国際オリンピック委員会(IOC)は4月21日、五輪の競技会場等で政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁止する五輪憲章50条の維持を維持することを発表した。AP通信の報道によると、選手が黒人差別反対運動「Black Lives Matter(ブラック・ライブス・マター)」の文字が書かれたアパレル製品の着用も禁止するという。
憲章50条はオリンピック競技の中立性を保障することを主旨とし、オリンピック競技場等における広告とプロパガンダを規制する規定である。最近、アスリートが表彰台や国歌斉唱時に片膝をついたり、こぶしを高く上げたりして抵抗を意味するポーズを取ることが問題視されていた。
オリンピック憲章の50条1項には、「IOC理事会が例外として許可する場合を除き、 オリンピック用地の一部とみなされるスタジアム、 競技会場、 その他の競技区域内とその上空は、 いかなる形態の広告、 またはその他の宣伝も許可されない」と定められている。
また、50条2項には、「オリンピックの用地、競技会場、またはその他の区域では、いかなる種類のデモンストレーションも、 あるいは政治的、 宗教的、 人種的プロパガンダも許可されない」と規定されている。
ロイター通信4月22日の報道によると、世界的な抗議運動の広がりと選手の主張に関するルールの見直しの声が高まる中、IOCはアスリートや競技団体との協議を行なった。その結果、IOC理事会はこの50条を維持すると結論づけた。
IOCは、選手の言論と表現の自由について、基本的人権だが絶対的ではなく、一定の条件下では制限されうると人権弁護士とスポーツ法の専門家の意見を引用して見解を示した。
IOCのカースティ・コベントリー委員はオンラインの発表で、人種間の平等を支持するためにひざまずいた選手は罰せられるのかとの記者の質問に対し「その通りだ」「それ(主張の規制)は選手たちが望んでいることだ」と述べた。
ルールの見直しに際して、IOCは2020年6月から、3500人あまりの選手たちに対してアンケート調査を行った。その結果、7割の選手は開会式や表彰台、競技場で抗議運動を行うことは適切ではないと考えていることが分かった。
懲罰については、その行動が憲章50条に違反するかどうかをIOCが調べ、判断するという。
いっぽう、ブラック・ライブズ・マター(BLM)は規制対象とすべきではないとの声もある。IOCによる50条維持の発表を受けて、一部の活動家やスポーツ団体は、選手に対する規制そのものを撤廃すべきだと反発している。
AP通信は4月23日、規制対象のなかにBLM関連のアパレル製品も含まれるのかIOCに確認したところ、BLMも例外ではないという回答があったと報じている。
BLMは、昨年5月にミネソタ州ミネアポリスで発生した黒人男性の死亡事件を端緒に米国のみならず世界的に広がった差別反対運動。一部の抗議者らによる店舗の襲撃や彫像の破壊といった過激な行動が問題となっている。
昨年行われたテニスの全米オープンでは、大坂なおみ選手が亡くなった黒人青年の名前の書かれたマスクを着用してBLMに支持を示したことが、日本のメディアでも多く取り上げられた。
IOCは協議の結果、憲章50条1項と憲章50条2項を2つのルールに分けるとした。そして、憲章50条2項の規定する範囲をより明確にし、現時点ではガイドラインにのみ含まれている規定事項を明文化するという。新ルールは、五輪開幕の7月23日前に公表される見通し。
(王文亮)