中国共産党中央規律検査委員会と国家監察委員会は4月19日、公安省の孫力軍次官(51)について、「重大な規律違反と違法行為」の疑いで調査していると発表した。共産党指導部の情報筋によると、孫次官は党内江沢民派閥のメンバーで、習近平国家主席の失脚を企てる「トラ級」の大物だ。孫氏は、法輪功学習者への弾圧や人権派弁護士の一斉拘束も主導した。
孫力軍氏は、公安省次官のほかに、同省の党委員会委員と同省の香港・マカオ・台湾政策担当トップを兼任している。階級は副総警監(警察庁次長に相当)。中共肺炎(新型コロナウイルス感染症)が発生してから、孫氏は2月、武漢市に出向き、現地の警察当局を指揮していた。孫氏が失脚する前、公安省のウェブサイトに掲載された公開情報によれば、同省では、長官など12人の高官がいる中、孫力軍氏はナンバー8となっている。次官が6人いるなかで、孫氏はナンバー5だという。
また、孫氏は公安省一局(国内安全保衛局、以下は国保局)と二十六局の局長、党中央610弁公室副主任を務めたこともある。二十六局と党中央610弁公室は、中国共産党政権が、伝統的な気功を学ぶグループ、法輪功を弾圧するために設立した機関である。
情報筋は大紀元の取材に対して、一局と二十六局は「実質的に政治保衛局である」と話した。政治保衛局の権限は国家安全省より大きいため、この2局は「情報収集、民族・宗教問題、反政権転覆工作などを管轄している。海外の親中国共産党組織、スパイ、工作員もこの2局の指示と管理を受けている」
習近平氏へのクーデターに関与か
中共肺炎の感染が拡大するなか、社会安定を維持する主要政府機関の高官である孫氏の失脚について憶測が飛び交った。
情報筋によると、孫力軍氏の党内でのポストは、毛沢東の警備責任者を長年務めた汪東興氏に匹敵し、「クーデターが起きた際、どの勢力が勝つかを決められる存在だ」という。「孫力軍氏は江沢民派で、習近平氏の下野を狙う反対勢力のメンバーでもある」「習近平氏が身辺の脅威を取り除くために、孫氏を拘束した」と情報筋は述べた。
また、このほどクーデターの噂が後を絶たない中で、「孫氏の逮捕は、習近平陣営が優勢になったことを意味する」と情報筋は指摘した。
「習近平氏の側近である公安省の王小洪・常務次官が最近、要人の警護を担当する特勤局(八局、中国版シークレットサービス)の人事を刷新した。これは、習近平陣営が公安省内の孫力軍勢力を排除する動きであった」
中国政府系メディア「人民公安報」によると、3月27日、中国公安省が開いた会議で、同省特勤部門の局レベルの幹部の配置について話し合った。特勤局の党委員会書記兼局長の王小洪氏が幹部らに対して「思想においても行動においても、習近平同志を核心とする党中央(の要求)に一致しなければならない」と強く牽制した。
王小洪氏は2019年11月、公安省特勤局の高官が出席した会議で、初めて「特勤局党委員会書記兼局長」として会議に参加した。
一方、孫力軍氏は、共産党中央政治局委員で党中央政法委員会書記を務めた孟建柱氏と深いつながりがある。2007年、孟氏が公安省長官に就任した後、孫氏は同省弁公庁副主任に昇任し、孟氏の秘書となった。これ以降、孫氏は公安省で着々と出世した。孟建柱氏は江沢民派のメンバーとみなされている。
孫氏を拘束後、公安省は声明で、「周永康、孟宏偉、孫力軍らが残した弊害を取り除くべきだ」と主張した。当局は、孫力軍氏が、「反腐敗キャンペーン」で転落した周永康・元党中央政法委員会書記と孟宏偉・元公安省次官に並ぶほどの「大物」であると示唆した。
