中国人民銀行(中央銀行)は13日、9月末時点の広義マネーサプライ(M2)は前年同期比で14.8%増の94兆3700億元(約1180兆億円)で、狭義マネーサプライ(M1)は同7.3%増の28兆6800億元(約359兆円)となったと発表した。9月のM2伸び率は、中国政府が今年初めに設定した2012年のM2伸び率目標である14%をはじめて上回った。中国政府は物価上昇圧力を抑制する狙いで、M2伸び率目標を昨年の16%から引き下げた。
2011年の中国の名目国内総生産(GDP)は約47兆元(約588兆円)であるため、9月末時点のM2の対GDP比率(マーシャルK)は約200%に達している。先進国のM2の対GDP比率は一般的に100%以下に維持されており、比率が比較的高い新興国においても平均に100%から150%の間で推移している。中国が突出的に高いのは、明らかに人民銀行が市場に過剰な通貨供給をしていることを示している。
しかし、人民銀行の周小川総裁はこのほど、同行が主管する研究雑誌『金融研究』第9期に発表した『金融危機における救済問題に関する論争』を題にした論文において、印刷された紙幣の量からみると、中国は経済成長による通貨供給への需要に合わせて、基本的に事前に設定した、かつ比較的安定したペースで通貨供給を行っているため、印刷した紙幣の量はそれほど多くないし、過剰な供給もしていないと主張した。
在米中国経済専門家の謝田氏は大紀元(中国語版)の取材に対し、「周総裁の主張は、共産党政権が過剰な通貨供給をもたらした諸問題の責任から逃れようとしていることを表している。また、周総裁の発言から、人民銀行が景気を刺激するためにさらなる大規模な紙幣増刷を行う準備をしているように読みとれる」と述べた。
「真の中国インフレ統計データをみる際、中国政府の公表したデータを参考にしてはいけない。海外の独立研究機関のデータしか参考にできない。実際に近年中国の消費者物価(CPI)上昇率が2ケタも続いていたのも、ほかならないこの莫大な通貨供給量にある。現在、中国経済成長の鈍化が深刻化している。しかし、中国は完全な市場経済国家ではないので、政策金利の引き下げだけでは景気を刺激できない。そのために紙幣増刷の方法しか採れないのだ」と謝氏は分析した。さらに、「このほど、政府公表のCPI上昇率が下落しているが、実際のところ、国民は依然として物価上昇していると感じている」と指摘した。
国家統計局は15日、9月のCPI指数は前年同期比で1.9%上昇したと発表した。8月の上昇率である2.0%から下落した。その内訳をみると、食品価格は同2.5%、非食品価格は同1.7%、消費品価格は同1.7%、サービス価格は同2.3%とそれぞれ上昇。また、食品価格について、食肉価格が前年同期比で6.0%下落した一方で、野菜価格は同11%、果物は同7.2%、水産物は同4.%、穀物は同3.7%、食用油などの価格は4.1%上昇。
多くの専門家は9月のCPI上昇率が、今年3月に中国政府が制定した目標である4%以下に抑えられているため、景気を刺激するためにさらなる緩和政策を打ち出す余地ができたとの見方をしている。
中国の膨大なマネーサプライについて、国内の一部の専門家は警戒している。中国経済研究センターの余勝海・研究員は8月、ミニブログ・微博において、「中国のマネーサプライは1990年の約1兆5300億元に対して、2011年には85兆1600億元となった。21年間に59倍も急増した。米国政府はマネーサプライの供給量はGDPの70%を上回ってはいけないと定めている。しかし、中国は現在ですでに200%以上となっている。2008年以前のマネーサプライは40兆元余りだったが、今年6月末時点では90兆元を突破した。これでは、インフレ圧力がますます緩和できず、資産バブルが大きくなる一方だ。過剰な資金供給を抑えなければ、積み重ねる問題がますます多くなる」と警告した。