米中間選挙は運命の分水嶺 トランプはニクソンになるかレーガンになるか?

2026/10/21 更新: 2026/10/21

1 トランプ弾劾の可能性

11月上旬に米国で行われる連邦議会上下両院の中間選挙は、米国のみならず日本と東アジアを含む世界の運命を決める選挙だと言っても過言ではないだろう。

既に野党、民主党の優勢が伝えられており、下院ではトランプ大統領を支持する与党、共和党の過半数割れが確実視されるが、焦点は上院である。上院選の情勢分析では共和党、民主党の大接戦が伝えられており、予断を許さない状況だ。

もちろん下院で共和党が過半数割れとなるだけでも、トランプ政権は残りの任期2年間、政策遂行に必要な法案を成立させることが出来なくなり、レームダック化すると見られているのだが、本当の問題は、もはやそこにはない。

いまトランプが最も恐れている事態は上下両院が過半数割れに追い込まれ、大統領弾劾が議会で成立してしまう事態である。

ただし両院で過半数割れになったからと言って直ちに弾劾が出来るわけではない。と言うのも上院では弾劾に3分の2の賛成が必要とされており、民主党がそれだけの議席を獲得するのは困難と見られているからだ。

だが仮に民主党が上院で2分の1以上、3分の2未満の議席を得てもトランプは安心できまい。民主党の大勝利と世論に圧倒されて、トランプ弾劾に賛成する共和党議員が出て弾劾が可決される可能性が否定できないからである。

 

2 ニクソンの途中辞任

過去に米国で大統領が弾劾された例はないが、弾劾直前まで行って自ら辞任した実例はある。1974年に辞任したニクソンである。

ニクソンはウォターゲート事件という政治スキャンダルで世論の支持を失い、下院は過半数の賛成で弾劾が可決され、上院でも与党、共和党の議員が総崩れとなり、弾劾成立が確実な情勢となったため、自ら大統領を辞任したのである。

ニクソンはトランプと同様、共和党であり強権的な政治手法も共通している。当然、民主党はニクソンを辞任に追いやった同様の手法でトランプを追い詰めようと計画しているのは確実だ。当時も今もマスコミには民主党が圧倒的な影響力を有している。

従ってトランプがニクソンと同様の軌跡をたどる可能性は十分にあるのだ。

しかし、仮にそうなった場合、国際政治にどう影響するだろうか? それを占うにはニクソン辞任が当時の国際政治にどう影響したかを見定める必要がある。

 

3 ベトナム戦争の敗退

ニクソンは1968年の大統領選に勝利して大統領に就任したが、そのときの選挙公約は米軍のベトナムからの名誉ある撤退であった。ベトナムは第2次大戦後、南北に分断され南ベトナムは資本主義陣営、北ベトナムは共産主義陣営にそれぞれ所属し、内戦状態となっていた。

米国は60年代、民主党政権時に、南ベトナムを支援して軍事介入を本格化させ、ソ連と中国は北ベトナムを軍事支援して、戦争は泥沼化していた。

ニクソンは北ベトナムと交渉し、北ベトナムが南ベトナムに侵攻しないことを条件として1973年に米軍をベトナムから完全に撤退させた。

ところが1974年にニクソンが辞任し、米政界が大混乱に陥っているのを見た北ベトナムは、もはや米軍が再び介入する可能性はないと判断し、1975年に南ベトナムに侵攻しわずか3ヶ月で、南ベトナムを武力併合したのである。

つまり南ベトナムが武力併合されたのは、ニクソン辞任が原因だったのだ。

このアナロジーを現在のトランプに当てはめるとどうなるか?

中国の習近平はトランプに、台湾に武力侵攻しないと約束している。しかしもしトランプが途中辞任となれば、ベトナム戦争の戦訓に習って台湾に侵攻を決断するかもしれないのである。

 

4 レーガン政権との対比

もしトランプが途中辞任せず、任期を全うした場合には別のアナロジーが可能だ。それはレーガン政権との類比である。

共和党のレーガンは1980年の大統領選に勝利して2期8年の任期を全うしたが、その功績は偉大なもので、民主党支持者からも讃辞が絶えない。

1970年代末にソ連は東欧に中距離核ミサイルSS20の配備を始めた。またアフガニスタンに侵攻した。

レーガン政権はソ連に対抗して西欧に同様の中距離核ミサイル、パーシングⅡを配備し、アフガニスタンの反ソ勢力には対空ミサイルを供与した。

核全面戦争も辞さずと言うレーガン政権の強硬姿勢に怯えたソ連は1987年に米国と中距離核戦力全廃条約を締結、89年にアフガニスタンから完全撤退し、米ソ冷戦は終了し、1991年にソ連は崩壊した。

このアナロジーを現在の米中関係に適用すれば、もしトランプが途中辞任しない場合、米国はAI戦力の増強に努め、中国は台湾侵攻を諦める公算が高いという結論になろう。

軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。
関連特集: 百家評論