中国の不動産業界が「崩壊」にむかって加速している。そのようななか、深刻な経営危機に陥っているのが中国の不動産大手・恒大集団(エバーグランデ)である。同集団の創業者・許家印氏は先月27日、警察に連行され、同集団の幹部もほとんどが身柄を拘束された。
許氏の逮捕によって今、恒大集団がもつ「神秘的な大型歌舞団」や、同集団の本部ビル上層階にある「秘密クラブ」が注目を集めている。広東省深セン市の「恒大集団ビル」の42階に、その「秘密クラブ」があるという。
「若い美女」を集めた専属歌舞団
恒大集団がもつ「神秘的な大型歌舞団」とは、全員が若い美女で構成されている同集団の専属歌舞団である。また「秘密クラブ」は、このクラブの正式名は明らかでないが、いわゆる「紅楼(こうろう)」つまり妓楼(ぎろう)とも呼ばれているものだ。
この「秘密クラブ」の機能については、「中国共産党の官僚や権力者、富豪たちをここへ招き(後で脅迫、あるいは便宜を図るよう利用するため)その弱みを握るプライベート(淫乱)な場面を、隠しカメラで撮影しているのではないか」とする分析もある。
なお、今回の許氏の逮捕によって、その「秘密クラブ」で撮影された映像も習近平氏側にわたっていると見られている。
歌舞団員は全て「許氏が自ら選抜」
許氏の逮捕により、恒大集団が運営していた「神秘的な大型歌舞団」の存在が明るみに出た。
団員は全員、若くて美しく、舞踊も卓越した女性ばかり。台湾メディアなどの報道によると「メンバーの選抜や育成については、全て許氏が自ら行っていた」という。
伝えられる話によると、許氏は42階の「秘密クラブ」に上り、ひとりで赤ワインを飲みながら歌舞団のショーを見るのを好んだ。気分が乗った時は、そこで歌をうたうこともあったという。
歌う許氏とともに、歌舞団の団長である白珊珊氏が写っている写真などがネットに流出している。
(恒大集団の歌舞団による舞台。撮影日時は不明だが、許家印氏のとなりには、ジャック・マー(馬雲)氏らしき人物も見える)
一般人は「立ち入り禁止エリア」
中国のセルフメディアによると、広東省深セン市の恒大集団ビルでは、一般人が上れるのは40階まで。その上の 41階や42階まで上れる人は、創業者の許家印氏以外に、許氏に選ばれた若い女性たちを含めて「ごくわずか」だという。
41階にはレストラン、喫茶室、ジム、カラオケなどがあり、許氏はよくここで「特別なゲスト」をもてなしていたという。その上の42階が「秘密クラブ」になっている。
台湾メディア「上報」7日付は、「恒大集団本社の42階にある秘密クラブハウスは、かつての賴昌星(らい しょうせい)がもっていた『紅楼』よりも、はるかに高級な『紅楼』だ」と分析する文章を掲載した。
この「紅楼」を「妓楼」と解釈すれば、そこには妓女(性的サービスをする女性)がいて、許氏がターゲットとする客を篭絡するための「特殊接待」がおこなわれていたことになる。相手の「弱み」をにぎるという意味では、一種のハニートラップであろう。
賴昌星という人物は、もとは中国の著名な実業家であり、約800億元ともいわれる関税を脱税した「遠華密輸事件」の主犯である。賴は一時カナダへ逃亡したが、後に中国へ強制送還され、現在は終身刑で服役している。
中共官僚の「弱み」を握り、のし上がった富豪
中国共産党の権力者や富豪たちを接待する高級クラブの多くで、その人物および周辺の関係者を後で脅迫して利用するため「恥ずべき醜態の証拠映像」を密かに録画していたことが、近年ニュースになっている。
台湾メディア「上報」の記者は、「恒大集団の秘密クラブでも、そのようなことが行われていた可能性がある」として、次のように指摘している。
「許氏の逮捕後、習近平氏はおそらく忠実な部下であり、反腐敗運動を担当する『中央規律検査委員会』トップの李希氏を通じて、恒大集団の本社ビル42階の監視映像を入手した可能性がある。これまでに、多くの官僚が許氏に弱みを握られていたかもしれない」
「中国の不動産王」と呼ばれた許家印氏は、河南省の貧しい農村の出身である。それにも関わらず、いったいどのようにして「恒大帝国」を築き上げ、中国随一の富豪にのし上がったのか。
その一因として、許氏の背後には、江沢民派の残存勢力である曾慶紅・曾慶淮兄弟、および賈慶林一族の影がある、と言われている。
また、恒大集団は全国で不動産を開発しているため、許氏は、各地の地方官僚と数多くの「親交」を深めた可能性が高い。その過程で、42階の「秘密クラブ」も使われたであろう。
巨大になり、潰された「不動産王」
もはやブラックジョークのような話だが、中国で「汚職は禁止」なのである。少なくとも、表向きは「禁止」ということになっている。イタチごっこではあるが「反腐敗キャンペーン」も行っている。
そのため近年、中央および地方政府の官僚のなかで「プライベートなクラブに出入りしている」と告発され、思わぬ批判を受けて「落馬(失脚)」する汚職官僚は少なくない。
台湾メディア「上報」の同記事は、「自社の生き残り、および発展を願う民営企業は、なんとしても公的プロジェクトの受注を獲得しようとしている。そのため、官僚や権力者に関係をつくり、恩を売ろうと必死になっている」と指摘した。
「恩を売る」とは、まさしくそこに贈賄や特殊接待が入ってくることになる。そうした腐敗の温床となる慢性的な土壌があるため、企業から中共官僚への「関係づくり」は今も行われている。農村出身の許家印氏は、まさにそれに成功し、巨万の富を得たのである。
許氏は、自身の手中にある「城」にターゲットを招き、美女をつかって骨抜きにしたうえ、腐敗官僚の「弱み」をつかんで、さらなる富を得ようとした。
しかし、この「不動産王」は潰された。もちろんそれは、中国で「正義」が実践された結果ではなく、巨大になりすぎて邪魔になったため消されたのである。
ただし、中国の不動産バブルの完全崩壊というかたちで、中国共産党は今後、大量の「返り血」を浴びることになる。それはおそらく、現体制の終焉を早めるうえで最大の作用をもたらすだろう。
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