何清漣:世界の中国語メディアの政治構図

2011/02/23 更新: 2011/02/23

【大紀元日本2月23日】ここ2日間でもっとも驚いたニュースは、米国VOAの中国語ラジオ報道が停止されるかもしれないということです。中国当局が国際社会での声を強めるために、巨額の資金を投じて「対外宣伝の大計画」を推進している最中に、この動きがあったため、「中国人権」(本部・ニューヨーク)でのある研究プロジェクトを紹介する必要性を感じました。いまの世界各地の中国語メディアの政治的構図を人々に伝えなければならないのです。

中国当局はこれまでずっと次のような認識を持っていました。「国際社会での発言権の分配は非常に不均衡である。80%の情報が欧米メディアに独占されている」。中国当局は改革開放で経済力を築いてから、出資や直接投資などの形で中国語メディアや中国語学校を作りはじめ、各種の華僑団体の結成をも促し、これらをイデオロギー宣伝の主要道具として駆使しています。しかも、中国当局はこの三者を「三つの宝」と称して、3年前から、「対外宣伝の大計画」を大々的かつ全面的に推進しはじめました。同計画は中国語、英語(他の言語をも含む)の2大部分に分けられ、潤沢な資金を後ろ盾に着実に進められています。

香港と台湾の中国語メディアは非常に多くて、中国当局は異なる方式で支配を試みています。ここでは、香港・台湾以外の海外の中国語メディアに対する中国当局のコントロールの手法を紹介します。

中国当局による海外の中国語メディアへの浸透は1990年代半ばから始まりました。2001年11月21日、米国のジェームスタウン財団はその会報誌、チャイナ・ブリーフ(China Brief)で、「中国当局はどうやって米国の中国語メディアをコントロールしているのか」と題する文章を掲載しました。同文章は次のことを明確に指摘しました。

「中国当局は多大な努力を費やして国外の中国語メディアに浸透しようとしている。その主要な策略は、メディアへの株式投資、中国国内でのビジネス利益の供与、工作員の潜入です。多くの中国語メディアは買収されてしまい、中国当局の機嫌を損なうのを恐れるため、中国に関する報道がますます中国国内メディアに歩み寄り、文字表現もより中国当局の言い方に似てきています」

同文章によれば、当時の米国の主要な中国語メディアは「世界日報」「星島日報」「明報」「僑報」の数社であり、その発行総数は約70万部だが、皆中国当局の直接あるいは間接的な支配を受けています。中国当局の「金銭戦略」は功を奏して、結局、国外の中国語メディアの多くはますます報道自由の軌道から外れて、中国に関する報道はますます欧米主流メディアの理念と背反するようになっています。

今世紀半ばから、中国当局はさらに巧妙な支配・浸透の策略を講じました。前述の手法のほか、世界各国の中国語メディアに各種の交流と集まりのプラットフォームを提供して、浸透と支配を一層強化しています。この種のプラットフォームは主に2種類に分けられます。

1.国際社会の中国語メディアに交流のプラットフォームを提供する。

2002年、北京大学は世界各国の中国語メディアを研究する機構を立ち上げました。その目的は、「国内外の研究の資源を収集すること」。同機構は対外国宣伝を担う政府機関やマスコミ、国外の中国語メディアとその提携団体「世界華人報業協会」などと緊密なつながりと協力関係を築いており、各種の交流活動を主催したり、国内外の中国語メディアの協力と業務の拡大に「対策と研究情報」を提供したり、「世界中国語メディアの年鑑」を共同制作したりしています。

では、国外の中国語メディアの責任者は、このプラットフォームでいったいどのような研究成果を発表しているのでしょうか。大多数は国際社会に中国(すなわち中国当局)の声を伝えたり、世界各国の中国語メディアの経験談であたっりします。たとえば、米国の中国語雑誌「彼岸」の副編集長が書いた「中国語メディアの米国での作為および中国国内メディアとの提携」などの文章で、一部の文章はタイトルから「独立に反対し統一を推進する、それを宣伝・促進するのは国外の中国語メディアの光栄なる使命である」などの内容となっています。

2.定期的に世界各国の中国語マスコミのシンポジウムと各種の研修活動を主催し、これらの中国語メディアの従業者を特訓する。

2001年9月に第一回目の世界中国語メディアのシンポジウムを開いてから、2009年までに5回ほど開催しました。毎回、参加する世界各国の中国語メディアは数百社に達しています。「中新社」の社長・郭招金氏は、この種のシンポジウムの目的は「世界に自分たちの声を発すること」と明言しました。参加者たちも自分たちの役割をはっきりとわかっています。

