SNS最大手、フェイスブックの最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏とその妻、プリシラ・チャンさん。昨年、夫妻が待望の長女を授かったことを機に、夫妻が所有する同社の株式99%を、生涯をかけて慈善事業に寄付すると発表したことが大きな話題となったが、同じく昨年、同夫妻は教育と医療を一体化した学費無料の私立学校を設立することも発表している。同校が建設されるのは、国内でも犯罪率が高く治安の悪さで知られるカリフォルニア州イースト・パロアルト。プリシラさん自らが学校の創始者となり、最高責任者として低所得者層の子どもたちを対象に医療と教育の場を提供する。
小児科医であるプリシラさん。以前に地元紙、サンノゼ・マーキュリー・ニューズの取材を受けた際、ハーバード大学在学中に、ギャングの暴力に対処するためのアフタースクール(学童保育)プロジェクトに携わり、この体験を通じて貧困地域の子どもたちと関わったことが学校設立の動機となったと語っている。
こうした地域の子どもたちは、ギャングのグループ間抗争に日々晒されている。プロジェクトを通じて出会った、殴られて顔中血だらけにされた子どもや、前歯が折れてしまった女の子の顔が、今も脳裏によみがえってくるという。プリシラさんは涙を浮かべ、こう語った。「こうした子供たちが健康で、安全に、楽しく暮らしていくことができなければ、私の行ったアフタースクールには何の意味もありません。ここでの体験が、私の人生において何をするにも大きく影響しています」
プリシラさん自身、幼少時からその人生は決して平たんなものではなかった。彼女自身はボストン郊外のアイルランド系カトリックの町で育ったが、両親は中国系ベトナム難民で、かつては難民キャンプに収容されていたこともあった。米国移民一世である両親は、子供たちに十分な教育を与えるために中華料理店で働きづめで、母親は常に2つの仕事を掛け持ちしていたという。
プリシラさん自身もあらゆる努力を重ね、名門ハーバード大学生物学科に入学したが、ここでの大学生活は彼女を満足させてはくれなかったという。しかし、これまで彼女を支えてくれた恩師たちに恩返しをしたかったし、まして失望させることなどできなかった。取材に対し彼女はこう答えている。「私の身近にいるほとんどの人は、こうした機会に恵まれていませんでしたから」
同大学を卒業後、彼女は一定期間小学校で教職に就いたが、その後アメリカでトップクラスのカリフォルニア大学サンフランシスコ校メディカルスクールに入りなおし、念願の小児科医となった。
こうした体験から、彼女は一貫して教育重視の考え方を貫いている。結婚後、夫のザッカーバーグ氏は彼女の勧めもあって、教育の立ち遅れているサンフランシスコの学校に1億2000万億ドル(約110億円)を寄付した。彼の行う寄付や慈善活動は、全て妻であるプリシラさんがサポートしていると言っていい。
昨年、長女が誕生してから、親が子供に与える最良の教育の形を追求するため、プリシラさんは児童教育により重点を置いた活動を行っていくと表明しているが、これは彼女が以前から希望してきたことでもある。
プリシラさんのインタビュー記事が掲載されると、ザッカーバーグ氏はフェイスブックにこんな投稿を載せた。「プリシラの最も素晴らしいところは、学校であろうが病院であろうが、人を助けるための努力を惜しまないことだ。そんな妻を、私は心から誇りに思っている」
(翻訳編集・桜井信一)
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