11月17日以降、香港理工大学で警察と抗議者による激しい衝突は香港情勢の緊張を一気に高めた。警官隊は催涙弾やゴム弾だけではなく、音波砲や音響閃光弾(スタングレネード)などを投入した。これに対して、学生らはレンガや火炎瓶を投げたり、弓矢を放ったりして必死の抵抗を見せた。18日未明、同大キャンパス内は火の海と化した。1989年天安門事件で中国軍が学生らを武力鎮圧した当時を彷彿とさせた。
19日午後5時半ごろ、構内に残っている学生や抗議者のうち、数十人が立法会(議会)の許智峯議員とともに、大学から離れた。香港警察は同日、理工大学から出た学生らを「暴動罪」の容疑で逮捕すると発表した。香港紙・蘋果日報20日付によると、同日朝7時現在、約100人がまだ大学内に残っている。
米中国語テレビ放送局「新唐人」のニュース番組は19日、香港警察が理工大学を包囲した理由について分析した。
「交通の要所にある」
香港の地図を見ると、理工大学の東に紅磡海底トンネルがあり、近くに漆咸道北、康荘道、加士居道などの主要幹線道路が集まることが分かる。大学の西側に中国軍の香港駐留部隊の駐屯地「槍会山軍営」が位置する。
香港の若者は、今までバリケードで幹線道路を封鎖するなどの方法で、政府に市民の要求に応じるよう迫った。多くの市民は、この行為によって交通が渋滞して不便だと感じながらも、今この状況を作り出したのは抗議者ではなく、市民の訴えを無視する香港政府だと指摘した。100万~200万人の市民は6月9日と16日、8月18日などに平和的にパレードを進行したが、香港政府は市民が求めた5つの要求に、いまだに全部、応えていない。
11月16日夜、一部の抗議者が紅磡海底トンネルの出口を封鎖したため、警官隊は強制排除に乗り出した。同日深夜、警官隊の鎮圧で抗議者らは理工大学構内に退去した。17日、九龍半島の南地域にいた抗議者らは、理工大学を拠点に、尖東や尖沙咀など各地の幹線道路を封鎖し、「ゲリラ戦」を展開した。したがって、警察当局は理工大学を「暴徒の根拠地」と見なし、徹底的な取り締まりを始めた。
「勇武派を一網打尽」
香港人ネットユーザーの間では、警察が抗議者の中の「勇武派」を取り締まるため、17日、デモ隊の強制排除から理工大学の包囲へと戦略を変えたのではないかとの見方が広がっている。
道路を障害物で封鎖し、催涙弾など放つ警官隊に火炎瓶を投げて抵抗し、抗議活動の最前線に立つ抗議者は「勇武派」と呼ばれている。抗議者が利用するネット掲示板「連登討論区」では、香港警察は勇武派の中心人物は2000~3000人いて、その一部が理工大学内にいると認識しているとの書き込みがあった。警察が理工大学に突入しないで包囲した目的について、ネットユーザーは「構内にとどまっている学生らを救助するために他の勇武派が駆けつけて来るため、その時に一網打尽にする狙いがあった」と分析した。
「中国当局の指針」
理工大学を包囲した3つ目の理由は、香港政府が中国最高指導部から指令を受けたことにあるとみられる。中国共産党機関紙・人民日報などの官製メディアは今月10日以降、香港抗議者への取り締まりを一段と強化しなければならないとのプロパガンダを始めた。なかには、香港警察を支援するために中国軍を派遣してもよいとの主張もあった。
習近平国家主席は訪問先のブラジルで、「暴力と混乱を制止することが現在、香港での最も差し迫った任務だ」と発言。香港政府ナンバー2の張建宗・政務司司長は、「より思い切った措置で」抗議活動を抑え付けると述べた。
「香港警察トップに強硬派」
中国当局は18日、香港警察のトップにナンバー2だった鄧炳強氏(54)を任命した。前トップの盧偉聡氏は定年退職となった。鄧氏は5年前の民主化運動「雨傘運動」で強硬な対応をとったことで、強硬派とされている。また同氏は17日、理工大学への包囲を指揮した。同氏の命令の下で、警官隊は音波砲などの兵器を投入し、キャンパス内にとどまった学生らに「実弾使用」と警告したほか、現場で取材中の記者や救護活動に従事する医療関係者を排除し逮捕した。
「トランプ大統領の弾劾調査の隙に」
香港警察が抗議者への締め付けをさらに強化しているなかで、米議会ではトランプ大統領の「ウクライナ疑惑」をめぐる弾劾公聴会が行われている。疑惑で非難されている大統領は最近、香港の抗議デモをめぐる発言が少ない。
また、米中通商協議で「第1段階」の合意に向けて米中双方が取り組んでいるため、中国当局は、トランプ政権は香港問題に関して口出しを控えていると判断したとみられる。
いっぽう、ポンペオ米国務長官は18日、香港情勢への強い懸念を示した。長官は、若者による抗議活動の激化について、「香港政府が主な責任を負わなければならない。法執行だけでは対立を解決できない」と述べた。また、香港の林鄭月娥・行政長官に向けて「デモを巡る事件の独立した調査を認めるよう」にと呼び掛けた。
(翻訳編集・張哲)