2018年に中国当局が政権初となる北極政策「氷上のシルクロード構想」を発表してから、米国や欧州同盟国は、欧州とカナダ北部を結ぶ「足場」となるグリーンランドへの中国資本の浸透に警戒を高めている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)2月10日付によると、米国はデンマーク政府と協力して、中国資本による空港の建設計画を中止に追い込んだ。
米国防省は、管轄権を持つデンマーク政府に対して、中国資本で建設される新空港の軍事化を警告した。また、同省は、グリーンランドで 軍民両用の空港建設に投資すると異例の声明を出した。
北極にほど近いグリーンランドは、3カ所におよぶ空港の新設と拡張工事という中国資本による大型インフラ計画が浮上していた。
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人口約5万6000人のグリーンランドは自治権を持つが、外交と安全保障政策に関してデンマーク政府に委ねられている。
しかし、中国の建設大手・中国交通建設による空港新設と拡張工事の入札は、デンマーク政府の管理範囲の不透明な分野。中国投資に積極姿勢だったグリーンランド自治政府は、中国企業の入札をデンマーク政府の了解を得ず事前承認していた。
デンマーク政府ラース・ラスムセン(Lars Rasmussen)首相は、島内のヌーク(Nuuk)、イルリサット(Ilulissat)、カコトック(Qaqortoq) における3空港計画に伴う地政学的な懸念、および融資と高い利子について懸念を示した。
ジェームズ・マティス(James Mattis)前国防総省長官は昨年5月、デンマークのクラウス・フレドリクセン(Claus Hjort Frederiksen)国防大臣を米国に招き、中国資本のグリーンランド空港建設を停止させなければならないと警告した。
この警告の後、デンマーク政府はデンマーク銀行に、空港建設のための特別融資プランを提供することを要請した。
WSJによると、米政府関係者がデンマーク政府と共にグリーンランドを訪問したのち、空港計画については中国企業を除外させ、デンマーク政府が融資し空港共同管理権を有するという。
同紙によると、国防省高官は中国当局の脅威にさらされた場合、「同盟国の強い力を目の当たりにするだろう」と語った。
WSJによると、米国防総省当局者は、もしグリーンランド自治政府が新空港建設による最大5億5500万ドルの中国融資の返済ができなければ、中国政府は空港滑走路を支配する恐れがあるという。
米国当局の「回帰」により、デンマーク政府は渋っていたグリーンランドのインフラ整備法案に着手する。同紙によると、元デンマーク海軍将校で北極セキュリティ専門家ニルス・ワン(Nils Wang)は「国家安全保障に対する投資で、米国との関係を強固にするもの」と述べた。
同島当局者は「交通の便の悪い島にとって、観光客や訪問者のためのアクセスに繋がる」と歓迎する。グリーンランド航空会社最高経営責任者(CEO)ヤコブ・ソレンセン(Jacob Sorensen)氏は「これでグリーンランドが、世界から隔離された地域ではなくグローバルな北大西洋の一部となる」と語った。
いっぽう、中国の浸透工作は継続すると、シンクタンク・デンマーク国際研究所(DIIK)の上級研究員ハンス・ルセット(Hans Lucht)氏はみている。
2018年8月、同氏はDIIKのホームページ上で、このグリーンランドの投資計画は「債務トラップ外交」の一つとの見方を示した。中国国営銀行が脆弱な財政にある国や地域に、インフラ建設のために現地経済力を度外視した巨額融資を行い、破綻寸前に追い込み、手放された管理権を取得する方法だ。この一連のインフラ計画による道路、鉄道、ガスパイプライン、発電所の建設や運営、管理は中国企業が請け負うケースが大半。
ルセット氏は、中国共産党政府は政策上、向こう10年で、グリーンランドを含む北極地方で地政学的、ビジネス、原料調達などさまざまな利益を狙うと分析する。
欧州と中国を結ぶ北極航路の経由地点となるグリーンランドの開発は、2018年発表の中国「北極近隣国政策」に明記されており、新航路開拓のための砕氷、そして地下天然資源の採掘を行うという。
グリーンランドは、米国と欧州にとっても重要な北極航路であり、安全保障政策の戦略地域でもある。西北部に米軍チューレ空軍宇宙基地が置かれ、人工衛星を追跡・管制している。また、弾道ミサイル早期探知システムも設置されている。
(編集・佐渡道世)