米国で建設中の洋上風力発電所の半数近くを手がけるデンマークのエネルギー企業オーステッド社は、物議を醸していたニュージャージー州沖のオーシャン・ウィンド1プロジェクトを2026年まで延期した。
同社は、サプライチェーンの問題、インフレ、金利の上昇などをその理由として挙げた。
この発表は再生可能エネルギー(再エネ)部門に波紋を広げ、このような大規模プロジェクトの実現可能性に対して懸念を抱かせた。また、洋上風力発電に反対する人々にも活力を与え、洋上風力発電プロジェクトを全面的に中止させるために闘いを続けると述べた。
財政難
オーシャン・ウィンド1は、ニュージャージー州で最初の洋上風力発電所であり、同州をグリーンエネルギーの全国的リーダーにしようとするフィル・マーフィー知事(民主党)の推進事業の一部だ。
マーフィー知事の目標は、2040年までに同州で洋上風力発電所を稼働させ、1万1千メガワットの電力を生産することだ。同州は、すでに3つの洋上風力発電所を承認しており、さらに追加したいと考えている。
連邦海域に建設されるオーシャン・ウィンド1は、海岸から12海里以上離れた場所に建設され、高さ1千フィートにもなる数百の構造物で、数百エーカーの海域に設置される。
しかし、この壮大なプロジェクトは問題を抱えている。
9月5日、ムーディーズは、オーシャン・ウインド1プロジェクトには22億ドル(約3278億円)以上もの損失処理の可能性があるとアナリストに語った。オーステッド社の見通しは「安定的」から「ネガティブ」に引き下げられた。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、オーステッド社の株価は先月、25%という記録的な急落を経験した。これは市場価値80億ドル(約1兆1878億円)以上の損失に相当するものだった。
オーステッド社の幹部は、ムーディーズとの電話会議で「米国で政府の税額控除を受けられるのかどうかを懸念している」と述べた。
洋上風力発電業界は、すでにインフレ削減法から寛大な税額控除を受けている。しかし、初期費用は依然として高く、多くのプロジェクトは稼働には至らず、収入を得られるまでにはさらに数年間かかる。
ブルームバーグの9月5日の報道によると、ホワイトハウスがさらなる支援を保証し、財政状況が改善しない限り、オーステッド社のマッズ・ニッパー最高経営責任者(CEO)は、米国での投資から撤退する現実的な選択肢を検討していると述べた。
外資系企業への補助金
共和党は、外国企業への不当な贈与であるとして、補助金を停止する時だと言う。
7月、ニュージャージー州議会は、同州の電力料金支払者に転嫁しなければならなかった連邦税額控除を、オーステッド社に残すことを認める法案を承認した。
共和党のマイケル・テスタ上院議員は「企業福祉に文句を言うマーフィー知事のような民主党議員は、同州の料金支払者を犠牲にし、外国の風力発電開発業者に10億ドル(約1400億円)を与えることにまったく抵抗がなかった」とニュースリリースで述べた。
「オーステッド社に2度目の補助金を出す可能性を考えれば、彼らがこの先、3度目、4度目の救済を求めないと誰が言えるだろうか?」
「他の風力発電開発業者たちは、すでに大きな政府に救済を懇願している。これは風力発電が政府からの大規模な補助金なしでは経済的な意味をなさないことを証明するものだ」
エネルギーコストの高騰
ジェフ・ヴァン・ドリュー下院議員(共和党)は、オーステッド社とオーシャン・ウィンド1プロジェクトを率直に批判しており、今回の延期は、反対派がこの問題を追及する好機だと見なしている。同議員は、洋上風力発電所が、沿岸の経済と環境に取り返しのつかない損害を与え、エネルギー価格の高騰を招くと考えている。
ヴァン・ドリュー氏はエポックタイムズ紙に「これらのプロジェクトは、私たちの海にダメージを与え、私たちの国家安全保障を脅かし、ニュージャージー州の第3の産業である漁業を衰退させる」と語った。
「これらのプロジェクトは、外国に国内のエネルギー供給をコントロールさせるものだ」
「これが海岸沿いに住む人々だけに影響を与えると考えるべきではない」
ドリュー氏は「どこに住んでいても光熱費が2倍、さらには3倍になる」と述べている。
実際、ニッパー氏はブルームバーグの取材に対し「米国で洋上風力発電所が稼動するにつれて、消費者のエネルギー価格が上昇することは避けられない」とし「もしそうならなければ、我々も同業者もこれ以上洋上風力発電所を建設するつもりはない」と述べた。
ニューヨーク州の規制当局に提出された書類の中で、ノルウェーのエネルギー大手エクイノールや英国の石油大手BPなどの洋上風力発電開発者は、計画中の洋上風力発電所で発電される電力価格の54%引き上げを公式に要求している。
投資調査会社・モーニングスターのプロジェクト・ファイナンス兼インフラ担当副社長であるケビン・ベイク氏は、開発者には市場を放棄したり、プロジェクトをキャンセルしたりする可能性があるため、「北東部の政府関係者に電力価格を引き上げようとする圧力」をもたらす可能性があると『ユーティリティ・ダイブ』に語った。
また「北東部の州は、洋上風力発電を増やしたいという願望がある一方で、それが顧客の電力価格の上昇をもたらすという懸念を持っている。この2点をどのようにバランスをとっていくのかという課題を抱えている」とも語っている。
「電力価格の上昇を相殺するために、低所得層に州からより多くの支援を与える必要があるのだろうか?」
バイデン政権と多くの州によって確立された洋上風力発電の目標へのコミットメントは、オーステッド社のような開発業者が「これらのプロジェクトを少しでも経済的にするために、政府がどのような支援を提供するかを確認する」ために強力な交渉力を持つ可能性があることを意味する、とベイク氏は付け加えた。
「オーステッド社や他の開発者は、米国が再生可能エネルギーを増やすためにどれほど強力に投資しているかを知っている。洋上風力はその鍵となるものだ」とベイク氏は語った。
対戦相手は反撃する
ヴァン・ドリュー氏は、風力発電所が延期されるというオーステッド社の発表を勝利と特徴づけたが、プロジェクトが最終的に死ぬまで、反対派は圧力キャンペーンをあきらめないと付け加えた。
「これは私が見てきたプロジェクトの中で、まったく救いようのない数少ないプロジェクトの1つだ」とドリュー氏は語る。「バイデン政権とマーフィー州知事は気候変動を食い止めたいと言っているが、洋上風力発電は気候変動にまったく影響を与えない」
ヴァン・ドリュー議員は、今月末の天然資源委員会で議会の公聴会を招集する予定であり、会計検査院に対し、来年中にこの業界を評価するよう求めている。
(翻訳・大室誠)
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