AIがデジタル空間から現実世界へ活用の場を広げるなか、中国共産党(中共)当局は「エンボディドAI(身体性AI)」と人型ロボットを新たな経済成長の柱に位置づけている。当局や企業は、2〜3年以内に「ChatGPTモーメント」と呼ばれる普及の転機が訪れると強調している。
しかし詳細な調査では、実用化に多くの課題が残ることが分かった。人型ロボットは知能や動作の信頼性に難があり、複雑な工場作業に十分対応できていない。市場は政府補助金や国有企業の調達に支えられており、商業化にはなお大きな壁がある。政府資金を大量に投入するなか、過剰生産や価格競争が進み、業界で淘汰が起きる可能性も指摘している。
中国がエンボディドAIと人型ロボットを国家戦略に位置づけ
ベテランジャーナリストの李庭仟氏は大紀元の取材に対し、中共はエンボディドAIを中心に「AI→ロボット→自動化→製造業→輸出」という流れをつくろうとしていると分析。市場の自然な成長ではなく、政府の強い介入によるものだと指摘した。
工業情報化部は8月26日、エンボディドAIを「未来産業」に、インテリジェントロボットを「新興基幹産業」に位置づける方針を改めて示した。両分野には、国家集積回路産業投資基金(第3期)などを通じ、国家資本を優先的に配分する見通しだ。
中国のエンボディドAI新興企業ACE Robotics(大暁機器人)の王暁剛会長はロイター通信に対し、業界が蓄積したデータは約10万時間にとどまるが、2年以内に数千万時間まで増えるとの見通しを示した。同氏は2027年末までに「ChatGPTモーメント」が訪れるとみる一方、幅広い商業化にはさらに4〜5年かかる見込みであることも認めた。
宇樹科技(ユニツリー・ロボティクス)創業者の王興興氏は8月20日、「2026世界ロボット大会」で、業界の転換点は「早ければ2〜3年」で訪れるとの見方を示した。
一方、市場調査機関「百観(Baiguan)」によると、業界全体で利用できる高品質な学習データは約50万時間にとどまる。ロボットが実際の環境を理解し柔軟に行動するには少なくとも1億時間を必要とし、その差は200倍に及ぶ。短期間の資金投入だけで埋めるのは難しい。
生産現場での課題
ロイター通信は8月末、政府機関や国有企業による約1千件の調達案件を分析し、現地取材や企業幹部・研究者40人への取材を行った調査報道を公表した。
優必選(UBTech)は1800万ドル(約28億円)の入札案件を受注し、広西チワン族自治区柳州市に訓練センターを設けた。現場には100台超のロボットが並び、VRゴーグルを装着したトレーナーが動作を実演していた。新人トレーナーがロボットに実用的な動作を1つ覚えさせるには平均300回の試行が必要で、箱の運搬作業はぎこちなく、作業効率は人間の20%にとどまる。運営は政府補助金への依存が大きく、収益化の道筋は明確でない。
AIロボット新興企業、原力霊機(Dexmal)の唐文斌CEOは「ロボットの知能はあまりに低い」と述べ、多くの「作業」は実作業を装った「踊り」にすぎないとの認識を示した。
深圳市ロボット協会の譚維佳秘書長は、工場が重視するのは稼働時間と信頼性であり、この点では従来型のロボットアームが人型ロボットを大きく上回ると指摘した。
小米(シャオミ)の北京にあるEV工場は自動化率91%に達するが、人型ロボットの利用はナット取り付けなど周辺的作業に限られる。極氪(Zeekr)の寧波工場も、重要工程は今もロボットアームと自動搬送車が担うと認めた。研究者らによると、物の配置や照明、作業角度などの条件が変わると、人型ロボットは作業に失敗しやすいという。
政府調達は半年で2億3千万ドル、補助金主導で市場拡大
実際の需要が乏しいなか、中国政府は出資者と買い手を兼ねている。2026年上半期、中央・地方政府による人型ロボット関連の調達額は少なくとも2億3千万ドルに上り、2025年同期の6200万ドル、2024年同期の600万ドルから大幅に増えた。
国家電網は10億ドルを投じ人型ロボットとロボット犬を調達する計画を打ち出し、深圳市は150億ドル規模の産業クラスターをつくる目標を掲げている。中国の人型ロボット関連企業はすでに150社を超え、国内のEVブランド数をも上回る。
米アジア・ソサエティー政策研究所のリジー・リー氏は、これはEVや太陽光発電と同じ産業政策だと分析。政府が企業間に「ハンガー・ゲーム」のような激しい競争を意図的につくり出しており、この政策では「浪費は偶然ではない」と指摘した。過剰な生産能力はいったん拡大すると抑えるのが難しくなる。人型ロボットの技術は補助金投入当時のEVや太陽光発電より成熟しておらず、政府が出資者と買い手を兼ねることで実際の需要を上回る市場がつくられているとの指摘もある。
価格競争はすでに始まっている。
– モルガン・スタンレーは、人型ロボットの平均販売価格は今年15%下落すると予測。
– 楽聚機器人(Leju Robotics)の「夸父(Kuavo)」の平均価格は2025年に26%下落し、4万6千ドル(約690万円)となった。
– イベント向け「ダンスロボット」の1日当たりレンタル料は、1500ドルから440〜600ドルに下がった。
補助金への依存
雲深処科技(DEEP Robotics)は、昨年の純利益420万ドルのうち政府補助金が42%に相当した。同社が2年間で販売した人型ロボットは4台にとどまる。
優必選が昨年第4四半期に獲得した新規契約額は1億2300万ドルに上り、ほぼすべてが国有企業からの受注で、2025年通期の人型ロボット売上高1億2200万ドルを上回る規模である。
宇樹科技は8月19日に上海市場へ上場。初日の株価は5倍超に上昇し、時価総額は一時500億〜660億ドルに達したが、その後ピークから約300億ドル減少し45%下落した。同社の売上高に占める産業向け販売は約9%にとどまり、大半は補助金を受けた大学や研究機関による購入に依存している。
アメリカ投資会社Interconnected Capitalのケビン・シュー氏は、業界再編は「100%起こる」と述べた。投資家の呉暁峰氏も、各社は本格的な商業化がまだ遠いと理解しており、市場の変化を乗り切るため資金集めを急いでいると指摘する。
価格競争と企業淘汰 「新三様」型の過剰生産リスク
バンク・オブ・アメリカ(BofA)の集計によると、昨年、世界で出荷された人型ロボットは約2万台で、うち中国メーカーが95%を占めた。中国製部品の価格は急速に下がっており、海外メーカーは価格競争で追いつけていない。これに対しテスラのOptimusは、少量生産の段階で部材コストが5万〜6万ドルに上る。
人型ロボットの部品供給網で中国が優位に立つことは地政学的懸念も高めている。トランプ政権は7月、中国製の新たな人型ロボットの輸入を禁止した。
李庭仟氏は、中共当局がEV、リチウムイオン電池、太陽電池の「新三様」で採用した補助金政策を人型ロボットの分野でも繰り返していると批判し、技術が十分に成熟していない分野に多額の国家資源が投入されていると指摘した。
これが中国経済の新たな成長エンジンになるのか、それとも不動産バブルに代わる新たな過剰生産バブルになるのか。李氏は、補助金が続かなくなれば、行政主導の「AIによる経済救済」が中国経済の資源配分のゆがみをさらに深めるおそれがあると警鐘を鳴らしている。
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