【大紀元日本10月9日】史上最大規模を誇る上海万博も残りわずかとなった。各国パビリオンに勤める外国人スタッフにとっては、万博はすでに長き戦いと化している。不正行為、スリ、落書き、公共物の破損、日常となった「突発事件」などに、外国人スタッフは戸惑い、東方中国に抱いた憧れや好感はいつのまにか失望へと変わってしまった。
「上海万博:中国人の面目 丸つぶれ」と題する一篇の記事は、そんな「突発事件」に迫ってまとめられている。人気大衆紙・南方週末の陳鳴記者によるこの長編記事は、外国人スタッフの目に映った様々なマナー違反や非常識の出来事をつづっている。
一方、ブログ作家・楊恒均氏は、この記事を読んだ後、わざわざ上海万博に足を運んだ。彼もまたチケット販売者から上海万博の数々のカラクリや内幕を聞き出し、参観者のマナー違反を増幅させたのは、誇張した宣伝や歪んだ主旨だと指摘した。「中国人はそんなにマナー意識が低いだろうか?5時間並ぶ長蛇の列、倒れる人もいる。疲れの限界に達した人は、気が狂ってしまうものだ」「中国人はマナー意識が低いというより、良い行動はまず望めないような状況に来館者を陥れた主催者のやり方が問題だ」と楊氏は嘆いた。
9月第190期の海外中国語週刊誌「新紀元」は、以上の2つの記事を掲載した。本サイトでは2回に分けて紹介する。今日はその1回目。
万博の恥をさらしたのは、中国人の低いマナー意識なのか
@文 ・楊恒均
万博の開催に際し、再び話題となった中国人のマナー意識(AFP)
私はなぜ自ら切符を買って、万博を見に行ったのか
万博に行く前に、2つの言葉を聞いたことがある。1つは、「万博には、行ったことはないが、行くつもりもない」という友人らの言葉。もう1つは、「万博に行かないと後悔するが、行くとさらに後悔する」というタクシーの運転手の言葉。
好奇心に駆られ、余計に行きたくなった。平日の昼の入場券を買った。その時間帯は人が少ないと、だれかに教えてもらったからだ。同行したのは、記者をやっている王君とその彼女。
この2人は、無料の招待券を持っていた。私の分も1枚あったようだったが、いつものように断わった。実は上海に来てから、少なくとも6人の友人から無料券をもらう機会があったが、すべて断ってきた。自分で160元(約2000円)もする入場券を買わないと、普通の参観者の気持ちは到底わからないと思ったからだ。
ダフ屋、万博を案内
30分待たされ、安全検査を済ませ、やっと園内に入った。1人の若者が近づいて来た。「予約券」を買わないかと。売っているのは中国館に入るための予約券であった。毎朝、入口で無料で配られるはずのこの予約券は、昼を過ぎると150元に変身する。これがなければ、待ち時間3時間の列に並ぶ資格すらない。「不便な状況や不公平がまかり通るところには、必ずルール破りのヤツが助けに来るのだ。金さえ用意すればよい」。これこそ中国人の「知恵」であり、覚えておくと便利。
私はこの若者を自分の隣に座らせた。彼こそ正に私が探している人間だと直感したからだ。その後、王君たちに奇跡と呼ばれるほど不思議なことが起こった。20分間彼と話し合った後、彼は私たちに場内を案内すると言い出した。
彼は、いくつかの小規模で興味深いパビリオンを紹介してくれた。人気パビリオンに関しては、彼は中のスタッフに電話し、なんと私たちは並ばずに裏ゲートから入ることができたのだ。
午後7時過ぎにこの親切な「ガイド」と別れた。別れ際に彼はマカオ館の予約券を何枚か取り出して私にくれた。
「彼にいくら払ったんですか」と呆気にとられた王君は聞いた。
「お金なんか払ってないよ。彼からもらった予約券もすべてタダ。おまけに、万博の裏話も聞けた。知ってる?アフリカ館で展示されている『アフリカ手芸品』は、実はアフリカからではなく、上海豫園と城隍廟から卸売りしてきたものなんだって‥‥」
私の話は王君に断ち切られた。事実は、記者としての彼の想像力を遥かに超えてしまったかのようだった。
「本当に不思議です。魔法でも使ったのですか」と王君は困惑した様子で聞いた。「あの若者と最初に会った時の20分間、何の話をしたんですか?その後はずっと何の話をしましたか?」
