このほど、中国の劉鶴副首相に関する不利な報道が相次いでいる。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は19日、中国の劉鶴副首相の息子に関するスキャンダルを報じた。米メディアは12日、中国当局が対米通商協議担当トップを劉氏から交代するか検討していると伝えた。専門家は、一連の報道は共産党内の反習近平陣営が来年の党大会をにらんだ動きだと指摘した。
天壹資本
FT紙によると、劉鶴氏の息子、劉天然氏は資産管理運用会社、天壹紫騰資産管理(寧波)有限公司(以下は天壹資本)の会長を務めたことがある。同社は2016年、浙江省で設立した。劉鶴氏が17年10月に共産党中央政治局委員に昇任する前、劉天然氏は同年4月に同社会長を辞任した。18年、劉天然氏が保有する同社の株式を売却した。同年5月、同社の会社情報には、劉天然氏に関する記載内容がなくなった。
FT紙は情報筋の話として、劉天然氏が天壹資本のトップを退き、株式を売却したにもかかわらず、同社の投資プロジェクトに関わっていたとした。劉氏の働きで、天壹資本は中国IT大手の騰訊控股(テンセント)や京東集団(JDドットコム)の子会社に出資できた。このため、劉氏は巨額な報酬を受け取った。2018年、天壹資本から500万ドルの出資を受けたテンセントの子会社、騰訊音楽は米国市場に新規上場を果たした。現在、その時価総額は上場当時の2倍に膨らんだ。
報道によると、天壹資本は100億元(約1600億円)規模の資産を管理運用している。同社の社員数は約30人で、北京、上海に事務所を設置している。現会長の唐萌氏は、易方達基金管理有限公司でファンドマネージャーを務めたほか、北京市国家安全局の職員、中国人民解放軍66442部隊の参謀、軍国際関係学院の研究員などの経歴を持つ。
3期目目指す習氏を狙う
習近平政権は昨年末以降、電子商取引最大手のアリババをはじめ、中国のネットIT企業に対して独占禁止法関連の調査を強化し、3月、独占禁止法に違反したとしてテンセントや京東集団など大手フィンテック13社に行政指導を行い、罰金を科した。こうした中、習近平氏の側近中の側近である劉鶴氏の息子に関するFT紙の報道は波紋を広げている。
いっぽう、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は12日、情報筋の話を引用し、中国当局は対米通商交渉トップの劉鶴氏を交代し、胡春華副首相の起用を検討していると報じた。
同日、河南省南陽市を視察する習近平氏に同行したのは、劉鶴氏ではなく、胡春華氏だったことがわかった。劉鶴氏は今まで、習近平氏の各地への視察に同伴していた。このことから、劉氏が対米通商交渉のトップを退任する観測が高まった。
大紀元コメンテーターの唐靖遠氏は、「FT紙の劉天然氏に関する暴露記事は、劉鶴氏だけではなく、最終的に習近平氏に打撃を与えることを目的にしている。経済学者の劉氏は習政権の経済金融政策を担っている。劉氏に対する打撃は、習氏の経済政策への打撃である。記事の目的は、習氏とその右腕をともに倒すことにある」と分析した。
唐氏は、この背景には来年の党大会があると指摘した。習近平氏は来年党大会で、3期目の続投を目指しているとされる。「習氏の3期目の続投とともに、党内の他の人事も決めなければならない」
今秋、中国共産党の重要な会議の一つ、第19期中央委員会第6回全体会議(六中全会)が開催される。唐氏は「この六中全会で次期政権の人事がほぼ決まる。問題がなければ、来年の党大会でこの人事が発表される」とした。
「来年70歳になる劉鶴氏はそろそろ政界から引退する。この暴露記事は劉鶴氏本人に実質的な影響はないと言える。しかし、3期目続投を目指す習近平氏にとっては影響が大きい」
劉鶴氏は中国の金融安定発展委員会主任を兼任する。習政権が主導するアリババ集団とその金融子会社、アントグループへの締め付けのなかで、劉鶴氏は主要政策の執行者である。
「昨年末から、習近平陣営が馬雲(ジャック・マー)氏とアリババ集団への取り締まりを強めてきた。習政権は、アントグループの上海と香港両市場での上場を停止し、アリババ集団に対してメディア事業の売却を命じたなどと報道された。しかも、16日、馬雲氏が設立したビジネススクール『湖畔大学』は名称を変更すると決めた」
唐靖遠氏は、習近平氏の馬雲氏とアリババ集団に対する引き締めで恩恵を受けたのは、アントグループの電子決済事業(アリペイ)とアリババ集団の競争相手であるテンセントの電子決済事業(ウィーペイ)、同じく電子商取引大手の京東集団だと指摘した。
「習近平氏が自ら馬雲氏への引き締めを執り行ったなら、この劉天然氏に関する暴露記事は(馬氏らからの)反撃であると推測する」
米紙WSJは今年2月、馬雲氏が江沢民元国家主席の孫、江志成氏や他の江沢民派メンバーと近い関係にあると報じた。
(翻訳編集・張哲)