中国河北省のトラック運転手がこのほど、中国版GPS、北斗衛星測位システム(以下は北斗)の接続切れで当局に罰金処分を科された後に自殺した。この出来事は大きな波紋を呼んだ。北斗の精度は米国の全地球測位システム(GPS)より劣っていると専門家は指摘した。
中国メディアの報道によると、トラック運転手の金徳強さん(51)は5日午後、同省唐山市豊潤区の過積載などを取り締まる検問所で、北斗への接続が切れているという理由で、トラックが差し押さえられ、2000元(約3万3500円)の罰金を科せられた。 金さんは、システムへの接続が切れたのは自分のせいではないと主張し、罰金を受け入れないと検問員に抗議した。しかし、両者間の話し合いが平行線となったため、金さんは検問所で殺虫剤を飲んで自殺した。
同じくトラック運転手として働いている金さんの兄は6日、メディアの取材に対して、「長時間運転を防ぐために、ドライバーはこの測位システムの設置を義務付けられた。もし、長時間運動があった場合、システムは警告してくれる。それがない場合は、システムから何も反応がないのだ。だから、接続が切れた時、それに気づかないことが多い」と話した。
金さんは自殺前、SNS微信で遺書を残した。金さんは、ドライバーとして働いた10年間、給料が少ない割に、いくつかの病を患ったと話した。「体調が悪いのに、仕事をしなければいけない」。金さんには3人の子どもがいる。兄とともに、70代の母親を扶養している。
金さんの兄によると、遺族が金さんの通帳を見つけたが、残された貯金はわずか6000元(約10万円)だったという。
中国当局は2013年、トラック運転手らに北斗の設置を義務化した。このため、ドライバーは毎年、数千元(約数万~10万円以上)の設置費用と数百元(約数千~1万円以上)のサービス費用を支払わなければ、営業許可証明書を取得できない。しかし、北斗が導入されてから、接続が切れるなどの故障が頻発している。しかし、各地の警察当局はドライバーが故意に接続を切ったとして高い罰金を科している。これらの罰金を自分の懐に入れている悪徳警官が後を絶たないという。
品質と精度
中国ポータルサイト「新浪網」が8日に掲載した記事は、通信業界の専門家の話を引用し、接続が切れた原因は北斗自体に問題があったとの見方を示した。
専門家は、「ドライバーは、警察当局から重い処罰を受ける可能性があるとわかっているので、故意に接続回線を外すことをしない」と述べた。
「接続が切れた理由は主に2つある。北斗自体のハードウエアやソフトウエアに問題があるか、アンテナの設置に問題があったと考える。また、トラックがシステムの圏外にいた可能性があるし、衛星からの受信速度が遅くなったことも考えられる」
北斗に詳しい専門家の方氏は8日、米ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対して、同システムの送受信モジュールに問題が生じた可能性を示した。しかし、「技術故障なのか、モジュールの品質問題なのかはわからない」という。「衛星が地上の物体の位置を測定するために、多くの地上データが必要で、それらのデータを処理・計算しなければならない。伝送能力が十分でないと、接続が切れる原因になる。 また、レシーバーモジュールの受信精度が悪いと、接続ができなくなる」という。
軍事、経済、宇宙とハイテク分野で世界覇権を狙っている中国当局は、1994年に北斗を開発し始めた。昨年まで、当局は同システムを完成するために30基の衛星を打ち上げた。ブルームバーグなどの報道では、中国当局は北斗プロジェクトに100億ドル(約1兆966億円)超の資金を投入した。中国側は北斗の精度について、米GPSと肩を並べると宣伝している。
中国メディアなどによると、2017年以降、ネット上で北斗の回線接続切れを訴えるトラック運転手が増えている。専門家の方氏は、その根本問題は「部品などの品質管理にある」と指摘した。同氏は、米国のGPSと比べて、北斗の測位精度は劣っているとした。
中国軍の戦闘機、軍艦、ミサイルが精度の低い北斗を搭載すれば、「どうなるかを想像するだけで怖くなる。戦闘機が上空で衝突するかもしれない」と方氏は強く懸念した。
いっぽう、中国国営新華社通信は8日、中国版ツイッター、微博に投稿し、金さんの自殺について「この悲劇が起きた原因と責任を北斗に押し付けるべきではない」と主張した。その後、他の官製メディアが同論調を始めた。このため、「北斗のせいじゃなければ、GPSのせいだというのか?」「北斗が原因で罰金されたのに」「調査報告書を出せ」などとネットユーザーは憤慨した。
(翻訳編集・張哲)