万博の秘密を見つける秘訣
この若い「ガイド」は、実は万博の従業員だった。彼は昨年、南方の某大学を卒業し万博局に採用された。今年の4月から、万博会場で安全検査と保安の仕事を始めた。当初は、万博で働くことをとても光栄に思ったが、しばらくすると、ここは「光栄」でも「偉大」でもないことに気づいた。多くの従業員は、参観者が並ばなくて済むような便宜を図ることで、金儲けをしていた。サウジアラビア館のセキュリティ担当は、この方法で十数万元(約百数十万円)を儲けたという。ピーク時には「特権入場」の「入場料」は1人1000元(約1万2千円)に上った。このセキュリティ担当は、後に告発され解雇されたという。
このような解雇は時々起きているという。実は私は彼に「若いのになぜここでこんなことをしているの?警察に捕まったら解雇されることになるだろう。もう少しリスクの少ない仕事はないの」と声を掛けただけだった。お金をだまし取ろうとする自分の身の安全を案じてくれた人に出会え、彼は感激し案内役を買って出たのだ。
彼が売っていた予約券は、入口のスタッフからもらったもの。昼頃からの入口での配布が終了してから園内で販売し、売り上げは最後に皆で山分けする仕組み。本当はタダの予約券を高値で売ることに、良心が咎められることもあるが、周りが皆やっているので、自分もなかなかやめられないと彼は話した。はるばる地方から来た人が、列に並ぶ資格をお金で買えたときの喜ぶ姿を見ると、時々自分は立派な仕事をしているという錯覚に陥ることさえあるらしい。
「こんなにたくさんの来場者は、すでに万博会場の容量を超えている。それでも国を挙げて大々的に宣伝するのは不思議だ」
ここがまさにミソ。入場券の販売、招待券の発行で多くの参観者を呼び寄せ、タダで受けられるはずのサービスをお金を出してやっと受けられるようにする。主催者こそが、最悪の「ダフ屋」なのだ。
万博の秘密:中国人のマナー意識とは関係ない
万博を実際に体験してみて、中国人のマナー意識はそれほど
「文明的」になろうと訴える万博スローガン(AFP)
低いとは感じなかった。食べ物の値段は決して高くない。スタッフも勤勉に働いている。酷暑の中で3時間も人々は根気よく並び、熱中症で倒れる人さえいる。
なら、何が悪いのだろうか。万博は1つの展覧会に過ぎない。展覧会として扱われていれば、中国人のマナー問題もここまで特記されることはなかっただろう。しかし、主催者はこの展覧会を政治の道具とし、国家の尊厳や民族の飛躍の象徴として仕立てようとしたのだ。
主催者が目を向けているのは国であり、世界であり、宇宙である。一方、権利も保障された生活もない庶民は、万博の顧客なのである。「人間本位」と唱えた万博は実はその反対。「万博本位」となっており、政府は、万博が中国の地位を高めたと称え、中国人が万博の品位を損ねたと批判する。
上海万博は、中国と世界が出会う舞台だと言われる。世界はどのような中国を見たのか。また中国はどのような世界を見たのだろうか。中国館のなかのマカオ館に入った。そこには、マカオ特区長官と北京の指導者が会談している映像や、おいしい食べ物、きれいな海と高層ビルの映像が流れていた。しかし、マカオのシンボルとも言うべき「カジノ」が紹介されていない。カジノ抜きのマカオ館は架空のマカオに過ぎないのではないだろうか。
万博に来た人々のマナー意識がどの程度のものなのかは、半日の参観だけでは分からない。私が分かるのは、もし、私が地方からはるばるやってきて、多くの人が招待券で入場しているのを知りながら、自分でチケットを買って入場するしかないなら、もし、やっとのことで入場して自分を待っていたのは先が見えない長蛇の列だったら、もし、長蛇の列に並ぶ資格さえないなら、‥‥きっと私も列なんかに並ばずに入館できる方法を考えたに違いない。私も車椅子の世話になろうと考えたかもしれない。マナー意識が欠如していたり、人間としての尊厳がないというわけではない。良い行動に出ることが難しい状況に来館者を陥れた主催者側のやり方が問題なのだ。
(続く)
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