中国共産党の理論誌『求是』がこのほど、習近平党首の年初の演説を掲載した。習近平は反腐敗闘争を一瞬たりとも緩めない姿勢を強調し、表向き忠誠を装いながら寝返りを狙う「二面性のある人物」を激しく非難した。
識者は、この時期の掲載は五中全会(第20期中央委員会第5回全体会議)をにらんだ動きだと分析する。党内の権力闘争は激化し、軍のナンバー2だった張又俠と参謀長だった劉振立の摘発の余波も続く。習近平が軍を掌握できているのか疑問視する声もある。
習近平が反腐敗を強調 『求是』掲載の政治的意味
掲載しているのは、習近平が1月12日の第20期中央規律検査委員会第5回全体会議で行った演説である。習近平は、十数年にわたる反腐敗運動を経ても腐敗は依然多発しているとし、腐敗は「最大のリスク、最大の脅威、最大の課題」で、反腐敗闘争は「一瞬たりとも止めてはならず、半歩たりとも後退してはならない」と強調した。「病んだ木」は必要に応じて引き抜き、切り倒すべきだとも述べた。
さらに「誰であろうと、地位がどれほど高かろうと、どれほど大きな貢献があろうと、腐敗に手を染めれば決して容赦しない」と訴え、言動が一致しない「二面性のある人物」への警戒も呼びかけた。
五中全会では党内の規律と統制の全面強化が主要議題になるとし、党籍を剥奪される中央委員の数が過去数十年で最多となる恐れも指摘している。
政治評論家の陳破空氏は大紀元の取材に対し、この時期の掲載は張又俠と劉振立の摘発に関係していると分析した。両者は1月下旬に習近平によって失脚させられたとみており、1月12日の演説にはすでに両者への強い敵意がにじんでいたという。公表の狙いは、続投と長期政権への意欲を示し、反対者排除の意思を明確にすることにあるとする。
「自分に従わない者は、誰であろうと粛清するということです」
陳氏は、原稿は秘書らが用意したとみられるが習近平の考えが反映されており、もっともらしい大義名分で大規模な粛清を正当化していると指摘した。
「権力を握っている限り、最期まで粛清を続けるという意思表示です。これは独裁者に共通する性質で、スターリンも毛沢東も同じでした」と述べた。
米国在住の時事評論家、唐靖遠氏は、掲載には五中全会をにらんだ動きと、張又俠・劉振立を標的にしたものという2つの意味があると指摘した。習近平は1月中旬の演説後、党内手続きを踏まず不意打ちで両者を失脚させており、今回の掲載には強い政治的メッセージが込められているとみる。
「習近平は五中全会で大規模な攻勢に出て、反対勢力との生き残りを懸けた闘争に臨もうとしているのかもしれません」
空洞化する中央軍事委員会 欠員補充の行方は不透明
激しい内部抗争を経て、政治局からは張又俠、何衛東、馬興瑞が姿を消し、7人だった中央軍事委員会には5人が失脚して、習近平と張升民だけが残る。五中全会で欠員補充が議題になるかに注目する。地方でも指導部の改選が相次ぐ。来秋の第21回党大会でさらに5年の任期を狙う習近平にとって、軍の完全掌握は極めて重要である。
陳破空氏によると、中央軍事委員会は空洞化しており、軍内では中将の職務を少将が、大将の職務を中将が代行する例もある。軍には不利益だが、習近平とってはむしろ都合がよいと陳氏はみる。部隊を率いる人物の経験が浅く、自分との地位の隔たりが大きいほど、絶対的な権威を保ちやすいためだ。
董軍は国防相に就任しても国務委員や中央軍事委員に任命されず、軍事委副主席となった張升民も通例と異なり政治局委員に就いていない。陳氏は、側近との地位や権限の差を明確にし、自らの安全を確保しようとしていると分析した。欠員は五中全会で補充することもできるが習近平次第で、見送れば第21回党大会まで持ち越されるという。
唐靖遠氏は、習近平は張又俠と劉振立を排除したが、軍の実質的な指揮権を取り戻したわけではないとみる。
「習近平の軍に対する指揮権は、以前から張又俠によって形骸化させられていました。張に突きつけた5つの重大な容疑を見れば分かります。しかし、どの軍種・兵種、どの戦区の高級将校も、調査への支持や張との決別を表明していません」
唐氏によると、各戦区や主要軍種・兵種のトップは基本的に張又俠と劉振立が引き立てた人物であり、誰も習近平支持を表明していないことから、軍内には強い抵抗があるとみている。もう1つの異変として、10月に入っても習近平が部隊や戦区を一度も視察していない点も挙げた。
「前例のないことです。例年は春節や8月1日の建軍記念日などに合わせ、何度も視察しています。軍を信用していないことの表れで、軍の側にも反発があり、習近平は軍を完全には掌握できていないのです」
また、新たに大将に昇進した4人のうち3人は胡錦濤が空軍内で築いた人脈につながり、習近平の地盤である旧第31集団軍や東部戦区の側近は1人もいないという。このため、五中全会で彼らを軍事委員に任命しても、習近平が軍を意のままに動かせるようにはならないとみている。
