米中貿易摩擦がエスカレートしている。トランプ米政権は米東部時間24日午前0時すぎ、通商法301条に基づき、2000億ドル(約22兆6000億円)相当の中国製品に対して10%の追加関税を発動した。中国当局は対抗措置として、直ちに600億ドル(約6兆7800億円)相当の米製品に関税を課すと決定した。これを受けて、米政府は新たに2670億ドル(約30兆1710億円)相当の中国製品に関税を賦課する用意があると示唆している。
在米中国経済学者の程暁農氏は9月20日大紀元への寄稿記事で、トランプ米政権による大規模な対中関税措置の影響で、世界のサプライチェーンは中国から他国に移り変わり、「世界の工場」として世界に君臨した中国の輝しい時代が終わろうとしているとの見方を示した。
以下は程氏の寄稿の抄訳である。
関税措置の意味
中国メディアは報道で、米国の関税措置を中国で報復措置を意味する「弾丸」という言葉を使ってきた。「誰が弾丸を多く持っているか」という言い方をよく耳にするが、「弾丸」の数は貿易戦の成敗を分ける重要なポイントのようだ。しかし、これは読者の判断を誤らせている。
関税は「弾丸」ではなく、商品流通の方向を変える「赤信号」である。しかも、関税の効果は「弾丸」のように一回限りではなく、長期間続くものだ。
中国メディアと一部の米企業は、追加関税の影響で米消費者の負担が大きくなるとの見解を示した。つまり、米国は対中関税のブーメランを食らうことになると主張している。この主張も同様に世論をミスリードしている。なぜなら、まず企業は消費者に高価な商品を買わせることができないからだ。また、中国製品の代わりになる他国産の安い商品を手に入れることも可能である。グローバル経済のなかで、中国は唯一の仕入れ先ではない。
中国製品は「オンリーワン製品」ではない
米輸入企業は今まで、中国製のアパレル、靴、おもちゃ、家電、オフィス用品などの商品を輸入してきた。これらの商品は追加関税徴収の対象となった。一部のメディアは、米消費者は家計的な負担が増え、不安を抱くようになると報じている。しかし、この言い方はまさに虚言であろう。
米市場で販売されているアパレルやベッド用製品を例にしよう。十数年前、米国の百貨店やファッションショップは中国製の商品であふれ、中国製ではないものを探すのは至難の業だった。しかし、中国のアパレル加工企業は近年、各種コストの高騰により価格を押し上げた。中国製品を輸入する米小売企業の利益が目減りしたため、現在米国では、インド、スリランカ、インドネシア、ベトナム、カンボジアなどで生産・加工されたものが増えた。価格は少し高くなり、デザインも微妙に変わったが、米消費者が気にする様子はない。
つまり、米中貿易戦が起きる数年前、世界アパレル産業のサプライチェーンが中国から他国に移転したということだ。
この例から、中国企業が「オンリーワン」の製品・技術を全く持っていないという事実が浮かび上がった。代わりはいくらでも見つかる。
「赤信号」によるサプライチェーン再配置
米通商代表部(USTR)がこのほど開いた意見聴取において、一部の米企業が対中関税措置に強く反対している。理由として、「中国製品の品質と価格は最も理想的」であることと、追加分の関税が消費者に転嫁されることがあげられる。これに対して、USTRは米企業に対して、生産拠点を中国から他国に移転する可能性を尋ねた。しかし、これらの企業は否定的な意見を示した。
米アパレル産業とベッド用品メーカーはすでに数年前からサプライチェーンを他国に移すことに成功した。このため、他の企業も同様にできるはずだ。問題は、米輸入企業がサプライチェーンを中国から東南アジアなどの国に変える意思があるかどうかだと思われる。長年の「慣れ」で、一部の企業は変えたくないのも実情であろう。サプライチェーンを他方に移すことは、短時間にできることではなく、それには巨額の投入と数年の時間が必要であることは承知の上だ。
しかし、米輸入会社のどこもがオンリーワン商品を作れない。「早い者勝ち」。もし、目まぐるしい世界経済の動向を読み取り、そのうちの数社が率先して、他の国で中国製品より安い仕入れ先を開拓したうえ、さらにその国でサプライチェーンを安定させることに成功すれば、他の米輸入企業は相次いでまねをするだろう。
実に、米市場でのシェアを維持し、米政府からの関税措置を回避するため、一部の中国国内企業でさえ、生産拠点を東南アジアに移した。一部の米企業が中国製品にこだわるなら、今後直面する競争圧力が一段と強まる。これは、中国以外の国でサプライチェーン開拓に成功した米企業からの競争圧力と、他国で生産チェーンを構築した中国企業からの競争圧力だ。この二重の圧力の下で、より多くの米輸入企業がサプライチェーンの見直し・調整を迫られるに違いない。
もう一つの忘れてはいけないことがある。米本土にも、日用品メーカー、オフィス用品メーカーなどが多数あることだ。米国内のメーカーは過去20年間、安価な中国製品が原因で、価格面で競争力を失っている。しかし近年、平均コストにおいて、「メイド・イン・チャイナ」と「メイド・イン・USA」の差が徐々に縮小している。
米政府が来年の年明け、2000億ドル相当の中国製品に対する追加関税の税率を10%から25%に引き上げる場合、価格競争に勝つのは米国内メーカーかもしれない。米企業・製造業の復活、雇用の拡大が期待できるだろう。これはまさに、トランプ米大統領が対中貿易制裁を発動した本当の理由である。
したがって、米政府の対中追加関税措置は「弾丸で敵を消滅させる」ことではないのは明らかだ。その実質は、関税措置を使って、中国製品の流入に「赤信号」を提示し、そのサプライチェーンを強制的に中国から他国に移転させるという「回り道をさせる」ことだ。
これから数年間、今世紀以降形成された中国を中心とした世界産業チェーンの一部も他国に移転される。この時になれば、いよいよ中国は「世界の工場」の時代に別れを告げなければならない。
同時に、対米輸出の減少で、巨額の対米貿易黒字によって拡大し続けた中国の外貨準備の激減も予測される。中国当局が外貨規制を一段と強化するとみられる。
(翻訳編集・張哲)