アジアの富豪として知られる香港の実業家・李嘉誠氏は13年から相次いで中国本土にある資産を売却し、資本の引き揚げている。これに関して、中国国営・新華社の傘下「了望シンクタンク」は9月12日、『李嘉誠を逃がさない』と題した論文で、李氏の中国からの資本撤退を批判した。民間人の資産を「私物化」する政府の姿勢が垣間見えるこの論文は、中国国内外で大きな反響をよんだ。
論文では、中国経済成長が停滞した現在、中国国内の資産を相次いで売却したことで、市場の悲観的心理を強めたことを強く非難。一方で、20年以上の李嘉誠氏からの投資は「中国政府から大きな支持を得ていた」と評価した。裏を返せば、「本土投資を許可された以上、政府に従わなければならない」「資本撤退は中国共産党の認めなければ、許されない」との中央政府の支配欲の強さを見せたことになる。
李氏が会長を務める長江和記実業有限公司のスポークスマンは13日、同社は中国本土から資本撤退していないと否定し、不動産投資の比率を減少させたのは正常な商業的行為だと述べた。
また、李氏本人は9月29日に発表した声明において、『了望シンクタンク』の論文は「文脈が歪曲しており、身震いした」とし、中国国内からの資本撤退を再び否定し、不動産投資の減少について説明した。「この2年間、当グループは世界の不動産事業に対して慎重だ。国内でも、一部の都市の需給バランスが崩れているため、土地の買い入れは減らしている」。
しかし、李氏が資本撤退を否定しているにもかかわらず、中国本土では、李氏の不動産投資の減少を「資本撤退」とみなしている。香港メディア・フェニックステレビの時事評論員で国際問題研究家の邱震海氏は9月19日、同テレビ傘下の鳳凰網で、中国経済の急激な下振れリスク、システム的な金融危機リスク、社会的不安と外部からの軍事衝突リスクなどの4つのリスクが、李嘉誠氏中国本土から資本撤退を決めたと述べた。
李氏の資本撤退は、中国政局の悲観にある=専門家
在米中国問題専門家の伍凡氏は9月24日、新唐人テレビの取材に対して、李氏の資本撤退は、現在の中国政局を悲観しているためだと分析。伍凡氏によると、李氏は80年代から中国本土への投資を始め、共産党政府の歴代指導者と深い親交があった。89年の民主化運動「6・4天安門事件」後でさえ、李氏は投資を止めるどころか、拡大させた。
現在、李氏が本土での資産を売却したのは、中国当局の政治情勢への悲観からだと、伍凡氏は考えている。
米国サウスカロライナ大学の謝田教授も同じ見解を示した。「邱氏が言及した4つのリスクは、すでに多くのエコノミストに認められている。李嘉誠氏が中国でビジネスを行うには、最大のリスクである政治的リスクを意識したからだと推察できる」と述べた。
「李氏は中国本土に投資を始めたときは江沢民政権だった。政府は李氏の投資に融通を利かせ、李氏も政府に多くの政治資金を提供した。李氏は中国政治情勢の変化に非常に詳しいため、後ろ盾であった江沢民派閥が現在崩壊に直面していることも把握している。だから、李氏にとって最大の政治的リスクから一日も早く撤退したいと考えられる」と分析。
ウォールストリート・ジャーナル紙は9月7日、中国経済成長の鈍化、株価の暴落、人民元の突然の切り下げを背景に、李嘉誠氏が中国本土での資産を縮小し、同時に欧州で投資を拡大させていることは、欧州での投資が中国での投資と比較してより高い利益を見込めるからだと報じた。
李嘉誠氏による中国本土での資本撤退にせよ、あるいは不動産投資の縮小にせよ、中国に進出している多くの海外企業に大きな影響を与えていることは事実だ。米国のマイクロソフト社、日本のユニクロ、シチズン、韓国サムスン電子などの海外企業はこの2年間で相次いで中国での生産能力を縮小し、あるいは工場を閉鎖した。
(翻訳編集・張哲)