時事評論家の李林一氏は、公安省の声明内容について、2つのポイントがあるとした。1つ目は、公安省が「習核心」を擁護し、中国共産党中央の権威と指導を支えていくこと。2つ目は、「両面人」(面従腹背の人)になってはならないこと。李林一氏は、「声明の内容では、習近平当局が孫力軍氏が両面人だと暗に批判している」と分析した。
また、李氏によれば、公安省党委員会の会議で、「(幹部)個人および家族に関する重要事項は、必ず上層部に報告するように。隠ぺいしてはいけない」との話が出た。孫力軍氏の妻と息子はオーストラリア国籍だとの情報がある。
香港との関係
公安省の香港・マカオ・台湾事務弁公室主任でもある孫力軍氏は、香港警察の上司として、香港島中心部の湾仔(ワンチャイ)・軍器廠街に位置する警察本部ビル、警政大楼内にオフィスを構えていた。
2017年12月北京で、香港保安局の李家超・局長と、刑事事件などに関する中国本土と香港特別行政区の「相互通報システム」の設置に署名した。
2019年、中国本土への容疑者移送を可能にする「逃亡犯条例」改正案をめぐって、香港市民は半年以上、大規模な抗議活動を行った。当時、米国に亡命した中国人富豪の郭文貴氏は、孫力軍氏が香港に入り、抗議者への鎮圧を指揮したと暴露した。一部のデモ参加者が警備隊に拘束された後、警官から性的暴行を受けたと訴えた。また、不審な飛び降り自殺事件が相次いだ。郭氏は、「すべては孫力軍氏の命令だった」と非難した。
一方、前述の情報筋は、「(公安省の)国保局の職員が香港に入る際、入国審査手続きなどをしなくてもいい。(公安省内の)香港・マカオ政策部門は国内安全保衛局の管理下にある。しかも、香港の入国審査当局の中に、国保局のスパイがいると聞いたことがあるし、習近平氏の側近が香港に行って、香港にいる国保局のスパイや工作員に習近平氏の指示を伝えても、無視されたと聞いた。これらのスパイはみな、孫力軍氏の命令だけに従っている」と述べた。
法輪功弾圧と709弁護士一斉拘束
孫力軍氏は2013年、公安省一局の局長に昇格し、同時に党中央「610弁公室」副主任に就任した。
法輪功情報サイト「明慧網」が得た情報では、2013年の1年間で、中国国内で約76人の法輪功学習者が拷問などを受けて死亡した。内訳をみると、8人が看守所や拘置所で、10人が洗脳クラスや強制労働収容所で、29人が刑務所で、残りの29人が拘束中、暴行を受けた後に死亡した。76人のうち、3分の1の人は若年層だ。
2013年下半期以降、中国各地の強制労働収容所は次々と閉鎖されたが、洗脳クラスに連行された法輪功学習者の数が急増した。明慧網によれば、同年下半期に洗脳クラスに拘禁された学習者の人数は1044人で、2013年上半期の181人と比べて5倍以上増えた。
孫立軍氏は、2015年7月以降、人権派弁護士や反体制派200人以上を一斉拘束する「709事件」を主導した。
2015年、当時の党中央政法委員会書記だった孟建柱氏が、党中央「610弁公室」の全体会議で報告を行い、国内司法機関に江沢民を告発した法輪功学習者を取り締まり、人権派弁護士を摘発したことが、「今年の主要成果だ」とした。
一方、前述の郭文貴氏が入手した情報では、孫力軍氏は、江沢民の息子である江綿恒氏や孟建柱氏の母などの腎臓移植に関わった。孫氏は、刑務所などから移植手術の条件に適合する囚人を選び出し、「需要に応じて殺害し、臓器を取り出した」という。
2019年6月17日、中国当局による強制臓器収奪問題を独立調査した「民衆法廷」がロンドンで開かれ、「中国当局の臓器狩りは有罪である」との最終判決を下した。民衆法廷のジェフリー・ナイス議長が読み上げた判決文は、中国当局による強制的な臓器収奪は長年にわたり、中国全土で大規模に行われ、法輪功学習者が主な対象であるとの認識を示した。
(記者・方暁/張北、翻訳編集・張哲)