中国の労働教養所(Getty Images)
【大紀元日本1月8日】中国の司法・公安を統括する共産党中央政法委員会のトップ・孟建柱書記は7日に開かれた幹部会議で、年内の「労働教養制度」廃止を明らかにした。裁判なしで最長4年間、市民を拘束し強制労働を課すことのできる同制度は、法輪功学習者や陳情者、人権活動家などを弾圧・迫害する手段として使われてきた。
発言が抹消されるか?水面下の戦い
孟書記の発言は7日午後、中国中央テレビ(CCTV)の公式微博(ミニブログ)で発信された。「今朝の全国政法工作会議で孟建柱書記は、中央が討議した結果、全人代常務委の承認を経て、今年中に労働教養制度を廃止することを決定したと発表した」。この情報は瞬く間にネット上に広まり、新華社の公式微博や網易、騰訊、新浪などの大手ポータルサイトにも次々と掲載された。
だが、情報の拡散を追う形で、取り下げ作業も進められている。8日現在、中国国内サイトのほとんどは、タイトルは検索エンジンに残るものの、記事にはアクセスできない状態になっている。
メディアのこういった動きは、労働教養制度の廃止をめぐって上層部が交戦している構図を浮き彫りにした。孟書記の発言と同じ日、習近平総書記は同政法委のテレビ会議で、司法・公安は「人民の公共安全、司法公正、権益保障に対する新たな期待に答えなければならない」と述べ、「平安中国・法治中国」の建設を全力で推進すべきだと強調した。これは先日、習氏の「憲政の夢」を称えた改革派紙・南方週末がすり替えられた事件の後、習氏がもう一度、法治の実現を明言したもので、孟氏の労働教養廃止発言とも足並みがそろっている。
一方で、メディアに取り下げを命じるのは共産党中央宣伝部。同部の前トップは、最高指導部となる政治局常務委員に昇進したばかりの劉雲山氏。さらに、宣伝部の上位に位置する中央精神文明建設指導委員会を長年取り仕切ってきたのは前常務委員の李長春氏。両者とも江沢民氏が率いる保守派の重鎮として知られる。
今年に入ってから南方週末のすり替え事件のほか、改革派の雑誌として知られる炎黄春秋のウェブサイトも閉鎖された。同誌の杜導正社長は6日、新唐人テレビの取材に対して、保守派の劉雲山氏は習氏と「反対の論調」を唱えているとの見方を示した。「劉氏は先日の宣伝部長会議で依然として思想の統一を強調し、その政治理念は習氏とは正反対だ」。劉氏らによる一連のメディア統制は「逆戻りで間違った力の間違った行為だ」と杜氏は批判した。
早められた「廃止」
習氏が掲げる「憲政の夢」「法治の実現」と、それに反する論調との新年早々の交戦は、労働教養制度の廃止決定を早めたとの情報もある。大紀元が共産党中央の事務機構となる中央弁公庁に近い消息筋から入手した情報によると、公安部はもともと、年内に労働教養を漸次廃止する方案を提出し、2014年からの2年間で「内部管理の過度期」を経て徐々に同制度を廃止することになっていた。だが、先週末、中央弁公庁は突如、「過度期なしで、今年中に廃止する」との指示を出したという。同筋は、この指示は習氏の意思であり、自身の法治実現の主張が保守派に封じられたため、習氏が反撃に出たと見ている。
労働教養制度の廃止はかつてから求められている。習体制に入って、この動きがいっそう活発化。昨年12月4日、社会問題専門家で北京理工大学の胡星斗教授をはじめとする69人の学者が共同で、全人代常務委と国務院あてに、同制度の廃止を求める建議書を提出した。また、今月の3日には、北京大学法学院の姜明安教授は検察日報に投書し、労働教養の司法化を求めている。
労働教養制度の悪行
この悪名高い労働教養制度は毛沢東時代の1957年、旧ソ連から導入。裁判所の判断を経ずに、実質的な懲役刑を課すことができるという人権侵害の象徴として批判されてきた。警察の手に握られたこの「無法地帯」の存在は、習氏が唱える法治の実現とは矛盾した存在で、その廃止を通じ、習氏は自ら定めた目標に近付こうとしているとみられる。
胡星斗教授は7日のボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対し、労働教養制度の下で迫害を受けた中国人は数百万に上ると証言。「この制度が存在する限り、すべての中国人は、恐怖に落とされる可能性がある」
この恐怖は、政法部門を10年間にわたって君臨してきた前政法委トップの周永康氏によっていっそう増幅させられてきた。周氏の下で、警察権力が暴走し、異見者への迫害は残酷さを極めた。中国紙によると、2012年の1年間で約6万人が専用施設で強制労働や「思想教育」を受けており、この6万人の中に、法輪功学習者、陳情者、人権活動家が含まれている。彼らが施設の中で暴行や拷問を日常的に受けていることはこれまでも度々証言されてきた。
同制度が廃止されれば、周氏やその後ろ盾となる江沢民ら保守派が同制度を利用して行った悪行も表面化する。これは保守派が懸命に習氏の法治実現をけん制する要因でもある。一方で、習氏がもし、江一派の毒巣をえぐり出し得たならば、共産党政権の微妙な権力バランスが崩れることになり、これは最終的に共産党の解体につながりうると在米の中国問題専門家・石臧山氏は分析する。