来たるべき「疾病X」の到来に備えて、グローバル組織が恒久的な世界規模の管理体制を構築しようとしている。
今月17日、世界経済フォーラム(WEF)の「疾病Xへの備え」と題したセミナーで、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は、WHOが2018年から使用している「疾病X」という用語について、次のように説明した。
「私たちは、未知の疾病のためのプレースホルダー(仮に確保する時間や会議通知)を必要としていた。そのとき、私たちはそれを疾病Xと呼び、新型コロナのような疾病に備えていた。新型コロナは最初の疾病Xと呼べるかもしれない」
それ以来、WHO、WEF、世界銀行、G7、G20などのグローバル組織は、あらゆる形で、次なるパンデミックと闘うための世界規模のインフラ構築に取り組んできた。
100日ミッション
このようなウイルスの蔓延に対処するため、2017年のWEF年次会議(通称、ダボス会議)にて、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)が発足した。ノルウェーを本拠地とするCEPIは、グローバルな官民パートナーシップ機関を自称している。
2022年、CEPIは経営コンサルタント会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーと提携し、ワクチン生産を加速させるための「100日ミッション」を打ち出した。
この国際目標に関する報告書によると、新型コロナの塩基配列が利用可能になった日から、厳格な規制当局による緊急使用認可またはWHO緊急使用リストへの掲載までに、326~706日かかったという。
CEPIの計画は、100日以内にワクチン接種を可能にし、その間に「非医薬品的介入」を行い、疾病の蔓延を遅らせるというものだった。
新型コロナに対して講じられた非医薬品的介入には、検査、接触者の追跡、ソーシャル・ディスタンスの確保、監視、ロックダウン、渡航制限、家族行事や教会行事といった集会の禁止などがあった。
この100日計画において、研究者らは既存のワクチン技術を活用し、手続きを加速することになる。
異なる試験段階を1つの試験にまとめることで登録を加速し、数十か国の数百の病院が協力してワクチンのリスクとベネフィットを評価するWHOの国際的臨床試験「連帯トライアル」のような試験を展開するというのだ。
それから、企業や政府機関が、実験的なヒト用ワクチンの最初のバッチを迅速に製造する。
CEPIは「疾病Xが到来する前に、国際社会は迅速な対応プラットフォームを確立し、ワクチンライブラリを構築しなければならない」と述べている。
ひとたび疾病Xが発生すれば、焦点はプロトタイプワクチンから「病原体特異的」治療法の迅速な製造へと移ることになる。それから、当局者がワクチンを国民に配布し、その効果を評価することになる。
この報告書の著者は、「100日という目標の達成には、パンデミック発生前に広範に評価する必要がある多くのリスクが伴うし、この目標は適切な保護措置が講じられた場合にのみ追求されるべきものであると我々は認識している」と述べている。
100日ミッションを支援するために英国のポートンダウンに設立されたワクチン開発・評価センター(VDEC)は、かつて化学兵器を製造していたことで知られる厳重警備の施設で、200人以上の研究者が働いている。
同施設は、H5N1鳥インフルエンザウイルスのような脅威に対するワクチン開発に加え、ラッサ熱、ニパ熱、クリミア・コンゴ出血熱(ダニが媒介するウイルス)に対する医薬品の開発にも取り組む。これらの疾病の多くは、WHOの将来パンデミックを引き起こす可能性のある病原体のリストに載っている。
権限の一元化
様々な種類の新たなワクチンを普及させることに加え、パンデミックへの対応をWHOに一元化することも、「疾病X」をめぐる主な計画の1つだ。
現在、WHOの194加盟国の間で、パンデミック協定のいわゆる「ゼロドラフト」と現行の国際保健規則(IHR)の改正案が交わされている。同改正案は、今年5月の採択を目指している。
こうした動きの焦点は、WHOの指揮の下でサプライチェーンの調整を一元化すること、加盟国間で疾病や治療法に関する情報を共有すること、全ての国家間でヘルスケアの「公平性」を確保すること、そして加盟国内でパンデミック対応への「政府全体・社会全体のアプローチ」を構築することにある。
WEFやWHOをはじめとする世界の指導者たちが懸念しているのは、危機的状況において人々が誤った考えに惑わされることだ。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、ダボス会議の出席者に対し、「今後2年間の最大の関心事は、紛争でも気候変動でもなく、偽情報と誤情報だ」と語った。
この紋切り型の呼びかけに従って、WEFは報告書「グローバル・リスク・レポート2024」を発表し、誤情報が世界規模の最も深刻なリスクだと認める専門家1490人を調査した。
WEFの主席編集者であるゲイル・マーコヴィッツ氏は、同機関のポッドキャスト「ダボスラジオ」にて、上記報告書の著者とともにインタビューに応じ、「これまでになかった一大事は、今年は誤報や偽情報のリスクがあることだ」と述べた。
報告書著者の一人で、チューリッヒ保険のチーフ・リスク・オフィサーであるピーター・ギガー氏は、「インターネットは情報を民主化し、世界に透明性をもたらすと思われていたが、まったく逆のことが起きた」と述べた。
さらに、「人々は基本的に自分の幻想の中で生きており、外で何が起きているのか認識さえしていない」と続けた。
WHOもまた、誤情報を「取り組まなければならない脅威」と考えている。
パンデミック協定の草案は、「(加盟国は)定期的なソーシャルリスニングと分析を実施し、誤情報の流行とプロファイルを特定することになる」としている。
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