中国、ブロックチェーンの世界覇権を狙う デジタル通貨発行で国民監視

2019/11/02 更新: 2019/11/02

中国当局はブロックチェーン技術(分散型台帳技術)を積極的に発展させる姿勢を示し、国家重要戦略の1つと位置付けた。中国当局は同技術で国民への監視強化のほかに、仮想通貨デジタル通貨の世界覇権を取得する狙いがある。

ブロックチェーン技術の世界覇権

10月24日、習近平国家主席は中央政治局で開催された専門家らによるブロックチェーン技術説明会で、「ブロックチェーン技術は、技術革新と産業の変革において重要な役割を担っている」と述べ、同技術を「重要技術の自主的イノベーションのきっかけとして」今後投資を拡大するとした。

これを受けて、中国と米国の株式市場では、ブロックチェーンに関連する銘柄の株式相場が急上昇した。同技術を使用した仮想通貨のビットコインの価格は、26日と27日の週末の取引で、一時、1ビットコイン=1万ドル台を上回った。

中国共産党機関紙・人民日報などは28日、ブロックチェーン技術の重要性に関して記事を掲載した。

中国国内の司法、検察、公安などを主管する共産党中央政法委員会は同日、評論記事を発表し、「ブロックチェーンにおける(国際)競争において、中国の目標は1位の座を占めることである」とその野心を示した。

中国当局は数年前から、ブロックチェーン技術に着目した。2014年、中国人民銀行(中央銀行)は、ブロックチェーンを使ったデジタル通貨の研究チームを設立した。2016年12月末、国務院(内閣に相当)が発表した「第13次5か年計画(2016~20年)の国家情報化計画」にブロックチェーン技術が取り入れられた。2017年1月、人民銀行はデジタル通貨研究所を設置。2019年8月、中国当局は、広東省深セン市でデジタル通貨による決済や支払いのテストを行うと発表した。

ブロックチェーン技術とは

ブロックチェーン技術は、複数のコンピュータデバイスで取引情報を記録し、共同管理を行う分散型(非中央集権的)ネットワークのことでもある。また、匿名性を持たせて個人情報を登録せずに取引や情報処理を行えるのもこの技術の大きな特徴だ。仮想通貨(暗号通貨)のビットコインなどはこの技術を活用した例だ。

現在、分散型暗号通貨を発行する国は一つもない。トランプ米大統領はツイッター上で、ビットコインなどの暗号通貨は「通貨ではない」との認識を示した。トランプ政権の下で、米証券取引委員会(SEC)は暗号通貨による取引活動への監督管理を強化した。各国政府が厳格に管理監督をしなければ、ブロックチェーン技術を悪用した詐欺犯罪が多発する可能性がある。

SECは2018年1月末、新規暗号通貨公開(ICO)で6億ドル以上を調達した仮想通貨事業者、アライズバンクに対して資産凍結の裁判所命令を取得した。SECは、同事業者は不正に個人投資家から資金を集めたとして追及した。同年2月、SECはアライズバンクの創業者2人を仮想通貨に関する証券詐欺で訴訟を提起した。

現在、国際社会で取引されている仮想通貨について、匿名性のために、取引口座の所有者に対する監督管理が難しい。一部の専門家は、ビットコイン市場が急拡大した背景に、犯罪集団の働きがあったと指摘し、資金洗浄、詐欺、租税回避のほか、イスラム過激派組織「イスラム国」が武器売買でビットコインを利用したとされた。

デジタル通貨の発行

中国四川省重慶市の前市長で、現在シンクタンク、「中国国際経済交流センター」の副理事を務める黄奇帆氏は10月28日に開かれた「第1回外灘金融サミット」で、「人民銀行は、デジタル通貨、DECPを発行する世界初の中央銀行になるだろう」と話した。

人民元をすでに過剰供給してきた中国当局が、同様にデジタル通貨をどれだけ過大に供給するか、これによって金融システムにどのような影響を与えるかと多くの疑問がある。

中国当局が国内にデジタル通貨を発行することによって、金融取引における国民への監視を強めることもできる。黄奇帆氏は発言で、当局が「DCEPに関して2層構造の運営体制をとる。つまり、人民銀行が商業銀行に両替しDCEPを発行し、商業銀行から市民に行き渡るということだ。市民がDCEPを使用する際、DCEPは記帳、資金流動の情報などをリアルタイムで収集できる」とした。言い換えれば、中国当局は国民の金銭のやり取りの情報、消費情報を全部把握できる。

人民日報の28日の記事では、ブロックチェーン技術の重要性を訴えた一方で、同技術を用いた仮想通貨の取引を厳禁すると主張した。中国当局は2017年に国内のビットコイン取引所を閉鎖した。今年4月、当局はさらにビットコインの採掘を禁止した。

中国当局は国内でデジタル通貨の発行、取引を独占し、他の仮想通貨を完全に排除する意図が明白だ。

制裁回避とドルへの対抗

中国当局が仮に対国外にデジタル通貨を発行する場合、米国の制裁対象国であるイランなどと「暗号化の取引」ができる。現在の国際送金や決済システムのSWIFTとCHIPSでは、米政府はこのような取引を直ちに察知する。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・最高財務責任者(CFO)が対イラン禁輸違反でカナダで逮捕されたのは、このためだった。

習近平国家主席は24日の講演で、ブロックチェーンの標準化に関する研究開発を一段と強め、世界ブロックチェーン市場における中国の発言権とルール決定権を拡大していくと言及した。いっぽう、黄奇帆氏はブロックチェーン技術による越境決済をテストすると発言した。SWIFTなど国際決済システムの回避に取り組む中国当局の姿勢が見てとれる。

中国は今まで、人民元の国際化を推進して来た。しかし、これに伴う自由市場経済の基盤と法制度はない。当局はデジタル通貨の発行を通して、巨大経済圏構想「一帯一路」の関与国や米政府の制裁対象国と金融取引を行い、人民元の国際化を実現していく可能性がある。

在米中国人経済学者の夏業良氏などの一部の専門家は、中国当局は5年前から、「デジタル通貨」を通して、米ドルに取って代わって、人民元を基軸通貨にすることを企ててきたとの見方を示した。

中国当局が、法整備や倫理上の規制がないままデジタル通貨を発行し、国内外の金融市場に混乱をもたらすことが最大の課題とみられる。

米SNS大手、フェイスブックは来年半ばに独自の仮想通貨「リブラ」の発行を計画している。これに対して、フランスやドイツなど欧州5カ国、米政府は反発した。7月に開かれた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、各国はリブラについて、「国家の通貨主権や金融政策に影響を与え、資金洗浄やデータ保護に懸念がある」と指摘し、ユーザーへの保護対策や不正取引の回避などを含む「最高の規制基準を満たし、慎重な監督と監視の対象になる」必要があるとの認識で一致した。

(文・至清、翻訳編集・張哲)

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