このシリーズでは、「供給側改革の障害」、「営増改をめぐる戦い」、「習近平の政治経済学」をテーマに、現在中国経済が直面する主な問題を明らかにする。
まず、中国国内経済の失速と過剰生産の圧力に悩まされる習近平政権が昨年末に、供給側改革を掲げてきた。しかし、改革を進めていくには、地方政府から強く抵抗されている。本文ではなぜ、地方政府がその改革の障害となっているのかを明らかにしたい。
「供給側改革」を提言する背景
昨年11月と今年1月、習近平国家主席は中国共産党中央経済指導チームの会議で、長い間国内経済に蓄積してきた過剰生産能力、生産効率の低下などの問題を解消するため、供給側改革の推進に言及した。
その改革には、過剰生産能力の削減、金融リスクを減らすためのレバレッジ(主に企業債務)の削減、在庫の削減、経営コストの削減、経済の弱い部分の補強(特に貧困問題、企業イノベーション力の不足、インフラ設備の滞り)がある。
習政権が供給側改革を行う背景には、これまで中国経済が需要側の「投資」、「消費」と「輸出」を主要けん引力として経済成長を遂げてきたが、しかしその3大けん引力が低迷しおり、成長ができなくなった実状がある。
投資について、中国当局の公開統計によると、1990年から2013年までの貨幣供給量である広義マネーサプライ(M2)残高は1兆5300億元から103兆6100億元まで拡大した。清華大学の白重恩教授の研究によると、M2拡大のかわりに、2013年までの過去20年間において中国での投資収益率(ROI)が持続的に下落している。
例えば2008年世界金融危機発生後、中国当局は4兆元規模の刺激策を実施した。この、大部分の資金が、すでに過剰生産になっている鋼鉄業や石炭業に投じられた。その結果、これらの業界における過剰生産が一層深刻化し、大量な在庫で企業が赤字状況から抜け出せない。
個人消費も過去30年間、国民の低い消費率水準で維持してきた。統計によると、2000年以降、毎年の国民の最終消費率(GDPに占める最終消費支出の割合)は50%を下回る状態が続いている。2000年の46.4%から2011年の35.5%までに下落してきた。同期の米国民の消費率は70%以上を維持し、イギリスは60%、日本は50%の水準を維持している。
輸出でも、2015年までは輸出の年間伸び率は低下しており、15年以降はマイナス成長となった。
過剰生産の原因は江沢民政権にある
1990年代の江沢民政権は、おもに「汚職腐敗で国を治める」との政策で幹部の人心を掌握してきた。同政権は、地方の国内総生産(GDP)の伸び率が高ければ高くなるほど、その地方の幹部に対して速く出世させ、高い地位を与える。各投資プロジェクトを通じて、企業は儲けることができて、地方政府の税収が増え、幹部もそれを出世材料にすることができるため、地方政府は狂ったかのように各プロジェクトに投資するようになった。
2001年世界貿易機関(WTO)に加入後、中央政府から地方政府までが鋼鉄業や石炭業などの業界を放任し、環境保護を無視して乱暴なやり方で産業を発展させてきた。
なぜ地方政府は改革に抵抗するのか
現在多くの「ゾンビ企業」が鋼鉄、セメント、石炭、紡績などの産業に集中する。多くの企業は経営不振なのに倒産しない。その主因は地方政府の利益と関係するからだ。「ゾンビ企業」のほとんどは国有の大中型の企業で、地方政府にとってより多くの税金を納入する重要な収入源だ。また、幹部にとって、地方にある国有企業がなくなると、自身の出世に影響し、より多くの利益を手に入れることができなくなることを意味する。そのため、地方政府はその地方にある国有企業の倒産を望まない。
国内メディアの報道によると、今年3月に開催された中国共産党全国人民代表大会と中国人民政治協商会議(両会)において、ある中央政府直轄企業の会長は政治協商会議で、同企業傘下の子会社が法律に従って、所在する地区の法院(地方裁判所)に破産申請をしたところ、拒否されたと明かした。拒否された理由は、「地方政府が支持しないので、法院は受理しない」という。
河南省などの一部の地方政府はこのほど、同地方にある石炭、鋼鉄企業の資金確保できるように、「経営不振だが、信用力がある企業であれば、主要営業内容を変更することで、今後金融機関からの融資を承認する」との措置を挙げている。
海外メディアは、この措置は企業に対して不正を奨励することに等しいと厳しく批判した。全国各地の地方政府が同様な政策を行えば、習近平政権の改革は直ちに水の泡となると評した。
実に資金調達を確保するため一部の企業はすでに財務粉飾に手を付けている。3月末の国内メディアによると、ある匿名の石炭大手責任者は、同企業の昨年の決算書には5000万元の純利益と記されているが、実際には10億元の赤字だったところを粉飾したと告白した。
投機資金の流入で鋼鉄価格上昇
昨年下半期から、中国当局は景気の活性化をねらい、緩和的な金融政策を行った。また一部の地方政府の景気刺激措置で、大量の投機資金が不動産市場、商品先物市場に流れ込んだ。そのため、一部の中小都市を含めた都市部の住宅価格が急騰した。中小都市はすでに莫大な住宅在庫を抱えているため、価格上昇で在庫が削減できなくなっている。
また商品先物市場では頻繁な投機活動で、鉄筋などの鉄鋼商品や石炭類の商品の先物価格も急上昇した。価格の上昇で、倒産しそうで生産を停止している「ゾンビ企業」に復活の機会を与えた。
オーストラリア投資銀行大手マッコーリーグループの調査によると、昨年中国は5000万~6000万トンの鉄鋼生産量を削減してきたが、現在4000万トンの生産量を回復した。価格上昇と収益率の回復で、企業は当局からの過剰生産能力削減の指示を無視していると同社はコメントした。
焦る習政権
各地の供給側改革が進まない現状に焦る習近平国家主席は5月だけでも、公の場で3回改革を言及した。特に16日中央財経小組の第13回会議において、習は「一部の地方ではまだ行動を起こしていない。また一部の地方では、正確に行っていない」と発言し、改革が進展しないことに不満を漏らした。
5月20日中国国営新華社は『堅持してこの供給側構造性改革の厳しい戦いを勝とう』との社説を掲載した。その後各メディアに、『供給側構造性改革は幹部たちの試金石だ』と新たなタイトルを付けられて転載された。
大紀元時事評論員の石久天氏は「このほど、国有メディアが頻繁に供給側改革を報道していることからみると、中国経済の現状は非常に厳しいことが分かる。今回の報道では、習近平政権が政権の改革方針に従わない幹部に対して、今後失脚の可能性を示唆していると読み取れる」と分析した。
(つづく)
(翻訳編集・張哲)