「中国では、土地の強制収用は地方政権にとって一番良い資金の回収方法」。米国の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は冒頭のように伝え、運営の難しさが垣間見える中国の地方事情を強制収用に遭った2世帯の境遇を通じて報じている。
南部の江蘇省無錫市在住の中年女性・徐海風さんは、廃墟となった自宅跡地に訪れた。もくもくと作業をすすめる建設現場労働者の姿を見ながら、VOA記者に自身の苦を訴えた。
「自宅の強制取り壊しの通告を受けたその日から、私たち夫婦に対する闇組織の嫌がらせは絶えなかった。二人ともボコボコに殴られて大けがしたが、公安警察は捜査するどころか通報さえも無視した」
徐さんの話では、当局から支払われた土地の買取金は、新居を購入する資金の約4分の1だという。「住宅を買う金もない、もう住む所もない」とやるせなさを呟いた。
取り壊された徐さんの自宅とその周辺には、豪邸と高級ホテルの建設が急ピッチに進んでいる。徐さんたちにとっては、手の届かない無縁のものだ。
収用に辺り、中央当局に直訴を試みてきた徐さんは18回も地方当局に連れ戻され、窓もない部屋に監禁されたという。
同市在住の40歳の呉軍さんも、収用に反対し直訴を続けてきたうちの一人だ。呉さんは「地方政府にとって土地は金のなる木だ。財政が赤字になると自転車操業のように、土地を売却してはピンチをしのぐ」と地方財政の裏を語った。
中国では2人のような土地の強制収用の被害者は大勢いる。多くは直訴を試み、全国各地の地方裁判所は多くの訴状を受理してきた。VOAは「解決に至る件はごくわずかで、官と民の対立がますます激しくなり悪循環に陥っている」と分析する。
土地収用をめぐる抗争は中国各地で普遍的に起きている。なかには住民が境遇の苦を訴えるために焼身自殺を図るケースもあり、究極的な方法を取らざるを得ないほど民衆の不満は鬱積している。