賄っていた明・清の時代は、皇帝の恩寵として扱われた。皇帝以外の者が寄贈者として認められることはなかったが、 慈善事業に使われる資金に対する責務を負っていた。
現代の中国では、災難があると、国家(中国共産党)が市民や事業に寄付を強要する。自分たちを寄贈者とするだけでなく、その寄付金を使用する権利も持つ。
青海地震の42日後にあたる5月27日、国務院は、該当する中央機関、赤十字、中国慈善事業基金に対して、全ての通貨による寄付を青海省にまわすことを命じた。全ての資金は、復興のために青海省の役人が使うということだった。
さらに40日後、政府5省が資金譲渡の詳細を通知してきた。国家レベルの慈善事業機関全てにあたる13の機関は、青海省民生局、中国赤十字、中国チャリティー基金のいずれかに寄付の全額を譲渡すること。この決定は中国での慈善事業に関わるもの全てに波紋を起こし、今でも討議が続いている。
中国政権は、災害救済のための寄付金に関して、透明性と信頼性に欠ける。北京の清華大学のデン・グオシェン(Deng Guosheng)氏の調査によると、四川省地震の救済金の80%以上が、ようやく中央政府、省、地方レベルに届き、国家予算の一部に組み込まれたという。
非営利機関に求められる資金面の透明性は、中国政府の手にかかったら皆無となる。中国の国家予算は国家機密とみなされる場合もあるからだ。2001年、4人の移民が、 三峡ダムの建設のため立ち退きする4人が、 国家機密を香港のメディアに流したとして投獄された。その「国家機密」とは、再定住のために受け取るはずになっていたが、支払われていない金額だった。
災害の救済は、国家の主な機能の一つとして、税金で賄われるべきだ。寄付金を要求されることは、まるで 税金を2回支払っているようなものだ。そして、国家予算になってしまうと、自分の寄付金が何に使われたのかを知る由もない。
現在の中国では、民間の慈善事業団体の設立を認可していない。非営利機関は国家機関の傘下として登録しなければならない。つまり、官営慈善事業というわけだ。
官営慈善事業は独立性に欠け、集めた資金を事業が望む機関に支給できない。
アクション俳優のジェット・リーが設立した壹基金がこの問題に直面している。中国赤十字の傘下で登録されているため、集めた資金は全て中国赤十字のものとなる。独立した口座も印章もない。 2007年に設立した壹基金の中国赤十字との3年契約は今年末に終了する。 ジェット・リーは活動中断の可能性を示唆している。
中国の富豪とは?
中国社会科学院財貿研究所の曹(Cao Jianhai)所長は、中国の富豪を次の5つに分けている。(1)政界の有力者のもとに生まれた小君子(2)草の根を分けて財をなした富豪(3)ハイテクで財を得た富豪(4)外資系企業の代表(5)芸能人。
最初のグループは、政治的権力を握る。残りの4つのグループは政治的権力に依存しなければならない。
この最初のグループの小君子たちは、最も富裕だが最も知られていない。小さな社会で交流し、自分たちの財産を一般に示すことはない。長者番付に名前が載ることは一切ない。
彼らは、国家は自分たちに属するものだと見なしている。「チャリティー」も「慈善事業」も彼らの辞書にはない。人から搾取するだけで、人に与えることはない。親の七光りで富豪になれた。2007年のFar Eastern Economic Review(極東経済評論)に掲載された記事によると、2006年3月末の段階で、1億元(1500万ドル)以上の資産家は、3220人。そのうちの2932人は小君子たちだという。90パーセント以上を占めるわけだ。
他の4つのグループ、特に草の根グループは、下層から這い上がってきた者だ。しかし、現代の中国では、法に準じていたら財産は築けない。政治家の子息でない限り、危ない綱をわたって歩くしかないのだ。
法の網にかからないように、これらの富裕者にとって、共産党や国家の高官との関係が大切だ。時には「謝礼」などを掴ませ、私腹を肥やさせる。草の根グループは、一歩でも間違いを犯すと、全財産、自由、時には命をも失う。
中国の長者番付「胡潤百富」に載った富豪者のうち、17人が起訴され、裁判にかけられ、投獄されている。そのうちのひとり、ウ・イン(Wu Ying)氏は2009年12月に処刑された。また、GOMEグループのフアン・グアンユ(Huang Guangyu)氏は14年の刑に服している。
自力で這い上がった草の根グループが寄付に躊躇する理由に、いつ自分の身に難が降り掛かるかもしれないという事情も挙げられる。