【大紀元日本7月16日】中国人民軍の元高級幹部で中国政治研究家の辛子陵氏(80)はこのたび、オーストラリアの公共放送SBSのインタビューを受け、市民の民主化運動と中国主導の圧力に揺れる香港問題や、中国最高指導部の内部闘争、政治情勢について見解を示した。
揺れる香港、内部闘争の舞台に
「中国は政治大変革の前夜に差し掛かっている」と辛氏は指摘し、習近平政権の反腐敗運動は、来年には「最後の大トラ」と揶揄される江沢民元国家主席の取り締まりが始まるとの推論を述べた。
中国最高指導部が取りまとめた香港次期行政長官選挙の制度改革案『香港政治改革方案』が、6月18日の香港立法会(香港議会)で否決されたことについて、辛氏は「中国の情勢と今後の動向を正確に見極めるには、中国政府と共産党の現状をはっきりと認識すべき。表向きでは、国と党トップである習近平氏が最高指導者だが、裏では内部分裂が起きている」と説いた。
「わかりやすく言えば、2つの指導部が存在している。習近平氏を中心とする改革派の指導部と、江沢民氏を中心とする反対派の『陰の指導部』だ。反腐敗運動は両派の熾烈な権力争いの一端」と指摘した。
辛氏は、両派の争いが、政権交代時期の2012年末の第18回共産党全国代表大会でも見られると述べた。「党最高意思決定機関である中共中央政治局常務委員会(委員7人)に、江沢民氏は3人の側近を無理に押し込んだ。習近平側の委員は3人で、_deng_小平一族の代表である委員の支持を取り付けたため、4対3の多数派であるが絶対優勢ではない。指導部がたびたび矛盾した動きをみせている根本的な原因はここにある」
「国際社会と中国国民は、ほとんど習近平氏の決定と誤解している。実際には、一部の事は江沢民派が習氏に泥を塗るための仕掛けで、反腐敗という一大事に専念させないための『戦術』だ」
香港選挙、江沢民派は民主化訴える市民に「武力弾圧」案
また、香港の問題も2つの指導部が摩擦により生じているという。「江派委員・劉雲山氏の率いる国務院新聞弁公室が香港の一国二制度を覆す『香港白書』を発表、それに対してもう一人の江派委員・張徳江氏が率いる全人代が『香港政治改革方案』を制定した」
中国主導の改革法案に強く反発する香港市民は昨年末、大規模な民主化デモを起こした。これについて、江派は習氏に武力弾圧を提案したという。「習氏は江派の提案を却下し、一国二制度の約束を尊重することを強調し、事態の沈静化を図った。それでもなお、習氏に武力弾圧を押し付けるため、江沢民派系の全人代委員は党機関紙・人民日報を利用して『全人代は国家主席を解任できる』と習氏に圧力を掛けた」という。
「香港問題をめぐる党内闘争で、江派の武力弾圧案を却下した習氏は国内外で株を上げた。もし武力弾圧が敢行されれば、江派は習氏を一気に失脚に追い込み、政権を奪還する計画だったのだろう。政治の罠を仕掛けたが、江派の完敗に終わった」と推論を述べた。
周永康の無期懲役、反腐敗運動は「クライマックスの始まり」
江派主要メンバーである周永康には、無期懲役刑が言い渡された。国内外の世論は量刑が軽いため、反腐敗運動はいよいよこれで終止符を打つと認識している。これらの見解について、辛氏は「率直にいうと、これらは中国政治を知らないがための誤判断だ」と切り捨てた。
また、周永康の死刑を一番望んでいるのは江沢民氏だという。なぜなら「周永康が江氏の犯した大量虐殺罪の『生き証人』であるため」と位置付けた。
「(中国伝統気功である)法輪功に対する弾圧とその臓器収奪について、江氏が直接、周に命じたことだ」とし、周永康氏の存在は、今後の習・江の争いで重要なカードになるという。辛氏によると、死刑を望む江沢民の意思は、最高指導部あての親書で伝えられたという。
トラ狩りの対象となった周永康の無期懲役は「反腐敗運動の終わりではなく、クライマックスの始まりである」と締めくくり、今後の大トラの取り締まりについて、「習近平政権は今年の年末に江沢民派の曽慶紅元国家副主席を、来年には江沢民元国家主席を取り締まる」と予測した。
辛氏は北京在住の伝記作家で、中国軍事学院出版社の元社長。また中国共産党の歴史研究者でもある。毛沢東の過ちを説いた著書『赤い太陽の失墜』の出版により、自宅軟禁や出国禁止などを受けていた。同書は中国本土で出版禁止扱いとなっている。