軍関連情報のネット規制 五中全会を前に高まる緊張
10月15日、国家インターネット情報弁公室と軍の複数部門は、軍に関する不適切な宣伝・販促行為や話題を過度にあおる情報発信を対象に、2か月間の集中取り締まりを発表した。軍人としての将来に不安を抱かせる情報の悪意ある発信や、従軍経験、駐屯地の位置、部隊番号、訓練用装備、軍事行動といった機微な情報の投稿・拡散を重点的に調べるとしている。
唐靖遠氏は、党・政府だけでなく軍でも大幅な人事異動があり得る五中全会を意識したもので、実質的には軍関連情報を統制し体制の安定を図る措置だと分析する。2か月という期間も、五中全会前後の敏感な時期と重なるという。
陳破空氏は、こうした規制自体が、習近平が軍を信頼していない証拠だとみる。軍内で問題が相次ぎ、従わない者が多いと感じているうえ、軍事委主席に権限と責任を集中させる「軍委主席責任制」が再び形骸化することを恐れているという。
「軍内では多くのことが起きているのでしょう。張又俠や劉振立だけでなく、ほかの側近にも問題が及んでいるのかもしれません。以前は大将から粛清を始め、軍事委副主席にまで手を広げました。今度は将校だけでなく兵士まで統制しようとしています。一般の兵士も習近平に従っていないということでしょう」
「二面性のある人物」批判 党内や長老への警告か
『求是』によると、習近平は演説で、利益に群がり、いつでも寝返ろうとする「二面性のある人物」が党内にいると非難した。この演説から間もない1月24日、政治局委員で中央軍事委員会副主席の張又俠が、4月3日には政治局委員の馬興瑞が審査・調査の対象となった。公式発表は張又俠について「党と心を一つにせず」「徒党を組んだ」などと非難している。
陳破空氏は、地位や功績を問わないという発言には、引退した長老への警告も含まれるとみる。習近平は長老の政治関与を認めず、各人の腐敗疑惑や家族、縁故関係の情報を握っているという。一方で沈黙を守る人物には手を出さず、発言する人物を標的にしているとし、張高麗は女子テニス選手をめぐる問題があっても追及されない一方、王岐山や黄奇帆のように考えを口にする人物は粛清の対象になると述べた。
近年繰り返される「二面性のある人物」批判について、陳氏は疑問を呈した。
「政権を握って十数年、そうした人物や腐敗した者を一掃できたのでしょうか。どちらもできず、むしろ増えています。このやり方は根本的に失敗しています。あるいは、初めから別の狙いがあり、全て自分自身のために行っているのでしょう」
習近平の権力基盤を測る3つの指標
習近平は2023年以降、約3年にわたり党・軍・政府で大規模な粛清を進めてきた。特に張又俠の失脚後、その権力基盤が安定しているかが海外のネット上で大きな関心を集めている。
唐靖遠氏は、現在の反腐敗闘争は単なる権力基盤の安定策ではなく、「一瞬たりとも止められず、半歩たりとも後退できない」と訴えるのは、自らの存亡を懸けた路線対立に直面しているからだとみる。唐氏は権力掌握の指標として3つを挙げた。
1つ目は最も重要な軍の指揮権で、新たな軍事委員が誰の人脈に属するかを見る必要がある。中国共産党は「銃口から政権が生まれる」という考え方に立ち、軍を握らなければ党の権力も握れないためだ。
2つ目は人事権である。党の人事を握る中央組織部長の石泰峰を、唐氏は胡錦濤系とみている。
3つ目は党内の組織と規律を統制する権限である。中央規律検査委員会が反腐敗を名目に摘発しているのはほぼ習近平の側近で、後任の大半は習派以外の人物だという。
「習近平は今、非常に厳しい立場にあります。五中全会で地位を維持し、第21回党大会で続投するのは極めて難しいでしょう」
一方、陳破空氏は、外部からは習近平が権力を一手に握っているように見えても、本人は周囲に危機が満ちていると考え、粛清を繰り返していると指摘した。熱心な支持者が体制は盤石だと信じていても、本人は強い危機感を抱いているという。
陳氏によると、中国共産党は幾重にも警戒網が敷かれ、情報要員や警備員が目立つ場所にも目立たない場所にも配置している。習近平はいつ失脚してもおかしくないという不安を抱え、恐怖支配を進めるとともに、人員、物資、資金を総動員して体制維持を図っているという。
「一日中、反腐敗を口にし続ける国や政党、指導者はほかにありません。ほかの国では、腐敗が起きれば自由な報道や独立した司法を通じて対処します」
陳氏は次のように述べた。
「制度全体が失敗しても、国全体が失敗しても、1人だけ成功する。これが独裁者の歩む道です。スターリンも毛沢東も同じでした」
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