中国金融情報サイト「財新網」は1日、中国当局が、積極的に国内外の買収を行う中国の複合企業、中国華信能源(チャイナ・エナジー、以下は華信)の葉簡明会長(40)に対して取り調べをしている、との独占スクープ記事を掲載した。同報道では、葉氏と一部の高官との複雑な関係を詳しく報じた。
反腐敗や資本流出防止を掲げる中国当局が、大企業への締め付けを一段と強くしていることを反映した。
しかし「財新網」は1日午後に同記事を削除した。原因はわかっていない。
華信側は、財新網の報道についてコメントを控えている。
葉簡明氏は2002年に華信を設立。09年に会社の本部を上海に置いた。華信は、中国の3大国営石油会社を除いて、国内最大手の民営石油会社だ。エネルギーのほかに、金融などの事業も手掛けている。
米フォーチュン誌が発表した16年の「グローバルトップ500社」ランキングでは、華信は222位となり、葉簡明氏について「最も若い経営者」と評した。
華信は昨年9月、91億ドル規模でロシアの国営石油大手ロスネフチの株式14%を取得し、一躍世界の注目を浴びた。中国当局は、昨年夏以降、国内の大手複合企業の大規模な海外買収に、ストップをかけた。ロスネフチ株式取得で、華信は国内唯一、10億ドル規模の買収を実現した民営企業となった。
また、同社は13年に、東ヨーロッパのチェコで欧州事業本部を設立した。このため、華信は近年、チェコの銀行、メディア、通信業などへの出資を拡大した。中央アジア、中東やアフリカまで買収を加速化してきた。
華信、軍とのつながり
「財新網」の報道によると、葉簡明氏は12年、華信の内部で共産党委員会の設置を計画していた際、中国武装警察部隊の上海政治学院前院長の蒋春余氏に党委員会書記の就任を依頼したという。
また葉氏は、中央軍事委員会弁公庁高官の王宏源氏を、同社顧問センターの秘書長として招き入れた。浙江省義烏市出身の王氏は、地元や軍内の友人を華信の顧問として葉氏に紹介した。
中国国内では、葉簡明氏は、中国共産党元老である葉剣英氏の親族だとささやかされていた。しかし、サウスチャイナ・モーニングポストは、福建省出身の葉簡明氏は一般労働者家庭の出身だと伝えた。
「中華能源基金」に中国情報機関の元職員が在籍
華信は香港シンクタンク「中華能源基金会」に全面出資しており、葉簡明氏は同基金会理事局の主席を務めている。同基金会は外交問題に重点を置きながら、国連の経済社会理事会と深いつながりがあり、国連の上層幹部にも太いパイプを持つ。
しかし、同基金会理事会の何志平・副主席が昨年11月、米司法当局にアフリカの一部の政府高官に対して贈賄を行ったとして逮捕された。何氏は、香港民政局の前局長だ。
米司法当局によると、14年以降、何志平氏はセネガル前外相のシェイク・ガッジョ氏とともに、石油採掘権をめぐって、チャドのイドリス・デビ大統領に対して200万ドルを贈った。また、2人はウガンダのサム・クテサ外相に50万ドルを贈賄したという。
「フィナンシャルタイムズ」によると、中華能源基金会は外交問題にも口を出している。10年、南シナ海問題をめぐって、ベトナムとフィリピンに対して武力行使を辞さないと主張し、国際社会に批判された。同基金会の幹部に、中国諜報部門の元職員が含まれているという。
カナダの情報機関、カナダ安全情報局のアナリストを務めたマイケル・コール(Michael Cole)氏は、米誌「ナショナル・インタレスト」(15年3月)において、中国当局は企業、中華能源基金会のような非営利団体などを通じて、台湾に対して統一工作を行っている、と指摘した。
アジア太平洋の国際問題を扱う日本の英字誌「ディプロマット」が15年に掲載したシンガポール在住学者、マイケル・ラスカ(Michael Raska)の論文によると、海外で中国共産党プロパガンダ工作を行う統戦組織に、中華能源基金会が含まれている。
「財新網」1日のスクープ記事において、華信が台湾の親共産党組織「竹聯幇」とのつながりをも暴露した。
香港英字紙・サウスチャイナ・モーニングポスト(1日)は、情報筋の話を引用して、習近平国家主席が葉簡明氏の身柄拘束を指示した、と伝えた。
2月23日、中国当局は保険大手・安邦集団の呉小暉前会長を起訴したばかり。近年、習近平政権が大規模な海外買収を行う国内大企業への締め付けを強化した目的は、これらの財閥による「経済クーデター」を防ぐためだとの見方を示した。
(翻訳編集・張哲)