最近、インド太平洋地域の利害関係国の会議では断定的な姿勢を取り続ける中国が議論の標的となっている。 通称「Quad(クアッド)」として知られる日米豪印戦略対話(4ヵ国戦略対話)加盟国による2021年9月下旬の首脳会談では中国が名指しされることはなかったが、同4ヵ国の首脳陣は周知となっている中国政府の攻撃的行動を批判する内容を声明に盛り込んだ。
ワシントン・ポスト紙が報じたところでは、オーストラリアのスコット・モリソン(Scott Morrison)首相は会談の席で、「加盟諸国は一丸となって強制が皆無の状態で常にすべての諸国の主権が尊重され、国際法に則って紛争が平和的に解決されるインド太平洋地域の確立に取り組む」と述べている。これは明らかに中国牽制を念頭に置いた意思表示である。
また、会談後の共同声明には中国が関与する地域で発生している亀裂や不調和を示唆する内容が含まれ、地域の平和、安定、安全、繁栄の確保に向けた努力を倍増する加盟諸国の意図が明記されている。
加盟諸国は共同声明を通して、「目標達成に向けて今後も国際法、特に国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約/UNCLOS)の規定遵守を支持し、東シナ海と南シナ海などの海域において法治に基づく国際秩序の障害となっている課題の解決に取り組んでいく構えである」とし、「島嶼諸国、特に太平洋島嶼国の経済的・環境的回復力強化を支援することを再度約束する」と表明している。
地域全域における諸国の排他的経済水域(EEZ)への侵入を繰り返す中国とブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムといった諸国の間で発生している南シナ海領有権紛争は膠着状態にある。南シナ海に属するフィリピン排他的経済水域の領有権を訴える中国に対して比政府が裁判を申し立てた通称「南シナ海仲裁裁判」では、2016年に常設仲裁裁判所が中国の主張を却下する裁定を下したにも関わらず、中国はこの判決についても無視を続けている。
日本当局は2021年9月、中国では釣魚群島と呼ばれる尖閣諸島に関して中国との間で発生している領有権紛争について改めて不満を強く表明した。岸信夫防衛相はCNNニュースに対して、尖閣諸島は紛れもなく日本領土であり日本はそのつもりで防衛すると語っている。
CNNニュースによると、2021年1月から8月下旬にかけて中国海警局の船舶が日本の領海(基線から12海里までの範囲)に侵入した回数は88回、領海の外側に隣接する尖閣諸島周辺の接続水域(基線から12海里以上)に侵入した回数は851回に上ると、日本当局は発表している。
星条旗新聞の報道では、8月下旬に機関砲のような兵器を搭載した4隻を含む合計7隻の中国海警局の船舶が尖閣諸島の周辺海域を同時に航海するという事態が発生したことで、日本政府は中国政府に強く抗議を申し立てている。
岸防衛相はCNNニュースに対して、「尖閣諸島や東シナ海の他の水域における中国の侵入行動を受け、中国船よりも多くの海上保安庁(JCG)船艇を展開して当国領海を防衛することで日本政府の断固たる姿勢を示す必要がある」と述べている。
CNNニュースが指摘したところでは、日本政府はF-35戦闘機の導入や護衛艦の空母化などにより自衛隊(JSDF)の組織強化を図っている。また、新たな護衛艦や潜水艦の建造とミサイル開発を推進して海上自衛隊(JMSDF)の装備強化にも取り組んでいる。
一方、現在も尖閣諸島の領有権を主張する中国政府は、自国が主張する海域を航行する外国船舶に対して中国海警局が武力を行使することを認める「海警法」を施行した。 米英豪が発表したAUKUSと呼ばれる新たな3ヵ国軍事同盟は、中国の侵略行為に直接的に対抗することを目的としている。
モリソン豪首相、ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)英首相、ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は共同声明を通して、「オーストラリア、英国、米国の指導者として、永続的な理想と法治に基づく国際秩序に対する共通の取り組みを基に、提携諸国との協力関係も含めてインド太平洋地域における外交、安保、防衛における協力体制を深化することで21世紀の課題解決に臨むことを決意した」とし、「AUKUSにより、3ヵ国の政府はその長年にわたる継続的な国間の関係を礎として安保・防衛利益を相互支援するそれぞれの能力を強化する構えである。
より深みのある情報・技術の共有を促進し、安保と防衛に関連する科学、技術、産業基盤、サプライチェーンの緊密な統合を推進していく。特にさまざまな安保・防御機能に関する協力体制を大幅に強化するつもりである」と表明している。
オーストラリア・ノーザンテリトリー政府の防衛・国家安全保障部門のガイ・ボーケンシュタイン(Guy Boekenstein)上級幹部はBBCニュースに対して、「同枠組はインド太平洋における中国共産党の攻撃的な活動に対して米英豪が正式に反対を表明したことを実質的に示すものであるため、これは重大事である」とし、「過去70年間にわたり、中国の経済成長を含めインド太平洋は全地域におけるすべての人々の繁栄・発展の糧となってきた。今回の発表は同地域で発生している事態に対する3ヵ国の包括的な姿勢を示し、安定した安全なインド太平洋を推進する取り組みを公に約束するものでもある」と話している。
今回米英豪が締結したAUKUSには、米国の技術を搭載した原子力潜水艦をオーストラリアが保有できるようにする条項、およびサイバー機能、人工知能、量子技術といった戦略的優先事項の協力体制に関する内容などが含まれている。
(Indo-Pacific Defence Forum)