検閲システムを搭載した中国向け検索エンジンを開発中のグーグルが揺れている。米メディアによると、上級技術者が中国の人権侵害に加担しかねないとして辞職した。さらに、倫理に基づく決定を希望する社員ら1400人は、会社に不満を示す意見文書を提出した。
8月1日ネットメディア・インターセプトが、グーグルの一部機密チームが「トンボ(Dragonfly)」と名付けられたプロジェクトで、情報統制の厳しい中国国内に合わせた検索エンジンを開発しているとスクープした。
グーグルが中国検閲版の検索エンジン開発 「企業理念に反する」関係者がリーク
「トンボ」に関する報道は、社員たちの抗議の声を引き起こした。ニューヨーク・タイムズによると8月中旬、上級幹部を含む1400人もの社員が連名で、会社に対して、同プロジェクトの透明性を示し、道徳と倫理を重視するよう公開文書を発表した。
さらに、最近は複数の社員が同時辞職しているという。グーグルの上級技術者でスタンフォード大学の数学助教授だったジャック・ポールソン氏は、検閲の受け入れはグーグルの「価値の喪失」であると批判した。ビジネス向けSNS・リンクトインによると、同氏は8月31日付で退職した。
ネットメディア・バズフィードによると、「トンボ」騒動を受けて少なくとも7人の社員が退社したという。
グーグルの共同創業者で最大の持株会社アルファベットのセルゲイ・ブリン共同代表は、9月初旬の社員全体会議で、中国向けの検索サービスについて開発していることを認めた。
ブルームバーグ9月14日の報道によると、グーグルは、世界で最も大きなインターネット市場とされる中国で、検索サービス、SNS、オンライン販売と物流に関心を抱いている。現在は百度やテンセント、アリババなど中国企業が占有する市場には、1兆ドルの価値があると試算されている。
グーグルの広報担当は「従業員個人の情報についてはコメントしない方針」と声明を発表した。同時に、注目を集める中国進出の取り組みについて、すぐ完了する計画ではないとした。
「Androidの開発から携帯アプリにいたるまで、私たちは中国語ユーザー支援のために何年も投資してきた」「しかし検索エンジンについては模索段階で、中国での立ち上げにはまだ至っていない」とグーグルは声明で書いている。
インターセプトが報じたポールソン氏の辞表には、中国の検閲の受け入れだけでなく、中国国内の政治異見者や人権活動家、ジャーナリストの情報の安全への懸念もつづられているという。
「検閲と監視の要求の受け入れと引き換えに、中国市場に参入することは、われわれの価値の喪失である」「私の信念では、反対意見は民主主義の機能上、基本的なものであると確信している。しかし、反対派の取り締まりに手を貸すなら、私は辞表を出さざるを得ない」。
米超党派の下院議員 グーグル中国進出、検閲受け入れは「深刻な懸念」
9月13日、米国の共和党と民主党からなる下院議員16人は連名で、グーグルに対して、中国の検閲を受け入れるかどうかを質問する書簡を公開した。超党派の議員たちは書簡の中で、もし検閲を受け入れるならば「深刻な懸念である」と記した。
民主党デービッド・シシリン議員はSNSで「グーグルは、中国(当局)による自由な言論と政治異見者に対する弾圧に加担してはいけない」と警告を発した。署名者には国土安全保障委員会議長で共和党マイケル・マッカール議員も含まれる。
アルファベットのCEOサンダー・ピチャイ氏は、9月5日に開かれた米上院議会諜報委員会の公聴会への出席が求められたが、欠席した。公聴会にはTwitterとFecebookの技術代表者が出席し、外国勢力の干渉について質疑応答が行われた。
カナダのCBCラジオの取材に答えたバークレー法律技術センターの准教授デアドラ・ミューリガン氏は、グーグルが撤退を決めた2010年以降、中国の人権侵害がより深刻化していると述べ、「人権侵害につながる当局の情報検閲に、グーグルが加担することになるだろう」と指摘した。
「グーグルのモットーは長らく『邪悪になるな(Don’t Be Evil)』だったが、検閲を受け入れたら、世界にどんなメッセージを送ることができるだろうか」と述べた。
アルファベットは2018年5月までに、社員の行動規定から『Don’t Be Evil』との文言を削除している。
(編集・佐渡道世)