スウェーデン検察は12月9日、同国の前中国大使アンナ・リンドステット(Anna Lindstedt)氏を、外国勢力との交渉で権力を濫用した疑いで起訴した。元大使は今年1月、中国大陸に拉致された香港書店の桂民海氏の娘、アンゲラ・クイ(Angel Gui)さんを、中国人男性らと面会させた。この面会はスウェーデン政府の許可を得ていなかった。
ハンス・イルマン(Hans Ihrman)検事副総長は、リンドステット氏を、外交官のガイドラインに違反し、自身の職責権限を超え他者の面会を手配したため、起訴したと説明した。
イルマン検事によると、リンドステット氏の容疑は近年前例のない「職権を濫用した外国勢力との交渉」で、刑事責任を負う必要があるとした。もし有罪判決が下れば、最長2年の禁固刑を言い渡される。
スウェーデン国籍を持つ桂民海氏は2015年、タイから中国大陸に連行された。後に中国中央テレビは同氏が「2003年に飲酒運転していた」と罪を認めるビデオを放送し、同氏は2年間の有罪判決を受けた。
スウェーデン外務省は2017年10月、中国当局から、桂民海氏を釈放したとの通知を受けたと発表した。しかし、2018年1月、桂氏は再び、北京のスウェーデン大使館職員らの前で、10人ほどの中国国家安全保障担当者に連れ去られ、今も拘束されている。
同氏が勤務する書店は大陸で禁書扱いとされる書籍を取り扱っている。店員など5人が2015年10〜12月の間に、相次ぎ失踪した。
桂民海氏が失踪後、イギリスに留学中の娘は父親の釈放のために各国政府に働きかけ、SNSでも積極的に発信していた。今年1月、アンゲラさんは、リンドステット氏の仲介で、「父親の釈放を手助けする」ために中国人ビジネスマンと面会した。
彼女によると、面会した人のなかにはミニ・シリコンバレー(本部=中国江蘇省)の社長・劉瑞宸氏が含まれている。
劉瑞宸氏らから、報道機関の取材の受け入れを拒否し、ソーシャルメディアでの発信も停止するよう要求されたという。彼女はこの要求を拒否した。「父が釈放される『かもしれない』というあいまいな約束と引き換えに、黙っているつもりはない。脅迫、暴言、賄賂、甘い言葉などでは、状況は変わらない」とアンゲラさんは自身のブログに書いている。
リンドステット前大使もその場で「これ以上活動すれば、中国はスウェーデンに制裁を加えるかもしれない」と圧力を掛けたという。アンゲラさんは、面会がスウェーデン政府の同意のもと、開かれたものだと思っていた。
アンゲラさんから問い合わせを受けたスウェーデン政府は、1月中に大使を呼び戻した。
桂民海氏の事件は、スウェーデンと中国の間で緊張を引き起こした。11月5日、言論の自由の擁護を掲げる団体「スウェーデン・ペンクラブ」は、公権力から脅迫や迫害を受けている作家や編集者に授与する「トゥホルスキー賞」を、桂民海氏に授与すると発表した。桂従友中国大使はスウェーデン政府関係者が授賞式に出席すれば、「結果が伴う」と発言した。
アマンダ・リンド文化民主主義大臣が授賞式に出席し、プレゼンターを務めた。先月、スウェーデン映画2本が中国で上映禁止となった。桂従友中国大使はスウェーデンの主要な日刊新聞ヨーテボリ・ポステンに対して、両国の貿易を規制するとの報復措置に言及した。
国営公共テレビ放送のスウェーデン・テレビ(SVT)によると、スウェーデンで外交官が同国の治安を害する罪で起訴されたのは1794年以来という。
(翻訳編集・佐渡道世)