中国の農地強制収用 農民の「血と涙の物語」=ニューヨーク・タイムズ紙

2013/10/04 更新: 2013/10/04

【大紀元日本10月4日】中国の多くの都市では、地方政府が市中心部の住民を立ち退かせ、その土地を民間企業に売却し、厖大な収益をあげてきた。近年では、その政府の目が近郊の農村の土地にも向けられはじめた。代々住み慣れ、収入源でもある農地を手放したくない農家の人たちと強大な国家権力。その間で、暴力的な戦いが繰り広げられている。ニューヨーク・タイムズ紙中国語サイトはこのほど、複数の事例を取り上げ、中国のこの社会問題を詳しく報じた。以下はその抄訳である。

焼身自殺した成都市近郊の工場経営者

現場は四川省成都市。車を運転しながら、唐慧青さんは道路脇の空き地を指差した。亡き妹の工場の跡地だったこの土地は、いまは荒れ果てているが、彼女にとって過去の惨事が脳裏に鮮明に刻まれたままだ。

4年前、現地当局は村人に通告してきた。「都市建設を農村部までに拡大するため、この村を移転する」。農民だった妹は夫と一緒に村で小さな工場を営んでいた。幹部は容赦なく工場の立退きを宣告した。

親戚や隣人の証言によると、市政府が妹に提示した補償金の額は80万元(約1300万円)。この地区で同ランクの物件の販売価格は約その20~30倍である。そのため、妹夫婦は最初から工場の立退きに応じない構えだった。

2009年11月13日早朝5時ごろ、金属棒を持った大勢の男性が工場を包囲し、取り壊しを強行しようとした。一行は駆けつけた親族と激しくもみ合い、唐さんの兄弟の一人は暴行を受け、肋骨を折った。

ここまでの経緯を語ると、唐さんの声は急に低くなった。「妹は工場の屋根に登り、体にガソリンを撒き、男たちに引き下げるよう懇願した。その直後、彼女は自身の体に火をつけた」

通行人が携帯電話のカメラで当時の一部始終を撮影した。

数日後、工場は跡形もなく消え、16日後、妹は亡くなった。

唐さん姉妹の母は、1949年共産党政権の発足直後に、多大な希望を託して党員となった。彼女は強いショックを受けて、数カ月後にこの世を去った。

唐さんは、「母は完全に絶望した。一国の政府がなぜ無力な庶民にこんな酷い仕打ちをするのか、最後まで納得しなかった」と話した。

各種報道や人権団体の統計によれば、これまでの5年間、39人以上の農民がこの極端な抗議手段で自らの命を絶った。

長引く村民と警察当局の攻防戦

唐さんの妹の工場から約1.6キロ離れたところに、祝国寺村という村落がある。成都市の新金融特区の建設用地と定められたため、村全体が土地収用の対象となった。当局のこの通達に従わない村民たちは2010年から、警察当局と度々激しく対立してきた。そして8カ月前から、約90人の村民は毎晩交代で村を巡回している。夜間での取り壊しを阻止するためだ。一部の家屋はすでに解体された。警察に暴行を受け、一時拘束された村民も少なくないという。

村民たちが提示した証拠資料によれば、政府からの補償金はわずか14元/平米(約224円)。

夜間巡回の参加者の一人、31歳の韓亮さんは、「私たちが抵抗しなければ、すべてを失ってしまう」と語った。

「この世界には正義も、法律もない」

中国当局の発表では、全国でこの類の衝突事件は年間で数万件が起きている。

当局による農地の強制収用に反対するため、農民たちは焼身自殺のほか、様々な手段で自らの命を絶った。中国の人権団体「民生観察」の報告書によれば、昨年だけでも焼身自殺事件は6件、そのほかにも自殺した農民は15人。湖南省長沙市では、当局の強制立退きの命令に従わない農民がロードローラーに轢かれて亡くなった。福建省で9月はじめ、家族が土地の強制収用を制止する最中、4歳の幼女がブルドーザーに巻き込まれて死亡した。

一連の焼身自殺事件はほとんど公にされていない。当初、地元メディアとインターネットの報道は、唐さんの妹の自殺事件を取り上げたが、当局は報道を禁止し、警察は度々取材関係者を脅していた。

名門・清華大学社会学の教授・孫立平氏の統計では、2010年には18万件の抗議事件が発生、その大半は土地の紛争に関連している。

現状では、責任を負うべき幹部はほとんど懲罰を受けていない。

中国の有力紙「南方週末」が2008~10年に起きた8件の事件を追跡調査した結果、責任者全員が元の官職についたままだった。もちろん、類似の死亡事件はいまも発生し続けている。直近の焼身自殺事件の現場は江西省の周坑村、自殺者は胡騰平さん。

今年の旧正月、里帰りした出稼ぎ労働者の胡さんは、自宅が現地当局に強制的に取り壊されたのをはじめて知った。当日夜、彼は現地共産党委員会の事務所を訪れ、自身の体に火をつけた。当局は家族にその遺体を返していないという。

胡騰平さんの妹はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対して、「だれも私たちを助けない。この世界には正義も、法律も存在していない」と無念な気持ちを語った。

(翻訳編集・叶子)

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