【大紀元日本6月11日】内モンゴル自治区シリンゴル地区の裁判所は8日、炭鉱開発に抗議したモンゴル族の遊牧民をトラックでひき殺したとして、故意殺人罪に問われた漢族の運転手の男に死刑、助手席の男に無期懲役をそれぞれ言い渡した。5月27日から、同自治区で相次ぎ発生したモンゴル族による大規模な抗議事件は、この殺害事件が引き金となっている。専門家は、判決はモンゴル族の怒りを一時的に沈静化させることはできるが、モンゴル族と漢族の民族間の対立が抗議の本質的な原因であり、中国当局はこの問題を解決する意欲も手立てもないため、今後も同自治区での抗議活動が絶えない、との見方を示した。
内モンゴル自治区は中国最大規模の石炭やレアアース(希土類)の産地であり、漢族による大規模な採掘が盛んに行われている。デモの発端となった事件はこれに抗議した遊牧民に関係する。5月10日、西ウジュムチン旗に住むモンゴル族男性・莫日根さんは、自家の草原を昼夜問わず無断で走行する漢族の石炭運搬トラックが、草原の自然環境を破壊しているとして阻止したところ、トラックの運転手が故意にトラックで莫さんをひき殺した。
この事件が発生した後、同自治区内ではモンゴル族による大規模な抗議活動が相次ぎ発生し、当局の炭鉱開発による環境破壊や現地遊牧民の権益への侵害を訴えた。今回のスピーディな判決はそういった不満と怒りをなだめ、抗議の拡大を阻止する狙いがあるとみられる。
一方、ニューヨークにある南モンゴル人権情報センターの代表エンフバト氏は、今回の判決は公平のように見えるが、本質的な問題を解決していないと指摘した。同氏は米国VOAの取材で、次のように見解を示した。
「これは一般的な刑事案件ではなく、その根源は根深い民族間の対立問題である。少数民族への差別と敵視にはまったく触れられていない。今回の事件で、運転手は殺人の前に公然とこのような暴言を吐いた。『くずモンゴル人をひき殺しても、せいぜい40万元(約500万円)払えばチャラにできる』。モンゴル人への深い敵視と差別感情は明らかだ。このことについて、法廷ではまったく触れなかった。なぜならば、言及すれば民族間の対立の問題に拡大するからだ」
『北京の春』編集長・胡平氏(米国在住)はラジオ自由アジア(RFA)に寄せた評論で次のように分析している。「近年、内モンゴルの経済発展は主に、炭鉱への略奪かつ破壊的な採掘に頼っている。それにより、当局の権力者が莫大な富を築けたが、草原の自然環境が急激に悪化した。元々水が豊富で草が青々と生えていた草原は砂漠化してしまっている。遊牧民であるモンゴル人の生存方式に脅威がもたらされているが、経済発展の利益が分配されていない。それが今回の一連の大規模な抗議が発生した要因である」
内モンゴル在住の匿名の知識人はRFAの取材に対して、「民族間の対立は長期的に蓄積されてきた問題である。内モンゴルの自然環境の破壊問題、経済発展における現地遊牧民族への利益分配の問題、民族の自治の実現など、これらの問題を解決しなければならない」と指摘した。
南モンゴル人権情報センターのエンフバト代表は、「問題のカギは、中国当局によるモンゴル族への民族政策である。過去60年間、モンゴル人は自分たちの土地で圧制を受け続けてきた。長年蓄積してきた当局への不満があるため、今回のような抗議はこれからも頻繁に発生するであろう。しかも規模がさらに拡大するはずだ」と述べた。
「最近数日間、内モンゴル地区の情勢は一見落ち着いているようにみえる。地区全体に厳重な軍事警戒が敷かれているため、抗議活動を行うのは物理的に困難であるからだ。今回の判決で抗議活動が沈静化しても、一時的であろう。根本的な問題が解決されていないからだ」と同氏は話した。
中国国内で長年弁護士や裁判官を務めていた香港中文大学の王友金・教授は米VOAの取材で見解を示した。「内モンゴルでの今回の民族間衝突は氷山の一角に過ぎない。中国当局が積極的にその民族政策を緩和しなければ、将来、さらなる大規模な民族衝突が発生するだろう」
RFAは専門家らの大筋の見解として、「今回の死刑判決は同自治区での抗議事件が、数年前のチベットとウイグル自治区での騒乱のように発展するのを防ぐための対策だ」と報じた。