中国の保険大手、安邦集団CEO・呉小暉が当局に連行された。米メディアはこの理由について、呉氏が習政権の政治的タブー2つを犯したからだとみている。習政権は反腐敗キャンペーンの調査範囲を、党上層部の外戚関係へと進めてきた。
米政府系ボイス・オブ・アメリカは6月16日、政治評論家で時事アナリストの陳破空氏、社会経済学者の何清漣氏、情報サイト『縦覧中国』編集長の陳奎德氏らを招き、呉小暉が連行された背景を探った。
習政権の2つの政治的タブーに触れ、金融安定政策に逆らった
何清漣氏は、呉小暉が拘束されたのは2つの政治的タブーを犯したからだという見方を示した。1つ目のタブーは、紅二代、紅三代(中国共産党の高級幹部の子や孫、親せき、特権地位にいる者たちとその総称)が商業界から撤退するように、との習近平主席の指示に違反したことだという。
中国新旧太子党メンバーは相次いで商業界から姿を消した。いっぽうで、鄧小平の孫婿・呉小暉は、流れに逆らうように海外進出に打って出た。
15年3月前後、中国国内の大手メディア「財経」「財新」「南方週末」と、米ニューヨークタイムズ紙が安邦保険のことについて立て続けに報じた。それぞれの記事のポイントは、安邦保険が12年で資産を100倍に増やせたのは「銀行を利用して、リスクの高い財テク・保険ファンドを大量に販売して資金を得ている」である。特に財新は、鄧小平の孫娘との離婚にも言及している。こうした報道は、呉小暉に対する警告と見られている。
また何氏は、安邦集団が15年から展開した大規模な海外投資が、習政権の2つ目のタブーに触れたと説明している。
その当時、北京当局はすでに外貨準備高防衛戦を展開していた。外貨の確保は金融業界の安定につながり、金融業界の安定化こそが中国経済の最後の防波堤となるからだ。当局のこうした政策に冷や水を浴びせるように、呉小暉は中国国内で財テク商品を販売してかき集めた資金を、投資の名目より海外移転することで、巨額の外貨を流出させた。その結果、外貨は消え、リスクだけが中国国内に残った。こうした状況は金融業界の安定化を大いに脅かす。
江派による「経済クーデター」と資金洗浄に関与
陳奎德氏は、当局が金融業界に注目した理由は、金融危機が政治に深刻な影響を及ぼす可能性があるからだと説明している。過去の例としては、国民党統治下にあった48年と、97年に起きたアジア通貨危機が挙げられるほか、15年に起きた中国株の大暴落も記憶に新しい。
陳破空氏は、呉小暉の問題に関して遡ると、江沢民派の相場操縦の疑われる15年の中国株大暴落に行きつくと認識している。豊富な資金を操作できる呉小暉も、江沢民派の金庫番とされる富豪・肖建華も、習政権の転覆を狙って江派が起こした株価大暴落という「経済クーデター」に関与していたと考えられる。当局に追及されるのは時期の問題だ。
一方、腐敗官僚の粛正を進めるにあたっても、順序というものがある。例えば、投資家で今年1月に5年半の実刑判決を受けた徐翔や、今年1月に中国当局が香港から中国に連れ戻された大富豪の肖建華といった企業家らは、党幹部と結託して腐敗不正に手を染めていたものの、あくまで赤の他人だ。
だが、呉小暉は鄧小平の孫婿であり代表しているのは党高官の「外戚」である。このことから、反腐敗運動は現在党高官の外戚にあたる人物を追及するという段階に入ったことが分かる。ただし、江沢民の孫の江志成や劉雲山の息子の劉楽飛など、紅二代や紅三代にあたる党高官直系の子弟までは、まだ手は及んでいない。
さらに、安邦保険の元の株主には上海自動車グループを始めとする国有企業が名を連ねていた。江沢民の息子・江綿恒はかつて上海自動車集団のCEOを務めており、上海自動車集団は江綿恒の勢力範囲にあると指摘されている。
中南海に近い消息筋は大紀元に対し、安邦と曽慶紅の親族が密接な関係にあることを吐露している。呉小暉と肖建華は、いずれも曽慶紅一家の「白手袋(不正に得られたお金を正当な資金に変える仲介者)」だった。
(翻訳編集・島津彰浩)
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