香港有力紙・明報で天安門事件に関するトップ記事が編集長の独断で取り下げられた。香港記者協会などは「報道の自由の破壊」や「天安門事件への関心を薄める狙いがある」と強く批判した。民主化運動が勃発する香港に中国政府が介入を強めるなか、言論の自由への懸念が再び高まっている。
問題の記事は北京のカナダ大使館が当時、天安門広場にいた学生から聞き取った内容の公文書を報じたもので、2日付のトップ記事で掲載される予定だった。公文書には、人民解放軍が一般市民に向けて発砲したなど武力弾圧の目撃証言のほか、当時の中国最高指導者らが国外逃亡を計画していたという内容も含まれている。
しかし、この記事は鐘天祥編集長の独断で印刷直前に外された。複数の香港メディアによると、休暇中だった鐘編集長が突然、会社に現れ、1日夜の編集会議に参加した。掲載記事に意見を出さなかった鐘氏は深夜11時頃、印刷に回す直前の新聞の一面記事を「青年起業家を支援 アリババの馬雲会長が香港で基金設立」に切り替えるよう命じたという。
天安門事件は今なお、中国では敏感な政治的話題だ。本土では、「天安門事件」は中国政府のネット検閲の対象となり、メディアの報道は厳しく禁じられている。
編集チームの意見を無視した鐘編集長の決断に記者らは猛反発した。同社の労働組合は2日、Facebookで声明文を発表し、今回の出来事は編集長とスタッフ間の「相互信頼の欠如」を表し、編集チームの合意が尊重されていないと訴えた。
労組は、鐘編集長の今回の行動は「外部からの干渉」を受けた可能性があると指摘し、北京政府の意図を反映したものだとほのめかした。
前任の編集長・劉進図氏は昨年1月、突如、更迭された。後任の鐘氏は中国系マレーシア人で、同国華字紙「南陽商報」の元編集長。同紙の経営者である張暁卿氏と親しい間柄にあると伝えられている。張氏は親中派として知られ、香港政府に批判的な前編集長は北京からの圧力で更迭されたとの見方がある。
民主派寄りで知識人に人気の明報は、1995年に張氏に買収されたのち、親中的な色合いを見せている。