【大紀元日本1月26日】トレードマークのポーカーフェイスもどこへ行ったやら。演奏終了後、満面笑みの胡錦濤主席はピアニストを抱きしめた。それもそのはず。19日にホワイトハウスで開かれた胡主席の歓迎晩餐会で、中国人ピアニストの郎朗(ラン・ラン)さんが演奏した曲が、中国人なら誰でも知っている反米愛国曲だったからだ。ただの無知による選曲ミスだったのか、それとも政治的な「弦外の音」が潜んでいたのか、胡主席訪米の幕が降ろされた今でもその不調和音が鳴り響く。
「我的祖国(我が祖国)」と題するこの曲は、朝鮮戦争をテーマとした中国映画の代表作『上甘嶺』の挿入曲で、「抗米援朝」のシンボルソングとして広く知られている。「友人が来るなら、いいお酒で招待する。オオカミが来るなら、猟銃が待っている」と誰もが口ずさめるこの曲の歌詞は、アメリカ軍(オオカミ)を威嚇し、中国を賛美する内容だった。
タイトルの「上甘嶺」の戦いは朝鮮戦争でもっとも惨烈な戦いとされており、米中両国の戦士1万2千人がこの戦いで命を落としている。中国ではこの戦いを中国の「抗米援朝」における勝利のシンボルと称え、「愛国教育」の一環として歌や映画、文学作品で大いに宣伝してきた。
そんな反米愛国曲がホワイトハウスで演奏されたことから、国内外でたちまち大きな「反響」を呼んだ。演奏した郎朗さんは、この曲の選曲は自らが行ったと話しており、自身のブログでこの日の演奏について、「中国人の心の中で、最も美しい歌のひとつ『我的祖国』を演奏した。多くの賓客、特に、多くの元首の前で中国を賛美するこの楽曲を演奏することで、彼らに中国の強大さと中国人の団結を示せたようで、とても光栄に思う」などと述べていた。
しかし、選曲が問題視されてから、郎朗さんはフェイスブックで、「曲が持つメロディと情感、そして中国人がよく知っているという理由で選んだだけ。その他の要素は関係ない」と釈明した。
中国国内では、今回の選曲を「愛国的」と絶賛する意見が多いなか、「『礼儀の邦(礼儀正しい国)』と自称しているのに、外交上の無知無礼を世界にさらした」「逆の立場だったら、中国政府と国民の反応はどうなるのか」「上甘嶺はどんな映画なのか知らない人はいない。朗朗さんも知っているはずだ。知りながらもそれを選曲したなら、彼の動機と知性を疑うしかない。そして本当に彼が知らないとすれば、中国の(愛国)教育が失敗しているとしか言いようがない」という理性的な意見も上がっている。
一方、今回の選曲に政治的意図が窺えると分析する専門家もいる。故・趙紫陽元総書記のシンクタンクを務めた、有名な学者・程暁農氏は、「当局は朗朗さんの演奏曲を事前に知らないわけはない」とコメントしている。米国在住の中国民主活動家・魏京生氏は、この件についてオバマ大統領とクリントン国務長官宛に公開書簡を発表し、胡主席を「老練な独裁者」と批判した上で、したたかな中国当局が意図的にこの一幕を演じ、何も知らないオバマ大統領を笑い者にし、アメリカに恥をかかせたと指摘する。
実際、中国当局はこれまでも米大統領の訪中に際し小細工し
、国民の前でアメリカを愚弄し、自らの面子を立てようとしてきた。1972年、ニクソン元大統領が中国を訪問した際に撮影されたこの写真は、以来約40年間、中国外交上の歴史的勝利を象徴する写真として、各種のメディアに使われてきた。「ほらね、ニクソンさんは一生懸命腕を伸ばしているだろう。これはアメリカが我々を追い求めてきたということよ」と中国の子どもたちは教わってきた。
また、オバマ大統領が2009年の訪中で故宮を訪れた際、中国国営テレビCCTVは、大統領が「順貞門」という出口を利用したと報じていたが、実は大統領が利用したのはすべての観光客が必ず通る「神武門」だった。単なる出口というだけでも、「神武」という立派な言葉を大統領に使うのを嫌い、「順貞」という意味深長な言葉にすり替えたとみられる。