中国の全人代(=国会)常務委員会は4月29日、海事当局の権限を強化する「海上交通安全法」の改正案を可決した。外国船に対する航行阻止が合法化されることを懸念する声が上がっている。米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)7日付は専門家の話として、今回の法改正は海洋で対立を有利に進めるために中国がとった「サラミ・スライス」戦略の一環だと指摘した。
同法は9月1日より施行される。
改正により「中国の領海の安全を脅かしかねない外国船」は領海に入る際に海事当局へ報告を義務づけ、違反した場合は罰金の対象とした。
また、中国が領有権を主張する尖閣の周辺海域や南シナ海で、中国側が「脅威」と判断した外国船に対し領海からの退去を命じたり、中国法に違反した外国船を追跡・逮捕したり、中国の港で取り調べを可能にする権限を海事当局に与えた。
読売新聞(4月29日付)は北京の外交筋の話として、沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で、海警に加え、海事当局も領海侵入を行う可能性があると報じた。
VOAは、中国当局はこの法律を選択的に使用し外国船を紛争海域から追い出したり、または南シナ海に近づけないようにする意図があると専門家の見解を引用して報じた。
中国は沿岸警備隊や漁船団、埋立ておよび人工島の建設などによって 、南シナ海の約90%に対する領有権主張を強化してきた。
米シンクタンク、国防総省のアジア太平洋安全保障研究センター(Daniel K. Inouye) のAlexander Vuving教授は、今回の法改正が中国の「サラミ・スライス」戦略の一環だと指摘した。中国当局は場合によっては東南アジアの船を標的にこの法律を「選択的に」適用させるだろうと予測した。
「サラミ・スライス」戦略とは、その行動の一つずつは戦争の引き金にはならないが、漸進的な行動を積み重ねることで、初期の目標を達成する戦略を指す。中国はこの「サラミ・スライス」戦略を南シナ海と東シナ海の両戦線で実行している。
2月にも海警局に武器使用を認めた「海警法」を施行した。中国は海洋権益確保に向けて国内法の整備を続けている。
Vuving教授は、中国は、南シナ海内における内部管轄権を行使するために、国内法の使用を徐々に増やしていくだろうと述べた。
米軍艦は南シナ海が国際的に開かれた場所であるという主張を示すために、去年、同水域で10回も航行している。
いっぽう、国連海洋法条約は、沿岸国の平和や秩序を乱さなければ、他国船が事前通告なく領海を通過する無害通航を認めている。しかし、改正法は、中国が留保宣言を行った場合、この条約の規定は適用されないとしている。
(大紀元日本ウェブ編集部)