[丹東(中国遼寧省) 13日 ロイター] – 国連は北朝鮮の兵器開発を遅らせることに失敗したかもしれない。だが、北朝鮮の経済は、中国による燃料輸出削減など、貿易面での締め付けによる打撃を受けつつある兆候を見せている。
国連安全保障理事会が11日に採択した追加制裁は、北朝鮮の数少ない外貨獲得手段の1つである繊維輸出を禁止した。また、米国が望んだ完全禁輸ではないものの、石油と石油製品の輸入量に制限を設けた。
燃料供給量が減少し、価格が上昇するにつれ、北朝鮮国内で制裁の影響が出始めている、と同国との国境地帯を拠点とする中国貿易商や、北朝鮮を定期的に訪問する関係者は語る。以前の国連制裁で、海産物や石炭などの輸出が禁じられたことも影響しているという。
「北朝鮮のわれわれの工場は、倒産寸前だ」と北朝鮮の工場で中古車を整備して販売する丹東の韓国系中国人ビジネスマンは語る。「代金が支払われないのに、商品を(北朝鮮の顧客に)タダで渡すわけにはいかない」
丹東を拠点とする別の自動車関係の貿易商は、中朝の国境貿易はこの数年打撃を受けているとし、制裁と石油へのアクセス減が原因だと述べた。制裁により、北朝鮮企業の貿易に必要なハードカレンシーを稼ぐ力が弱まっていると話す中国人貿易商もいた。
「先月の売り上げは非常に悪かった。数台しか売れなかった」。新車のトラックやバン、ミニバスを北朝鮮で販売する中国人貿易商はそう語る。「昨年8月は数十台売れたが、それでも悪いと思っていた」
制裁に加え、中国当局が国境における密輸取り締まりを強化したと指摘する貿易商もいた。密輸は、北朝鮮北部では主要な燃料源となっている。
また、中国の東北部にある銀行の支店が北朝鮮人との取引を縮小していると、銀行筋が明らかにしている。
<燃料価格の上昇>
北朝鮮はそれでも経済独立性を高めており、国際的な圧力が経済に大きな影響を及ぼしているとの見方で、全ての貿易商や関係者が一致している訳ではない。
供給制限や物資不足に長年慣らされている北朝鮮住民の多くは、ただでさえ不足している燃料供給がさらに制限されることを最も心配していると、脱北者で現在は韓国の北朝鮮専門ネット新聞「デイリーNK」で働くKang Mi-jinさんは話す。
「米国がたとえ平壌爆撃計画を公表したとしても、北朝鮮人は気にも留めないだろう。だがもし中国が、ミサイルや核実験を理由に北朝鮮への石油輸出削減を検討していると公表すれば、大騒ぎになる」と、Kangさんは言った。
ロイターは6月下旬に、中国石油天然気集団(CNPC)が、代金が回収不能になる懸念から、北朝鮮へのガソリンと燃料の輸出を停止したと報じた。中国税関のデータによると、7月の北朝鮮向けガソリン輸出は前年比97%減少している。
北朝鮮のガソリンとディーゼル燃料価格は、輸出停止措置を受けて急上昇し、昨年下旬と比べほぼ2倍になっている。デイリーNKによると、9月上旬のガソリン平均価格は、1キロ1.73ドル(193円)で、12月下旬の0.97ドルからほぼ倍増した。
「生活費は上昇し、石油価格も上がり、道路を走る車の数も減っている」と、平壌在住の外国人はロイターに語った。中国が今年北朝鮮からの石炭輸入を停止したことを受け、石炭だけは価格が下がったという。
石油の供給不足や価格高騰は、さらなる供給制限を見込んだ「備蓄」の動きにも原因があるかもしれない。
北朝鮮は、沿岸部の元山で今月予定されていた航空ショーを、「現在の地政学的情勢」を理由に中止した。複数の中国貿易商は、中止の原因は、軍が航空燃料を節約しているためだと指摘する。
最新の国連制裁は、北朝鮮へのコンデンセートと天然ガス液の輸出を禁止し、石油精製品は年間200万バレルを上限とした。また原油は現行輸出量を上限とする内容だ。
<石油不足に耐性>
米エネルギー情報局によると、北朝鮮の原油消費量は、1970年代や1980年代の工業生産の最盛期に比べて、大幅に減少している。同局によると、冷戦の終結後、中国とソ連から特別価格での原油供給が停止され、原油消費量は1991年の1日当たり7万6000バレルから昨年は推定1万5000バレルまで減った。
小規模の太陽光発電が北朝鮮では広まっており、アパートのバルコニーには、調理や電灯用に電力供給するソーラーパネルがよく見られる。
中国はここ数年間、北朝鮮向け原油輸出量を公表していないが、業界筋によると、年間52万トンあまりを老朽化したパイプラインで供給している。
このパイプラインは、中国北東部の大慶油田産の粘度の高い原油がパイプに詰まらずに流れることができる最低限のレベルで運用されていると、業界幹部は明らかにした。
かつて北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議で韓国の首席代表を務めた千英宇・元大統領府外交安保首席秘書官は、北朝鮮は、石油輸入が停止しても1、2年は耐えることができるとみている。
「北朝鮮の人は厳しい経済状況下での暮らしに慣れきっており、仮に石油の禁輸が実現しても、最低でも1年は何とか暮らせるだろう」と、千氏は言う。「備蓄してある石油は上層部の間で最低限の配給制にし、車やトラクターなどは、牛が引く荷車や人の労働力に置き換えるなどするだろう」
「石炭や木材、植物など、手に入る物で何とか燃料を生産するだろう」と、千氏は付け加えた。
(Sue-Lin Wong記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)