【大紀元日本2月2日】最近、「新常態」(ニューノーマル)は中国当局が現在経済状況を説明するうえでよく使うキーワードとなっている。在米中国経済専門家の程暁農氏が「新常態」とその問題点について独自の視点から解説した。1月26日付BBCが伝えた。
程氏は経済成長鈍化が常にみられる状況を指す「新常態」とは将来長い期間に中国経済が繁栄に別れを告げ、これまで「一人勝ち」だった状況がなくなることを意味していると分析。
程氏は「新常態」が現れたのは偶然ではなく、過去十数年の経済成長において多くの問題が隠されてきたと指摘する。中国経済最大の問題点は深刻な収入分配の不公平で、国内総生産(GDP)に占める国民の個人消費が極めて低いことにあると程氏はみている。2013年の個人消費の割合が36%で、改革開放前の1977年よりも16%低いという。仮に国内消費だけで経済を成長させているならば、GDP成長率は現在の3分の1しかないはずだ。
中国は世界貿易機関(WTO)への加盟により輸出の急速な拡大で経済が高成長を維持した。その結果外貨準備高が急増し、国内の貨幣供給が過剰となってインフレを招いた。インフレ圧力で不動産価格が押し上げられ、このため各地方政府はこの10年不動産市場の発展で経済を成長させてきた。
ただ、不動産市場が国民の実質需要より過剰に発展し、住宅価格が国民の購買力を超えたことで、不動産バブルおよび過剰生産能力の問題が必然的に現れる。現在、不動産市場が低迷し始め、中国はやむを得ず投資を主導とする経済発展モデルから脱却し、構造改革を転換する必要に迫られている。
また、「新常態」が生じたのは不動産市場の低迷で不動産開発企業や地方政府の債務が急増し、金融システムに多大なリスクを与えるためだと程氏は言う。同氏によると、国家発展改革委員会の関係者は1997年~2013年に行われた投資の36%が無効投資、すなわち不良債権で、2009年~13年の無効投資は42兆元(約798兆円)に達していると示した。程氏は国家発展改革委員会が公表するデータで再試算したところ、09年~13年全国固定資産投資(設備購入額を除く)は127兆元(約2413兆円)で、うち3分の1が無効投資だという。「金融機関がほぼ民営資本である自由経済国家では、金融危機がすでに発生している」と程氏がその深刻さを語った。
さらに、程暁農氏は今後高い失業率が「新常態」になるとの認識を示した。不景気で2年前から珠江デルタ地域で台湾などの外資企業が相次いで倒産した。この「倒産ブーム」は今、長江デルタ地域にも及んでいる。景気減速が続く中、農民工だけではなく大学卒業生の就職環境がますます厳しくなっていくと考えられる。温家宝・前中国首相は2010年3月の経済討論会において「中国の失業人口は2億人」と発言したことがある。その一方、林毅夫・元世界銀行チーフエコノミストは1月22日に開催されたダボス世界経済フォーラム年次総会で「賃金コストの上昇などの原因で、中国はさらに1.24億人の人々が失業するだろう」と述べた。現在中国の労働人口は9.4億人で、失業人口が3億人に達すれば、実質失業率は32%となる。この失業率が「新常態」となれば、社会不安が急速に広がる恐れがあるとの認識を示した。
程氏は、中国当局は今、金融危機を避けるため金融機関を救済すべきか、それとも雇用機会を創出するためバブルを維持するのかの選択に悩まされていると指摘した。金融危機が発生すれば、莫大な資本が流出すると予測され、中国経済に深刻な打撃を与えることが明らかだと当局も理解している。しかし、当局は金融危機を防ぐため、厳しく地方政府の債務増加をコントロールしているが、景気刺激、雇用創出と投資拡大で利下げを実施した。この二つの施策は明らかに矛盾している。
程暁農氏は「習政権の反腐敗キャンペーンは国民の腐敗官僚への恨みを払拭できるが、失業によって生じた社会不満は解消できない。高い失業率が新常態となる環境では、政治・思想への高圧的や厳格なネット管理は一時的に社会不満の爆発を抑制できるが、社会の安定は長く維持できない。今後、長期的な高失業率の下で社会の緊張が高まり、中流階級による海外移民の動きが一層加速するだろう」との見方を示した。