危機的状況つづく被災地で、7割の救援隊が撤退 被害を隠蔽する地元政府=中国 河北

2023/08/04 更新: 2023/08/07

いかに首都北京を守るという大義名分があったとしても、「通告なし」のダム放水(7月31日から開始)を受けた河北省は、甚大な洪水被害を受けた。被災地は、無数の住民を残したまま水没。その点からしても、人災である要素が極めて強い。

なかでも特に被害が深刻な涿州市(河北省保定市の県級市の一つ)では、3日の時点で水深12メートルに達したところもある。水も食料もなく、衛生状態が極めて悪い危機的状況のなかで、無数の被災民が生命の危機にさらされながら救援を待っている。

だが3日以降、地元政府の圧力によって、多くの民間救援隊が名乗りを上げながら被災地での救援を断念し、活動途中で撤退を余儀なくされていたことが情報筋の話で明らかになった。

地元政府が救援隊を受け入れない理由について、「あまりにも悲惨な被災地の実態を隠蔽するためではないか」と分析する専門家もいる。

官製メディアが「これまでに少なくとも20人が死亡」と伝えているなかで、北京市門頭溝区で救援活動に携わるボランティアスタッフは「我われの救援チームだけで、これまでに200体以上の遺体を発見している」という衝撃的な実態をSNSに投稿するケースが実際に起きていた。

今年2月にトルコ地震の被災地でも活動した経験をもつ中国の民間救援隊「公羊救援隊」は3日、危機管理部の指示により、涿州市で行ってきた救援から撤退すると発表した。

同救援隊所属の隊員が、SNSウィーチャット(微信)のグループチャットで「救援隊を誹謗中傷する政府の不作為」について問責する投稿がネット上に拡散され、物議を醸している。

「我われは3日間、命をかけて救援を行ってきた。我われの救援は、全く無償だ。食料も、寝る場所も全て自分たちで手配した。いったい政府は何をしているのか?」

同隊員はそう投稿し、まだ多くの被災民が救援を待っている状況で撤退せざるを得ない不条理に、怒りを露わにしていた。

涿州市当局は2日、市内で活動する救援隊は100隊以上に達したと明かしている。いっぽう、先述の救援隊員によると「このうち7割の救援隊は、すでに撤退している」という。

「公羊救援隊」や中国赤十字の災害ボランティアチーム「藍天救援隊」などの民間救援組織が、8月3日を境に、涿州市から続々と撤退し始めていることについては中国メディア「第一財経」も報じている。

涿州市当局の発表によると、総人口が111万人の涿州市全体で、水没や浸水のため孤立している市民は「約13万人」という。しかしこの数字は、中国当局が公表する他のデータと同様、事実を矮小化したものである可能性が高い。

涿州市が水に浸かって、かれこれ4日目となる。河北省水利庁の李娜副庁長によると「涿州市の水が引くのは、早いところで1週間、遅いところでは約1カ月かかる」という。

この河北省当局の公式発表について、ドイツ在住の水利専門家である王維洛氏は「つまり北京は、引き続きダム放水を続ける、ということだ」と指摘している。

まだ膨大な数の被災民が救助や救援を待つなかで、多くの民間救援隊の一斉撤退、および最近多く起きている救助隊員のSNSアカウント封鎖という事態について、中国時事評論家の唐靖遠氏は次のように分析する。

「これら民間の救助隊は、政府の管理を受けないため、隊員一人一人がこの人災であるダム放水の悲劇の目撃者となる。彼らが撮影した動画やライブ配信は、被災地の真実を伝えるものだ。だからこそ、中国政府は彼らを脅威と見なすのだろう」

「民間の救助隊が撤退した後は、政府の管理下に置かれた政府の救助隊が被災地入りするはずだ。しかし今は、すでにダム放水後4日目である。水も食料もなく、危機的状況におかれた被災民は、この1、2日の間にも膨大な死者が出る可能性がある。中国政府が最も恐れているのは、自然災害ではない。人災がもたらした、これらの悲惨な映像が外部に流出することだ」

実際、中国当局は災害現場の実態が外部に漏れないよう、市民の携帯電話の通信電波を遮断するなどして、情報封鎖を行ってきた。

「事前通告のないダム放水」「情報封鎖」「電波遮断」「民間救援隊の被災地からの排除」など。今回の災害における中国当局の人道に反する行動の数々に、ネット上では怒りの声が噴出している。

「電気も水も食料もなく、情報発信もできない。被災者の命が危険にさらされている。だが、人命より大事なのは政府のメンツか!」
「中国人民は、いつまでこの人命を何とも思わない政権の存続を許すのか?」

もはや中国政府(つまり中国共産党)が、自国の被災者を完全に見捨てたことは明らかである。この後、たとえ累々たる死体の山が築かれようとも、それを隠蔽することで「ゼロ」または「被害微少」にしてしまうつもりだ。

言うまでもないが、中国の災害は、これが最後とは限らない。

(下の動画は、もとは涿州市内の「道路」であったところをボートで移動する救援隊。水没した道路標識からして「水深は7~9メートル。最も深いところで12メートルある」と言っている。おそらくこの救援隊も、この後、撤退したであろう。しかし救助するべき被災民は、まだ無数に残っている)

 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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