10月5日、中国のモバイル医療プラットフォーム「春雨医生」の創業者、張鋭氏が、突発性心筋症により44歳の若さで亡くなった。熾烈さを増す競争や長時間労働で、死に至るほど体調を壊す中国のベンチャー企業家は少なくない。
更なる業務拡大を目前に 突然の死
張鋭氏はモバイル医療プラットフォームの先駆者であるだけでなく、マスコミ業界人でもあった。
新聞記者として活躍していた同氏は、北京の地方紙、京華時報のニュースセンター主任や、中国のインターネットポータルサイト「網易」の副編集長を歴任。2011年7月に起業して、医者と患者の交流プラットフォームを提供するオンライン医療相談会社「春雨医生」を創設した。会社は急速な発展を遂げ、運営するサイトの利用登録者は9200万人以上、41万人以上の登録医師を抱える一大医療プラットフォームに成長した。
春雨医療は創業後数カ月の間に、朝9時から夜9時まで、週6日勤務するという「996業務システム」を実施したこともあったが、最近の張氏は、資金調達問題で夜も眠れず、不安で食べ物ものどを通らないと漏らしていた。
今年6月、春雨医生は12億元(約184億円)の資金調達を終え、会社の評価価格は10億ドル(約1037億円)に達した。同時に、春雨医生はオンライン問診サービス部門を分割して、株式上場する計画も立てていた。
皮肉なことに、健康相談サービスを提供することを目的とする企業のトップは、過労により世を去った。
中国の企業家のストレス 米シリコンバレーを上回る
米国のシリコンバレーもまた、ベンチャー企業家が激しい競争と長時間勤務に身を投じていることで知られているが、中国の企業家が直面している問題は米国とは条件が異なる。
中国のインターネット業界はまだ黎明期で、規制管理や融資といった業界を取り巻く環境が刻一刻と変化し、新規の企業家たちは、資金や人材の確保においても非常に熾烈な争いを強いられている。
中国最大のビットコイン取引所の一つ「火币網」の創業者である李黎(レオン・リー)氏は、自身の微信アカウントでこのように発言している。「会社の創業者が感じているプレッシャーや孤独感は、一般人には決して理解できない」「特にインターネット業界では競争が激化し、企業家は常に薄氷を踏む思いでいる」。
シリコンバレーを拠点に、世界50カ国1500社以上に出資する、カナダのシード投資ファンド、500スタートアップスの創業者であるデイブ・マックリュー氏もまた「中国の企業家が感じている圧力はかなりのもので、シリコンバレーの比ではない」「不幸なことに、私たちは自らの健康に大した注意を払っていない」と、ベンチャー業界に存在する普遍的な問題を憂慮している。
また中国のベンチャー企業家向け投資ファンド「創新工場」の董事長兼最高経営責任者(CEO)の李開復氏は、ガンを克服し、昨年には一冊の本を上梓した。李氏は著書のなかで、ガンは自分が数十年に渡り毎日15時間も働き続けてきたことに対する身体からの抗議だったと記している。李氏は以前、アップルやマイクロソフトに勤務した後、05年から09年までグーグルの大中華圏部門の副総裁を務めていた。
中国の企業家の内面は、常に不安で満ちている
オンライン学習プラットフォームを提供する優米網の創業者、王利芬氏は10月6日夜、張鋭氏への追悼文を発表した。その中で同氏は、企業家の多くが強い焦りや不安を抱えていると語っている。「圧力を感じる原因は、枚挙にいとまがない。例えば、資金の調達、競合相手からの人材引き抜き、政府の規制管理、家庭の崩壊、友人やパートナーの裏切り、資金循環の途切れ、ビジネスモデルの導入検証前の緊張、大企業の突然の合従連衡など。つまり、人からは羨望のまなざしを向けられ、さまざまな場所でスポットライトを浴びながらも、その心には一片の安らぎもない」。
(翻訳編集・島津彰浩)