環境問題を媒介とする、習近平とバイデンの関係

2021/04/29 更新: 2021/04/29

私が「バイデン政権は中国と未だに深い関係にある」と言うと、荒唐無稽な陰謀論者のような扱いを受けることが多い。確かに表面的にはバイデン政権の対中政策はトランプ政権を引き継いだ厳しい対中政策を実施しているように見えるのは事実だ。菅総理とバイデン大統領の首脳会談で発表された日米共同声明においても、かなり厳しい対中姿勢が文言としてまとめられた。だが、これを本質だと見ると大きく間違うのではないかというのが私の考えだ。

マスコミではほとんど報道されていないが、菅総理は訪米中に様々な屈辱を味わった。菅総理がホワイトハウスを訪問した時に玄関口で出迎えるアメリカの高官は一人もいなかった。ホワイトハウスに入って出迎えたのはバイデン大統領ではなく、ハリス副大統領であり、しかも菅総理を迎えてのハリス副大統領の第一声は、菅総理に対する歓迎と労いの言葉ではなかった。日本側が要求した晩餐会の開催は拒絶され、代わりに開かれたのはN95マスクを付けたままのハンバーガー1個の昼食会だった。菅総理もバイデン大統領もともにファイザーのワクチンの2回接種を終えているのにだ。他にもまだまだ色々とあるのだが、長くなるのでここでは割愛する。

もしアメリカが日本を対中国最重要戦略的パートナーとして重視しようと本気で思っているのであれば、こうした菅総理への冷遇は考えられない。自分はこれはバイデン政権の中国に対する言い訳だと見ている。日米共同声明は国内世論に押されて中国に対して厳しい文言になるが、ここに過剰反応しないでもらいたい、日米の連携など書面上のことにすぎず、最終的には中国の利益を考えた着地点を用意するから見ていてもらいたいというサインではないかと考えているのだ。そして中国の利益を考えた着地点とは、先進国でのCO2排出の大幅削減である。

火力発電をやめて太陽光や風力などの「再生可能エネルギー」に全面移行するのは不可能だ。太陽光や風力は必要な時にまったく稼働しないことがあるから、そういう事態が生じたときのバックアップ電力が必要であり、その役は火力が担わなければならない。つまり、稼働率の低い設備として火力を温存させなければならないのだ。さらに日本の地理的な位置は太陽光や風力にあまり適しておらず、稼働率が低くなって、その分高コストにならざるをえない。発電コストの上昇は我々の負担するコストを高めて我々の暮らしを直撃するだけでなく、日本の製造業拠点としての魅力を失わせることにもなる。

2030年のCO2排出量をアメリカは2005年比で50〜52%削減するとした。日本は2013年比で46%削減するとした。これをまじめに実現しようとしたら、日米の製造業は壊滅的な打撃を被ることになる。例えば日本製鉄はゼロ・カーボン・スチールの実現のための研究開発費が5000億円、これに基づく設備投資が4〜5兆円規模になり、さらに操業コストが現状の2倍以上になるのは避けられないとの見通しを、中長期経営計画で発表している。そしてゼロ・カーボン・スチールの実現と併せた別の2つの戦略の柱が、「国内製鉄事業の再構築」=「国内事業の縮小」と、「海外事業の深化」=「日本のような厳しいCO2規制の必要のない中国などへの生産設備の移管」である。日本製鉄は現在約8割を国内で生産しているが、これを海外比率を5割以上にする方針で動いているのだ。サプライチェーンを安全保障の観点から見直して、中国から国内に製造業の拠点を移すなど、このCO2規制のもとでは絵に描いた餅になる。いくら中国からの製造業の回帰を呼びかけても、これに応じることは企業にとって自殺行為になってしまう。

現在中国の発電の66.9%が石炭火力で、2.7%がガス火力で、0.1%が石油火力なので、中国は合計で69.7%が火力発電となっている。しかも火力発電の中でも圧倒的に石炭火力の割合が高い。それなのに、2020年の上半期に中国が新設計画をまとめた石炭火力発電所の発電容量は53.2ギガワットで、世界全体の90%にも達する。西側諸国には石炭火力の発電停止を求めながら、中国は平然と石炭火力の増強を続けている。中国は2030年までにCO2排出量のピークを迎え、2060年までに実質ゼロを目指すとの方針であるから、石炭火力の増強を続けても何らの問題もないのだ。

中国は西側の環境団体を積極的に支援してきた。米下院天然資源委員会は有力な環境保護団体である世界資源研究所が、中国政府および中国共産党と定期的に交流し、中国の政策を肯定的に扱っていることを指摘している。同委員会は環境系法律事務所のアース・ジャスティスが、中国政府に都合がよくアメリカに不都合な活動を米国内外で展開していることも指摘している。ちなみにこのアース・ジャスティスは、スウェーデンの有名な環境活動家のグレタ・トゥンベリ氏を支え、日本の沖縄の普天間基地の移転に反対する運動にも関わっている。

バイデン大統領と習近平は10年近くになる個人的な関係があり、この間に様々なことで持ちつ持たれつの関係を築いてきた。弟のジム・バイデン、息子のハンター・バイデンをフロントにした中国ビジネスにも関わってきた。ケリー気候変動担当特使、ブリンケン国務長官などもバイデンつながりで、中国との関係が深い。副大統領のカマラ・ハリスの夫のダグ・エムホフが長年働いてきたDLAパイパーという法律事務所は、中国進出企業のアドバイザー業務を通じて、中国政府と深い関係を持っていることで知られる。DLAパイパーは中国政府を顧客として抱える企業でもある。

ブリンケン国務長官はコロナの世界的蔓延の責任が中国にあるとしながらも、「未来志向」を理由として中国に対する懲罰的処置には消極的な姿勢を見せた。国務省のプライス報道官が北京オリンピックのボイコットを同盟国と連携して進める意向を示したと思ったら、その直後にバイデン政権のサキ報道官はこれを全否定するコメントを発表した。そもそもバイデン大統領自身が2月のCNNの番組で「香港、ウイグル、台湾に対する中国共産党の好戦的な行動に反対する声を自分は上げない」と述べている。

バイデン政権がいくら親中だと言っても、国内の厳しい反中世論に応えなければならないし、中国に敗れることをよしとしない動きは政権内にも当然あるだろう。我々はここに期待して働きかけていくことも大切なのだが、バイデン政権が環境問題を利用して習近平政権を支えている側面を軽視してはならない。ゲームチェンジのためにはルールの変更が必要であり、気候サミットでの合意をどうやってひっくり返すかを、我々は真剣に追求しなければならない。


朝香豊(あさか ゆたか)

1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。ブログ「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。近著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)、『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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