フィンランドのヘルシンキで16日に開かれた米ロ首脳会談後の共同会見で、プーチン大統領は、米国出身のビジネスマンがロシアで稼いだ資金の一部を、ヒラリー・クリントン側に寄付していたと発言した。
プーチン大統領は、記者団が2016年米大統領選のロシア介入疑惑について質問したところ、米検察が疑わしいと思っている人物の捜査を、ロシアに要請できると述べた。「ロシアの検察庁と捜査当局の代表は、捜査結果を米国に提出する」と付け加えた。
さらに踏み込んで、情報共有のため、選挙介入疑惑を調査するロバート・モラー特別検察官を含む米国の代表者が取り調べに参加できるようにするとした。
プーチン大統領の例える「疑わしい人物」とは、首脳会談前、米検察が大統領選介入の疑いで起訴した12人のロシア情報当局者を指すとみられる。
しかし、プーチン大統領は、疑わしい人物の「よく知られた一例」として、大手投資企業エルミタージュ・キャピタル創業者でCEOのビル・ブラウダー氏を名指しした。ロシアの裁判で、ブラウダー氏は脱税の罪で有罪判決が下っている。
ブラウダー氏はロシアで1996年にエルミタージュ社を創業し、一時は外資系企業でロシア国内トップの資産を保有した。2005年、ロシア国家安全機密に違反したとして、ブラウダー氏は入国を禁じられた。
プーチン大統領は会見で、「ブラウダー氏のパートナーは違法にロシアで50億ドルを稼ぎ、米国に送金した。しかし、ロシアにも米国にも税金を払っていない。彼らは4億ドルをヒラリー・クリントン氏の選挙活動資金として渡した」と述べた。
国際マグニツキー法を成立させた事案に絡むビジネスマン
米国出身で現在は英国籍のブラウダー氏は、プーチン大統領批判を繰り返してきた。このたびの名指し批判に対しても、英タイム誌に17日掲載の文書で反論している。ヒラリー氏への献金について「非常にばかげている、妄想だ」と強く否定した。
またブラウダー氏は、米ロ会談では、米検察が起訴したロシア情報当局者12人と、自分を交換することを求めているとの推察を示した。「しかし、私はすでに英国籍だ。もしプーチン大統領は私をとらえたいならば、テリーザ・メイ首相に言えばいい」と書いた。
19日、ホワイトハウスはトランプ大統領の話として、12人のロシア情報当局者に対するロシアからの取り調べは許可しないと述べた。
英国在住のブラウダー氏は、ロシアにおける脱税で2009年に裁判で懲役9年を言い渡された。同氏のかつての弁護士セルゲイ・マグニツキー氏も同様に脱税で起訴された。マグニツキー弁護士は留置所内で心不全のため死亡した。
マグニツキー弁護士は、ロシア当局内の2.3億ドルの巨額横領事件を指摘していた。弁護士の急死をロシア当局の口封じだと疑う米オバマ政権は、ロシア当局者に対して制裁を科す法案「国際マグニツキー法」を2012年、可決させた。
しかし、ロシアの国営メディア・スプートニク2017年8月によると、米諜報当局の高官は、ブラウダー氏の虚構に基づいて法案が可決したと認識していると報じた。報道によると、謎のハッカー集団が米国務省情報調査局のロシア担当責任者ロバート・オットー氏のメールをハッキングしたところ、オットー氏は、マグニツキー弁護士が告発した横領事件には、明白な証拠がないとつづっていたという。
(編集・佐渡道世)