ビデオ会議サービス「ズーム(Zoom)」は6月10日、中国北京の天安門広場で1989年に起きた人民解放軍の武力鎮圧事件の犠牲者を追悼するイベントを開催した米人権団体のアカウントを、一時停止したと発表した。中国系アメリカ人が最高経営責任者(CEO)を務める同社に言論弾圧への加担疑惑が持ち上がっている。
米人権団体「人道中国(Humanitarian China)」は5月31日、ズームの有料アカウントを使い、天安門事件に関するビデオ会議を開いた。会議には中国国内ユーザー、事件で死亡した大学生の母親や、香港で毎年開かれている天安門ろうそく集会の主催者らを含む250人以上が参加した。
団体共同創設者であり天安門事件当時の学生指導者だった周鋒鎖氏によると、6月7日にアカウントが何の説明もなく停止された。10日にアカウントは復旧したという。米メディア「アクシオス(AXIOS)」によれば、人道中国のアカウントのほか、他の中国民主化を支持する活動家のアカウントも一時期停止されている。
ズームは、関連のアカウントを停止したのち、復旧させたことを認めた。「他のグローバル企業と同様に、事業を展開する法域で適用される法律を遵守する必要がある」とズームの広報担当者は語った。米カリフォルニア州サンノゼ市に本社を構えるズームは、中国の3つの支社で合計約700人の従業員がアプリの開発に携わっている。 ズームは、北米、欧州、アジア、中国など複数の国にサーバーを持つ。
ズームの措置に対して、民主活動家たちは怒りの声を上げた。彼らは、同社が中国共産党から直接の圧力を受けた可能性があると疑っている。「もしそうであるならば、ズームは権威主義政府と協力して天安門虐殺の記憶を消すことに加担している」と「人道中国」は声明で述べた。
言論の自由を擁護する米文芸団体ペン・アメリカは、ズームの行動を非難した。「ズームは(新型コロナウイルス蔓延によって)世界各地が封鎖されているなか、企業、学校など多くの組織にとって最適なプラットフォームだった。しかし、中国共産党の浸透工作を広げるのを手助けすることは容認できない」と声明を出した。
カナダのトロント大学のインターネット研究機関シチズン・ラボ(Citizen Lab)が4月3日に発表した調査報告によると、ズームは、標準外の暗号化方式を使用しており、中国にデータを送信していると指摘した。報告書によると、「北米での複数回のテスト通話では、会議の暗号化と復号化のキーが中国北京のサーバーに転送されているのが確認された」という。
中国サイバーセキュリティ法によると、国内のすべての企業や組織は政府の要請に応じてデータを提供する義務がある。
6月12日、ズームは公式ブログで、天安門事件に関するオンライン会議を開催したことについて、「中国政府から通告を受け、活動が違法であり、アカウントの凍結を要求した」と公表した。ズームは、天安門事件の会議には、IPアドレスなどの情報要から、多数の中国本土からの参加者が確認できたという。このため、現地の関連法に順守してアカウントの一時凍結などの措置を取ったとした。
(編集・佐渡道世)
※6月12日午前10時30分、ズームのコメントを追記しました。