スパイ疑惑があるとして建設を中止された、米国立樹木園(U.S.National Arboretum、ワシントンD.C.)内の「中国庭園」プロジェクトを主導したのは、中国の元最高権力者である江沢民の従妹、江沢慧氏であることがわかった。
米メディアの報道では、中国政府が2003年、米中文化交流の象徴として「中国庭園」の建設を提案し、約1億ドル(当時約120億円)を出資した。当初の計画では、07年ごろに建設が完了する予定だった。しかしその後、約20年にわたり建設工事は進まなかった。
建設予定地は議会議事堂から3キロしか離れていない。米国の防諜当局は中国庭園に建てる予定の高さ約21メートルの白い塔を問題視した。塔が位置する丘はワシントンD.C.の最も高い場所の1つで、「信号情報収集に完璧な場所」だという。中国側は、米税関職員が開封検査できない外交貨物用の袋を使って塔の建設資材を送ろうと、不審な動きを見せていた。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は18年に中国庭園のスパイ疑惑を取り上げた。当時、米情報機関の関係者は、庭園の建設プロジェクトに国家安全保障上のリスクがあり、園内の白い塔は中国側の諜報・監視活動に使われる可能性が高いと指摘した。
国立樹木園と同園の管轄元である農務省は大紀元の取材に応じなかった。
中国側の総責任者は江沢民元国家主席の従妹、江沢慧氏(84)。03年から現在まで、「重要な政府間協力プロジェクト」に位置付けられた同建設計画を主導してきた。中国林業科学研究院の院長だった同氏は07年に定年退職した。退任後もプロジェクトで中心的な役割を担っていた。
江沢民氏は03年3月に中国共産党総書記、国家主席の職を退任したが、中国共産党中央軍事委員会主席に留任し、05年まで中国軍の最高司令官として引き続き君臨していた。
中国林業科学研究院の公開情報によると、中国政府は02年下半期に中国庭園プロジェクトを企画し、翌年10月に米側との間で意向表明書を交わした。
また米中両側の報道では、中国林業科学研究院院長の江沢慧氏は03年に訪米の際、ブッシュ政権(息子)下のジョゼフ・ジェン(Joseph Jen)農務副長官と意向表明書を交わした。
ジェン副長官は中国系米国人で、江沢慧氏と個人的な交流があった。米中国語メディア「世界日報」は17年、米財務省の元会計検査官で中国庭園基金会の会長を務めるサミュエル・モク(Samuel Mok)氏の話を引用し、ジェン農務副長官が以前オーストラリアを訪れ、現地のチャイニーズ・ガーデンを視察したことが「中国庭園」建設計画のきっかけとなった、と報じた。
モク氏は「ジェン副長官の妻と江沢民の(従)妹は仲の良い友人であるため、米中政府は計画にたちまち同意した」と話したという。
当時の中国駐米国大使だった楊潔篪・共産党中央政治局委員もプロジェクトに深く関わり、04年10月にアン・ベネマン米農務長官との間で覚書を締結した。
中国紙・上海文匯報の16年の報道では、ジェン氏の話として、米農務省が中国庭園の建設費用840万ドルを07年予算案に計上したが、議会から承認を得られなかったという。
07年以降、プロジェクトは一向に進まなかった。オバマ政権(2009~17年)になって、ようやく新たな動きがあった。
10年6月、江沢慧氏は中国庭園の中国側の総責任者として米国を訪問し、トム・ビルサック農務長官やカート・キャンベル国務次官補らと中国庭園について意見を交換した。
また11年1月、中国の胡錦濤国家主席の2回目の訪米に、江沢慧氏は随行した。同氏は中国国家林業局の管轄下にある「国際竹藤センター」主任の肩書きで、中国庭園に関する新たな覚書の締結式に出席した。
15年、国家主席就任後に初めて訪米し、オバマ大統領と会談した習近平主席は首脳会談の成果リストに中国庭園を入れた。
16年10月に中国庭園の起工式が行われ、78歳となった江沢慧氏が出席した。中国紙・新京報を含む複数のメディアは、江氏が過去10年余り、中国庭園プロジェクトに関して米政府に働きかけてきたと、その「功績」を称えた。
いっぽう、17年1月にトランプ政権が発足した後、同プロジェクトは再び棚上げされた。
サミュエル・モク氏は「世界日報」の取材に対し、「トランプ政権が議会に提出した予算のうち、農務省に割り当てる予算は(今までの金額と比べて)20%カットされた」と話し、トランプ政権は中国庭園の建設に後ろ向きであったとした。
モク氏によると、中国庭園基金会は、同庭園がオープンした後の維持費として米国内で3000万ドルを調達しようとしていた。しかし、総建設費6000万ドルの大半は「中国側から」出資された。
時事評論家の李林一氏は、各国の孔子学院を例に挙げ「中国政府が後押しするプロジェクトの多くは、政治的目的と利益がある」と指摘した。
「孔子学院も中国庭園も、中国は当初、文化交流との名目で始めた。実際には欧米各国にスパイを送り込み、各国に影響力を拡大するための窓口となった」
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