中国共産党の党紀やイデオロギーを学習するアプリ「学習強国」はすでに1億人以上が携帯電話に導入しているが、このアプリには、当局側が機密に管理権限を明け渡し、電話の持ち主のすべての情報を操作できる機能があるという。米国当局の支援調査で明らかになった。
報道を受けて、中国のネットユーザーは「デジタル手錠をかけられているのに等しい」と情報統制を揶揄している。
米国当局支援の調査組織「開かれた技術の基金(Open Technology Fund)」は10月14日、ドイツのIT調査会社と協力して、中国共産党とIT大手アリババが作成したアプリ「学習強国」のコードを分析した。その結果、中国当局はこのアプリを通じて、ユーザーの電話のすべてのメッセージ、写真、アドレス帳、ブラウザー履歴を取得できる。また、いつでも録音機能を有効にすることもできるという。
同基金の技術担当サラ・アウン(Sarah Aoun)氏は「共産党は、1億人以上のアプリユーザーの携帯電話を確認できる。(中国)政府幹部は、市民を日常的に監視し、規模を拡大させている」と、米紙ワシントン・ポストに述べた。
同基金は、米国連邦議会が支援する報道機関ラジオ・フリー・アジア(Radio Free Asia)から支援を受けている。
中国共産党は2019年1月に「学習強国」アプリを発表した。このアプリには、習近平主席の発言や「中国の特色ある社会主義の新時代」に関する多くの記事やビデオコンテンツがある。ユーザーは、記事を読んだり、レビューを書いたりすることで、ポイントを獲得できる。ポイントを多く貯めた人物のランキング表示など、ゲーム性が設けられている。
「学習強国」は発表されてから中国のアップルストアで最もダウンロードされたアプリとなっている。官製紙によると、1億以上のユーザーがいるという。
このアプリを使用する場合、ユーザーは本名と携帯電話番号を登録する必要がある。中国でのSIMカードの購入には個人番号(身分証明書に相当)の登録を行うため、政府が容易に追跡することができる。
「学習強国」アプリの使用は、個人の自由意思に限らない。中国共産党は、党員と幹部にダウンロードするよう指示を出している。また一部の大学、高等学校、企業には、アプリの所有を義務付けている。ポイントにノルマがあって、達成できない場合、反省文の提出、または減給などの処分を受ける。
ワシントン・ポストによると、10月、北京で約1万人あまりの記者や編集者があるテストを実験的に受けた。テストに同アプリを利用して「習近平思想」の習得レベルを測る。合格者のみ、新たな記者証を取得できるという。
全体主義の政権がイデオロギーの習得を強要する点から、このアプリは「現代版毛沢東語録」とも揶揄されている。
何でもできるスーパーユーザー
このほど、「開かれた技術の基金」は、ドイツのネットワークセキュリティ企業Cure53と共同して同アプリを解析し、その隠れた機能を特定した。Cure53の調査員は、アプリが電話の裏口(バックドア)になり、電話の持ち主が知らない間にもシステムを操作する「スーパーユーザー」になることを突き止めた。
この権限があれば、スーパーユーザーはさまざまな操作を行うことができる。ソフトのダウンロード、ファイルやデータを改変、写真やビデオを撮る、ユーザーの位置を送信する、ユーザーの電話帳から電話を掛ける、チャットアプリを操作する、WiFiに接続する、懐中電灯をオンにする機能まで備えているという。
基金の研究開発責任者アダム・リアン氏は「このスーパーユーザーのアクセス権は極めて異例だ」とコメントした。
調査員によると、「学習強国」は乗っ取りアプリになりうるとした。アプリは、大量のユーザーデータや操作記録の詳細を収集して送信できるようになっているという。
ワシントン・ポストの取材に応じた、中国国務院情報局の広報担当は、アプリケーションにこうしたユーザー情報の入手機能が備わっていることを否定している。
(翻訳編集・佐渡道世)