重要施設周辺や国境離島の土地の調査と利用を規制する「重要土地等調査法案」が5月、審議入りした。議員は質疑で、中国のショッピングサイトに北海道や対馬の土地が売却されていた事例などを挙げて、法案に抜け穴がないかどうかを追及している。
土地取引の規制をめぐっては、議論からおよそ10年が経つ。8年前に議員立法として土地取得に関する規制法案がまとまり、衆議院に提出されたが、審議入りしなかった。今年2月、内閣が同法案を衆議院に提出して、審査が了承された。目的は、中国など外国資本が日本の防衛に関わる重要施設および国境離島の機能を阻害する行為を防止するためだ。
11日の衆議院本会議では、同法案の趣旨説明と質疑が行われた。領土問題を担当する小此木八郎国家公安委員長は「わが国の防衛関係施設の周辺や国境離島で、外国資本が土地を買収していることは、長年問題視されてきた課題だ」と語った。
同法案は、土地所有者の国籍を問わず、重要施設の周辺および土地などの利用状況を調査し、重要施設の機能を阻害する行為が認められた場合に勧告・命令の措置を講じるとしている。
利用に関して報告を求め、報告に応じなかったり、虚偽の報告を行ったりした場合は30万以下の罰金、命令に違反した場合は2年以下の懲役、200万円以下の罰金が科せられる可能性がある。また、総理大臣は調査対象の土地がある地方自治体に対して、住民票など土地利用者の情報提供を求めることができるとしている。
21日、衆議院内閣委員会で杉田水脈議員が、外国人による土地取得について質問した。議員は中国や韓国、オーストラリアなどでは外国人の土地取得を規制していることをあげて、外交の相互主義にもとづき、日本のルール整備の必要性を説いた。
また、中国共産党政府が2021年1月に施行した、主権や領土の保全など海外権益の保護を名目に軍事力を動員すると定めた「国防法」改正案が可決したことをあげ、日本の安全保障上、土地利用規制は急務だと強調した。
自衛隊の訓練の様子が一望でき、強い危機感
杉田議員は2013年、議員立法として土地取得規制法案に関わった。当時、実際に長崎県対馬を訪れ、外国資本に買収された土地を視察したとき「小高い丘から自衛隊の訓練の様子が一望でき、強い危機感を覚えた」という。
議員は、2018年に中国のインターネットショッピングサイト・アリババ(Alibaba)で、航空自衛隊千歳基地と新千歳空港に隣接する土地52ヘクタールが49億円で販売された例をあげた。また、北海道の陸上自衛隊の滝川駐屯地が一望できる山林を、中国企業が買収したことや、倶知安駐屯地に隣接する土地100ヘクタールも中国系企業に買収されていると、懸念すべき事案を並べた。
これらに加えて、杉田議員は、同法案の中に「森林」が対象となっていないと指摘。水資源保護の観点から、外国資本による森林買収の危険性をあげ、「水は国民の命にとって必要不可欠なもの。ぜひ森林や農地保護にも対策を講じてほしい」と強調した。これに対し、木村内閣審議官は、同法案の最優先となる対象は防衛関係施設や国境離島だが、この要件にあてはまる森林も対象になりうるとした。
杉田議員はまた、同法案の重要施設に皇居や赤坂御用地、国会議事堂、総理官邸、原子力発電所などのエネルギー関連施設が対象として明記されていないと指摘。「小型無人機飛行禁止法」ではこれらが対象となっていることから、「重要施設」定義の明確な基準を設けるよう求めた。
28日の衆議院内閣委員会で、改めて同法案の審議が行われる。内閣委員会で理事を務め、同法案の修正や与野党折衝を行う平将明議員は27日夜、同法案について「質疑終局、採決までは現時点で与野党合意できず」とツイートしている。
(佐渡道世)