ある人は、「このような酒池肉林に浸って娯楽と拍手とフラッシュに包まれて、演説あり総括あり、資料・プレゼント・歓迎・送別ありの大会は、まさに典型的な中国式のバザーであり、海外の華僑にとつて確かに楽しいのです」と参加の感想を語りした。

主催者の目的は参加者を丸め込むことであり、参加者はいかに自己をアピールして、大勢の人の中でいかに中国当局に注目され重視されるかを考え、より多くの資源を得ることを狙っています」

また、中国国務院の「華僑弁公室」の主催で、2006年から国外の中国語メディアを対象とした各種の研修活動も展開され、2010年までに計6回開かれました。フランスや、英国、米国、ブラジル、南アフリカ、豪州、フィリピンなどの5大陸の100近い国の中国語メディアの代表がこの種の「集団研修活動」に参加しました。中国当局の目的は非常に明確です。すなわち、国外の中国語メディアの責任者に中国で「充電させる」ことであり、研修では毎回、メディアを統制する当局機関の幹部の講義が欠かさずあります。

新聞メディアのほか、中国当局はラジオやテレビにも浸透しており、米国現地の中国語ラジオ、テレビをコントロールしています。中国当局の機関メディア「中央電視台」の第9チャンネルの英語番組(CCTV-9)は、24時間フルタイムで、米国のAOLタイムワーナー社のケーブルテレビを通して、ニューヨークやロサンゼルス、ヒューストンで放送されています。CCTVとAOLタイムワーナー社との協議の結果です。同プロジェクトがスタートして以来、AOLタイムワーナー社傘下のCNNの中国当局への態度が180度変わりました。

確かに、中国当局による国外の中国語メディアへのコントロール戦略はとても効果的です。中国で大型のイベントがあるとき、国外の中国語メディアは非常に積極的に宣伝して中国当局に協力しています。

たとえば、北京五輪の前には、当局の五輪組織委員会は2007年11月に駐ニューヨークの中国総領事館に中国語メディアを集めました。中共中央政治局の委員、北京市共産党委員会の書記、北京五輪組織委員会の劉淇氏が同会合で、五輪関連報道のガイドラインを通達しました。第17回党大会の開催時も、多くの中国語メディアが競って宣伝協力し、当局機関の「国家新聞弁公室」が高く評価しました。

世界の中国語メディアは、赤色またはピンク色に染まっています(編集者注:中国共産党政権の代表色は赤色)。香港と台湾のメディアは、中国当局にさまざまな手法で浸透されており、報道の自由度は年々後退しています。世界各国の中国語メディアもとっくに中国共産党に前述の各手法で丸め込まれています。

今となっては、中立の立場を堅持して一定規模を持つ中国語メディアはVOA、BBC、ラジオ自由アジア(RFA)などの数社しかありません。その他の少数の、中国当局に異議を呈する中国語サイトはその内容が限られているため、公共メディアというより、同じ志を持つ人々の議論のプラットフォームに過ぎません。

中国当局が凄まじい剣幕で中国語メディアへの支配を進めているこの時勢に、VOA、BBCなどのメディアの中国語ラジオ・テレビ放送を中止させるのは、中国当局にコントロールされていない、中国語自由報道の最後の領域を自ら放棄してしまうことになります。これは非理性的な決断であり、全世界の民主化事業の推進に害をもたらし、中国の人権・民主事業をも放棄してしまうことになります。

(翻訳編集・叶子)

何清漣:ニューヨーク在住の中国人経済学者・ジャーナリスト。54歳、女性。中国湖南省生まれ。混迷を深める現代中国の動向を語るうえで欠かすことのできないキーパーソンのひとりである。中国では大学教師や、深セン市共産党委員会の幹部、メディア記者などを務めていた。中国当局の問題点を鋭く指摘する言論を貫き、知識人層から圧倒的な支持を得たが、諜報機関による常時の監視、尾行、家宅侵入などを受けていたため、2001年に中国から米国に渡った。1998年に出版した著書『現代化的陥穽』は政治経済学の視点から中国社会の構造的病弊と腐敗の根源を探る一冊である。邦題は『中国現代化の落とし穴』。

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