ちょっとした口論が、激しい殴り合いに発展する。車の運転をめぐるトラブルで、命まで奪われる。
中国各地で、日常のささいな衝突が激しい暴力に発展する様子が、相次いでネット上に投稿されている。
湖北省武漢市では、料理の配達員が街頭で治安ボランティアの男性を激しく殴打する映像が拡散した。男性は地面に倒され、起き上がった後も殴られ、口や鼻から血を流していた。
江蘇省蘇州市では、住宅団地に入ろうとした内装工事の作業員が、入口で警備員2人に止められたことをきっかけに激高。車からハンマーを取り出し、警備員の頭を何度も殴りつけた。警備員はその場に倒れ、もう1人は逃げ出した。作業員は周囲の人々に制止されたという。
さらに河北省石家荘市では、車の割り込みをめぐるトラブルが発生。口論になった運転手の1人が車に戻ろうとした際、相手の車が突っ込み、死亡したとされる。
いずれもネット上に投稿された映像に基づく情報で、事件の詳しい経緯や当局の捜査結果は確認できていない。
近年、中国では「社会の戾気(リーチー/邪気)がますます強くなっている」という嘆きを、本当によく耳にするようになった。
「戾気(リーチー)」とは、他人への敵意や攻撃性、抑えきれない怒りを意味する中国語だ。近年、中国では社会全体に広がる殺伐とした空気を表す言葉として使われている。
今回紹介したのは、最近中国で起き、海外のネットにまで伝わった暴力事件のほんの一部にすぎない。
これらの事件で加害者と被害者になったのが、配達員や工事作業員、警備員など、日々の仕事に追われる普通の人々だ。本来、互いに争う理由などない人たちが、ささいなトラブルをきっかけに傷つけ合っている。
本当に怒りを向けるべき相手には届かず、目の前の誰かにぶつけてしまう。
こうした社会に蓄積する不満や怒りには、中国当局も神経をとがらせている。中国では、児童への性犯罪、学校でのいじめや生徒の自殺、無差別殺傷などの社会報復事件、重大事故、災害、労働者の抗議活動など、市民の怒りを呼び起こしかねないニュースについて、実際に報道規制やネット上の投稿削除などの情報統制が行われてきた。
当局が恐れているのは、事件そのものより、その背後に蓄積した国民の怒りが一気に噴き出すことだとみられる。しかし、いくら情報を封じても、人々の不満や怒りが消えるわけではない。むしろ行き場を失った怒りは、さらに膨らんでいくのではないか。
社会にたまり続ける「戾気(リーチー)」。中国社会は、この先どこへ向かうのだろうか。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。